No.1285


「儀式に関する映画を片っ端から観てやろう!」と思い立って調べたところ、やはりフォーク・ホラーの類が多いです。14日の日曜日、Netflixで2017年のイギリス映画「ザ・リチュアル いけにえの儀式」を観ました。ネットでの評価は低いですが、なかなか面白かったです。
 
 本作は、アダム・ネヴィルが2011年に上梓した小説である『The Ritual』が原作です。監督はデヴィッド・ブルックナー。出演は一条真也の映画館「ジュラシック・ワールド/炎の王国」で紹介した2018年のアメリカ映画のレイフ・スポール、テレビシリーズ「ダウントン・アビー」のロブ・ジェームズ=コリアーなど。もともとイギリスでは2017年10月13日にeOne Filmsの配給で劇場公開されました。日本を含む国際配給権はNetflixに売られ、2018年に配信されています。
 
 映画.comの「解説・あらすじ」には、「スウェーデンの森の奥深くで想像を絶する恐怖に襲われた男たちを描いたイギリス製ホラー。パブで酒を酌み交わしながら、旅の行き先について話し合うルーク、ロバート、フィル、ハッチ、ドムら5人の友人たち。しかしその帰り道でルークとロバートが強盗に遭遇し、ロバートだけが殺されてしまう。事件から半年後、4人は最後の晩にロバートが行きたいと話していたスウェーデンへハイキングにやって来る。道中でトラブルに見舞われ森の奥深くへと迷い込んだ一行は、不気味な廃屋で一夜を明かすことになるが・・・・・・」とあります。
 
 ホラーには滅法うるさい(笑)わたしですが、この映画、なかなか怖かったです。何が怖いって森が怖かった。スウェーデンの森の不気味さに震え上がりました。じつは前日、『オカルト・クロニクル 暗黒録』松閣オルタ著(白夜書房)を読んだのですが、その中に「SOS遭難事件」のエピソードが書かれていました。1989年(平成元年)7月に、北海道の大雪山山系旭岳で倒木を積んで造られた「SOS」の文字と人骨・遺留品が発見された事件です。
 
 わたしには登山の趣味はありませんが、同書でこの事件の経緯を読んで「やっぱり山は怖いなあ。俺が登山なんかしたら確実に遭難するな」と思ったばかりでした。本作「ザ・リチュアル いけにえの儀式」の登場人物たちはスウェーデンの森でハイキングをしますが、それは「ハイキング」などという生易しいものではなく、ガチの「登山」でした。彼らが登山をすることになったのは、不幸な事故で亡くなったロバート(ロブ)の弔いの意味があったからです。この旅は、彼らにとってのグリーフケアでもありました。
 
 ホラー映画としての「ザ・リチュアル いけにえの儀式」には、先行するさまざまなホラー映画の影響を感じました。まず、一行は木に吊されたヘラジカの死体に出くわします。その木には奇妙な図形が彫り込まれていました。その日の夜、大雨に見舞われた一行は偶然見つけた廃屋で雨宿りをすることにするのですが、廃屋で見つけたネックレスには木に彫り込まれていたのとよく似た図形が彫り込まれていました。このあたりは「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999年)の影響が見えます。儀式でいけにえを捧げる神の到来を待つ場面は「キング・コング」(1933年)のコングの登場シーンを、神が近づくと各自のトラウマがフラッシュバックするところはスティーヴン・キング原作の「IT/イット」(1990年)を彷彿とさせました。
 
「ザ・リチュアル いけにえの儀式」が特に影響を受けていると感じたのは、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」です。1994年10月、モンゴメリー大学映画学科に在籍する3人の学生、女性監督のヘザー、撮影担当のジョシュア、録音担当のマイクは、魔女伝説を題材としたドキュメンタリー映画を撮影するために、メリーランド州バーキッツビルのブラック・ヒルズの森に向かいます。しかし、その土地に今なお残る伝説の魔女「ブレア・ウィッチ」の森の中で撮影を続ける3人は、不可解な現象に巻き込まれ想像を絶する恐怖を体験し、そのまま消息を絶ちました。事件から1年後、彼らが撮影したものと思われるフィルムとビデオが、森の中で発見されました。この映画は、事件を周知して真相が解明されることを遺族が望んだことから、彼らの残したフィルムを再構成して映画化したという設定です。 
 
 スウェーデンが舞台の北欧ホラーという点では、一条真也の映画館「ミッドサマー」で紹介した2019年のアメリカ・スウェーデン合作映画を連想しました。アメリカの大学生グループが、留学生の故郷のスウェーデンの夏至祭へと招かれますが、のどかで魅力的に見えた村はキリスト教ではない古代北欧の異教を信仰するカルト的な共同体であることを知ります。この村の夏至祭は普通の祝祭ではなく人身御供を求める儀式であり、白夜の明るさの中で、一行は村人たちによって追い詰められてゆくのでした。まさに物語の構造としては両作品は共通していますが、「ザ・リチュアル いけにえの儀式」の方が2年早く作られていますので、「ミッドサマー」のアリ・アスター監督が「ザ・リチュアル いけにえの儀式」の影響を受けた可能性がありますね。
 
「ザ・リチュアル いけにえの儀式」はもう9年も前の作品なので、少しだけネタバレしますが、森の中には怪物がいました。その怪物を崇拝する小さな村があり、村人たちは怪物に捧げる「いけにえの儀式」を行うのでした。仲間が次々に殺される中でただ1人生き残ったルーク(レイフ・スポール)は村の若い女性から怪物の正体が霜の巨人であることを知らされます。村人たちは霜の巨人から不死の能力を授かった代わりに、巨人に生贄を捧げる任を負っているのだという。若い女性は「村の一員になれば貴方は助かる」とルークに言いました。しかし、ルークは邪教に屈するつもりはなく、村から脱走する道を選ぶのでした。この霜の巨人は北欧神話の神であるロキの子孫だそうですが、ビジュアルがすごく良いですね。失礼ながら本作のようなB級映画にはそぐわない神々しいビジュアルで魅了されました。ちょっと、かの「もののけ姫」(1997年)のシシ神を連想させますが、もしかして影響受けているとか?
 
 本作のタイトルである「リチュアル」とは「儀式」という意味ですね。原題は『The Ritual』ですが、一条真也の読書館『RITUAL 人類を幸福に導く「最古の科学」』で紹介したディミトリス・クシガラタスの著書を思い出しました。著者は、コネチカット大学・実験的人類学研究室長。認知人類学者。同書のアマゾン内容紹介には、「世界を変えるための『最古の科学』が「儀式」だった――。生活や価値観が猛スピードで変化する現代。昔からある『儀式』は単調で、退屈で、無意味にみえる。でも、ほんとうに? 認知人類学者の著者は熱した炭の上を歩く人々の心拍数を測り、インドの祭りでホルモンの増減を測定。フィールドに実験室を持ち込んで、これまで検証されてこなかった謎めいた儀式の深層を、認知科学の手法で徹底的に調査する。ハレとケの場、両方にあふれる『儀式』の秘密と活用のヒントを探究する空前の書」と書かれています。非常に面白い本ですので、未読の方はぜひお読み下さい!