No.1287


 日本映画「祝山」をユナイテッドシネマなかま16で鑑賞。ネットでの評価が低い作品でしたが、やはりイマイチ。全然怖くないし、物語としての厚みを感じませんでした。
 
 ヤフーの「解説」には、「人が立ち入ってはならないとされる禁足地に足を踏み入れた人々の運命を描く加門七海の小説を映画化。旧友から届いた一通の手紙をきっかけに、ホラー作家がとある廃虚を巡る恐怖に巻き込まれていく。監督を務めたのは『チルドレン』などの武田真悟。『残穢 ―住んではいけない部屋―』などの橋本愛が主人公を演じ、『黄金泥棒』などの石川恋、『Love Will Tear Us Apart』などの久保田紗友のほか、草川拓弥、松浦祐也、利重剛らが共演する」と書かれています。
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「ホラー作家・鹿角南(橋本愛)のもとに旧友から一通の手紙が届く。そこにはある廃虚へ肝試しに行って以来、不可解な出来事が続いていることがつづられており、彼女はネタになればと軽い思いで肝試しのメンバーに会う。やがて一人が不可解な死を遂げ、ほかの者たちが次第に理性を失っていく。そして南にも異変が及び始める」
 
 一条真也の読書館『祝山』で紹介した加門七海のホラー小説です。そのブログ記事に、わたしは「いわゆる呪いの廃屋に足を踏み入れて祟られるという怪談なのですが、正直、それほどの怖さは感じませんでした。まあ、これが実話だと思えば、やはり怖いですが・・・・・・」と書きました。ちなみに「祝」という字を「はぶり」と読めば「葬」に通じ、「いはい」と読めば「位牌」に通じます。どちらにせよ、「祝」は死者と切っても切れない深い関係にあるようですね。さらに、「祝」という字は「呪」に似ています。「呪」も「祝」も神職者にかかわる字であり、「まじない」の意味を持ちます。
 
 本作というより原作の問題なのかもしれませんが、まず設定に問題があると感じました。「祝山」で行ったことがなぜ祟りのようなものを引き起こすのかという説明や推測がまったくなく、リアリティもありませんでした。怖さに現実味が薄いので、「祝山」での廃墟や神社の描写にゾクゾクするような怖さが描けていません。しかしながら、日本人の心の中にある神聖なものや場所を犯してはならないという部分はJホラーらしいといえば、らしいのかもしれません。
 
 本作には「何も起きてないのにずっと恐ろしい」とか「厭な怖さを持っていた」とかいう感想もあるようですが、確かに登場人物たちが不気味なので、ある種の不穏さや不安のようなものは描けていました。しかし、「憑き物がおちた」ように感じさせる場面の後に、ある登場人物がまだ取り憑かれているような行動をする場面など、怪談としての締まりのなさを感じてしまいます。単に観客にフラストレーションを与えるだけという印象だったのが残念でした。
 
 登場人物の中では、主人公である鹿角南の中学時代の同級生を演じた石川恋がダントツの存在感を放っていました。1993年に栃木県栃木市に生まれた彼女は、2013年12月発売の書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称「ビリギャル」)の表紙(カバーモデル)に起用されて以降、各種テレビドラマや映画、雑誌、バラエティ番組に出演。わたしが初めて彼女を知ったのは、2018年にフジテレビで放映されたドラマ「黄昏流星群~人生折り返し、恋をした〜」で中山美穂の娘役を演じたときです。当時25歳の彼女を見て、「おお、かわいい子だなあ!」と思いましたが、本作「祝山」での狂気の演技はまるで別人のようでした。
 
「祝山」はいわゆる「禁足地」をテーマにしたホラーです。禁足地とは、神聖な場所であることや危険であることなど、さまざまな理由から「一般の人が足を踏み入れてはならない」と定められている区域や場所のことです。その理由としては、まず、神域・聖域であるため。神様や霊魂が鎮まる場所とされており、穢れを持ち込まないため、あるいは祟りなどから身を守るために立ち入りが禁じられます。また、危険な場所であるため。火山ガスの噴出、崩落の危険、猛獣や毒蛇の生息など、安全上の理由で立ち入りが禁止されている場所です。さらに、自然環境の保全のため。自然破壊を防ぐためや、貴重な生態系を保護するために一般人の立ち入りが規制されているエリアです。
 
 禁足地とは反対に穢れた場所は「ケガレチ」と呼ばれますが、それを描いたのが一条真也の映画館「残穢ー住んではいけない部屋ー」で紹介した2016年の日本映画です。「祝山」のヒロインを演じた橋本愛が10年前に出演したホラー映画ですね。ミステリー小説家である私(竹内結子)に、読者の女子大生・久保さん(橋本愛)から自分が住んでいる部屋で変な音がするという手紙が届く。早速二人で調べてみると、そのマンションに以前住んでいた人々が自殺や心中、殺人などの事件を起こしていたことが判明。久保さんの部屋で生じる音の正体、そして一連の事件の謎について調査していくうちに、予想だにしなかった事実がわかります。小野不由美の小説『残穢』が原作ですが、主人公がホラー作家である点などが「祝山」と共通しています。f:id:shins2m:20211026160226j:plain
「サンデー毎日」2017年10月29日号

 
 
 さて、本作では「祝山」がじつはポジティブな名前ではなく、ネガティブな名前が変形したものという設定になっています。わたしは「祝い」と「呪い」は表裏一体といつも語っているので、そのへんが取り上げられるのかなと思ったら違いました。こう言っては失礼ですが、しょーもないダジャレみたいなダブル・ミーイングが使われていました。かつて、わたしは「サンデー毎日」に連載中だった「一条真也の人生の四季」に「呪いの時代に、祝いの光を!」というコラムを書きました。わたしは「祝う」という営み、特に他人の慶事を祝う心と行為が人類にとって非常に重要なものであると考えています。よく「ありがとう」は最強の言霊だなどと言われますが、「おめでとう」はそれ以上のパワーを秘めているように思えます。なぜなら、「ありがとう」はレシーブですが、「おめでとう」とはサーブだからです。 「祝」に似た字に「呪」がありますが、どちらも「兄」とつきます。漢字学の第一人者だった白川静によれば、「呪」も「祝」も神職者に関わる字であり、「まじない」の意味を持ちます。「呪い」も「祝い」ももともと言葉が「告(の)る」つまり「言葉を使う」という意味であり、心の負のエネルギーが「呪い」であり、相手を全否定し、闇をもたらします。一方、心の正のエネルギーが「祝い」であり、相手を全肯定し、光をもたらします。ネガティブな「呪い」を解く最高の方法とは、冠婚葬祭に代表される「祝い」を行うことなのです。じつは以前、NHKから「祝い」の語源についてTV解説をしてほしいというオファーがあったのですが、自分の専門外なのでお断りしました。