No.0039
『満月交感 ムーンサルトレター』上・下巻(水曜社)の校正を根を詰めて行っていたら、なんだか頭がクラクラしてきました。それで気分転換にDVDでも観ようと思い、買い置きしていた日本映画「小さなスナック」を観ました。
疲れたときに観るのは、字幕に気を取られずに済む日本映画に限ります。
青春ポップス映画の代表作
ブログ「小さなスナック」に紹介したパープル・シャドウズのヒット曲「小さなスナック」をテーマソングにした青春ポップス映画で、1968年の日活作品です。
監督は斎藤耕一で、主役は尾崎奈々と藤岡弘の2人です。後に「仮面ライダー」で1号ライダーの本郷猛を演じる藤岡弘の若き日の姿がとてもカッコ良くて驚きました。
その他の出演者は、ジュディ・オングにケン・サンダース、もちろんパープル・シャドウズも出ていますが、さらにはヴィレッジ・シンガーズも友情出演しています。
物語は、「小さなスナック」の歌詞の通りで、スナックで知り合った若い男女の恋愛を描いています。しかし、なんというか、予想とはまったく違った作品でした。鮮烈なカメラワークにシュールな演出・・・・・もはや、歌謡映画の枠を完全に超えてしまっています。
尾崎奈々演じる若い女性には、とんでもない秘密があったのですが、その背景も理由もまったく説明されず、唐突に物語が終わってしまうのです。
そして、そのラストシーンがなんとも衝撃的なのです。わたしは、もう仰天しました。
観終わった瞬間、「えっ、なんで? どうして、そうなるの!」と叫びたい気分でした。
日本のヌーベルヴァーグ?
まるで、ゴダールの映画を思わせるような不条理な世界が展開されたのです。
ジャン=リュック・ゴダールは、いわゆるヌーベルヴァーグの旗手とされます。そう、この日本映画「小さなスナック」には、ヌーベルヴァーグの匂いがプンプンするのです。
ゴダールの代表作「気狂いピエロ」は65年の作品ですが、3年後に作られた「小さなスナック」は明らかに影響を受けていると思います。
なんだか、藤岡弘の顔がジャン・ポール・ベルモンドに見えてきました。
斎藤耕一監督は、この作品が2作目でしたが、4年後の72年には「旅の重さ」、さらに翌年の73年には「津軽じょんがら節」という日本映画史に残る名作を作っています。
その才能の萌芽は「小さなスナック」にもしっかり見られます。
特に、まだ10代だったジュディ・オングがスナックのカウンターで長々と語るモノローグの場面があるのですが、非常に洗練されたシーンでした。
まるでフランス映画の名作のような印象的な場面でした。
若きジュディ・オングの輝くばかりに可愛いこと!
尾崎奈々は、スラリとした可憐な清純派女優として人気があった人です。多くの映画、TVドラマ、舞台などで活躍しましたが、73年に映画監督の石原興と結婚して引退。
そして、同年の68年にデビューしたばかりのパープル・シャドウズのぎこちない演技には微笑んでしまいます。68年当時、すでにグループ・サウンズの人気は下降線をたどっていました。パープル・シャドウズは他のGSとは異なるハワイアン的なムード歌謡、あるいはフォークソングのテイストで注目を集めました。しかし、デビュー2曲目の「小さなスナック」の大ヒットの後は、残念ながらヒット曲に恵まれませんでした。
ギターの今井久のテクニックには定評があり、80年代には「今井久&パープル・シャドウズ」名義で活動しました。今井久の素晴らしいギター技術は、「小さなスナック」のイントロにもよく表れています。なお、ロス・インディオス&シルヴィアの79年の大ヒット曲「別れても好きな人」は、もともとパープル・シャドウズの曲です。
本来はシャッフルのリズムでしたが、ロス・インディオス&シルヴィアはそれを大人のムード歌謡調にアレンジして歌い、大ヒットを飛ばしたのです。
それにしても、映画「小さなスナック」には、いろんな意味でショックを受けました。 まだまだ未見の面白い映画って、あるものなのですねぇ。
いやぁ、映画って本当にいいものですねぇ。
それでは、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ・・・・・(笑)。