No.462


 3月22日は長女の誕生日です。おめでとう!
 すっかり大人の女性に成長した彼女ですが、小さい頃にはピアノを習っていました。発表会にも行きましたが、自分の娘がピアノを弾く順番が近づくとドキドキしたことを思い出します。そんな思い出が甦る日本映画をDVDで観ました。

 ブログ「映画監督、来る!」で紹介した雑賀俊朗監督の「カノン」(2016年)です。中国のアカデミー賞とされる金鶏百花映画祭の国際映画部門において、 最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀女優賞の三冠を達成した作品です。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「東京と石川県・富山県など北陸を舞台にしたヒューマンドラマ。祖母の葬式で集まった、東京、金沢、富山それぞれに暮らしていた3姉妹が、死んだと聞かされていた母親の存在を知ることで自身を見つめ直していく姿を追い掛ける。メガホンを取るのは、『リトル・マエストラ』などの雑賀俊朗。『飛べ!ダコタ』などの比嘉愛未、『落語娘』などのミムラ、『呪怨 ―終わりの始まりー』などの佐々木希が3姉妹役で共演する。彼女らが織り成す温かな物語に加え、ロケが敢行された北陸の美しい風景も見もの」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「東京で生活している専業主婦の長女・宮沢紫(ミムラ)、富山県黒部市に暮らす小学校教師の次女・岸本藍(比嘉愛未)、金沢の老舗料亭でおかみとして働く三女・岸本茜(佐々木希)。祖母の葬儀で久々に顔を合わせた3姉妹は、遺書に死んだと聞かされていた母・美津子(鈴木保奈美)が生きていると記されていて驚く。父の死を機に酒に溺れ、火事で重傷を負い、自分たちから離れていった美津子の軌跡を知った三人は、彼女のいる富山の介護施設へと向かう。だが、彼女はアルコール性認知症が原因で娘たちのことを認識できず・・・・・・」

「カノン」を観終わって、わたしは「自分のために作られた映画だ!」と思いました。なにしろ、この映画は葬儀のシーンから始まって、結婚式のシーンで終わるのです。見事な冠婚葬祭映画なのですが、冒頭の佐々木希の喪服姿があまりにも美しく、見とれてしまいました。佐々木希といえば、一条真也の映画館「縁 The Bride of Izumo」で紹介した日本映画で白無垢を着た美しい花嫁を演じましたが、「カノン」での喪服も似合っていました。「縁 The Bride of Izumo」は2016年1月16日公開、「カノン」は2016年10月1日公開ですから、彼女のファンは同じ年に彼女の白無垢姿と喪服姿を拝めたことになりますね。

 三女・茜を演じた佐々木希だけでなく、長女・紫を演じたミムラも、次女・藍を演じた比嘉愛未も美しいです。一条真也の映画館「海街diary」で紹介した映画に登場する綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずの四姉妹に勝るとも劣らない美人三姉妹であります。というのも、海街四姉妹の身長はバラバラですが、カノン三姉妹の身長はほぼ同じなのです。これは斜めのアングルで3人を一緒に撮るシーンのために、雑賀監督が同身長の女優さんを揃えたのだそうです。さすが!

「カノン」には三姉妹を演じた3人の美女の他にも、古村比呂、島田陽子、多岐川裕美、鈴木保奈美といった女優陣が脇を固めています。中でも、アルコール性認知症の母親を演じた鈴木保奈美の熱演がすごくて、もはや怪演レベルでした。悪魔が乗り移ったような恐ろしい形相でベッドに縛り付けられて暴れるシーンなど、「エクソシスト」を連想してしまったほどです。しかし、それだけ彼女の演技力が卓越しているということです。それにしても、ドラマ「東京ラブストーリー」の赤名リカ役で「カンチ、セックスしよ!」とか言ってた彼女がこんな凄い演技をする女優になっていたとは!

 しかし、この映画、ただの美女を楽しむお花畑映画ではありません。アルコール依存症、モラルハラスメント、不倫、自死など、多くの深刻な問題がテーマとして扱われているのです。連続TVドラマではなく、2時間の映画ですので、ちょっと詰め込み過ぎではないかとも思いますが、脚本的には厳しかったのではないでしょうか。三姉妹が「カノン」を連弾するラストシーンも容易に予想がつき、「3人が並んでピアノを弾くだけで感動を呼ぶのは難しいだろうなあ」と思いながら観ていました。ところが、その通りの展開になったにも関わらず、わたしは非常に感動しました。なぜなら、三姉妹が「カノン」を弾いた舞台が結婚式だったからです。結婚式ほどハッピーエンドの場は他にありません。

「カノン」の曲そのものにも静かな感動をおぼえました。正式名は「3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調」といい、ドイツの作曲家ヨハン・パッヘルベルが1680年頃に作曲した室内楽曲です。特に第1曲の「カノン」は一般に「パッヘルベルのカノン」の名で広く親しまれています。しばしばクラシック音楽の入門曲として取り上げられ、また、ポピュラー音楽において引用されることも多いそうです。そういえば、わたしが冬にカラオケでよく歌う山下達郎の「クリスマス・イブ」には、間奏に達郎自身の多重コーラスによる「パッヘルベルのカノン」が引用されています。ラストシーンはバレバレでしたが、結婚式という場と「カノン」の音楽の力で感動させてくれました。

 さて、映画「カノン」はテーマを盛り込み過ぎではないかと述べましたが、その中で、アルコール依存症、モラルハラスメントの描写はよく描けていたと思います。鈴木保奈美演じる母親の美津子が1年間の禁酒を誓って、何度も直前で挫折したりするシーンはとてもリアルでした。彼女の更生を支える職場の女経営者を島田陽子が演じましたが、従業員の幸せを願って親身に世話をする姿勢には泣けてきます。
 それから、モラハラの方ですが、ネタバレ覚悟でいくと、長女・紫の旦那がすごく嫌な野郎です。紫は最後に旦那の精神的暴力と闘うのですが、ゴルフクラブで旦那のスマホを破壊します。でも、旦那の部屋に大事に飾ってある蝶の標本箱を叩き壊してやったほうが、より相手にダメージが与えられたと考えるのはわたしだけでしょうか?

 あと、もう少し深く描いてほしかったのは死者の視線です。比嘉愛未が演じる次女・藍が恋人の実家を初めて訪れたとき、リビングルームには彼の父親と妹の遺影が置かれていました。彼から「妹は陸上の選手だったが、スパルタ教師の行き過ぎた指導で熱中症で帰らぬ人となった」という話を聞きます。その後、古村比呂演じる彼の母親と3人で食卓を囲んでいるとき、母親が「やっぱり女の子はいいねえ。おるだけで、桃の花が咲いたようだ」と言うシーンがあります。明らかに彼女は、亡くなった娘と藍を重ね合わせて、再び娘を持つことができるという期待を抱いています。その亡き女の子の視線をもっと描いてほしかった。たとえば、フォトスタンドに入れられた遺影だけでなく、仏壇を登場させてほしかった。だって、そこは富山なのですから。
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「サンデー毎日」2018年2月25号



「サンデー毎日」にも書きましたが、わたしは北陸の地でも冠婚葬祭事業を営んでいる関係で、ひんぱんに金沢を中心とする北陸を訪れます。本願寺第八世の蓮如が加賀との境に位置する越前・吉崎に御坊を構えた中世、北陸は浄土真宗の教えに染め上げられていきました。そんな信心深い土壌ゆえ、現代でも北陸の人々の心に真宗の根が張っていて、北陸は「真宗王国」と呼ばれています。厚い信仰心と情熱は仏壇づくりにも向かい、数々の優れた技と美を生み出しました。北陸の人々は仏壇をこよなく大切にします。いまでも富山県の普通の農家などにも、ちょっと不釣り合いなほど大きな仏壇が飾られていて驚くことがあります。藍の恋人とその母は、2人の死者のまなざしを感じながら暮らしているわけですから、そこに仏壇があれば、もっと彼らの悲しみに深みが出たような気がします。
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死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)



 ところで、雑賀監督に以前お会いしたときに拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)をお渡ししていたのですが、ようやく読んでいただいたようで、昨日、感想メールが届きました。それには「素晴らしかったです!!佐久間社長の『死と愛』から映画を見つめる視点。死に関わっているから出来る発想や斬り方。斬新で、思慮深く、それでいて映画愛や人間愛に溢れている。社長の知識や知見の広さ、人間哲学や人生哲学にがにじみ出ていていて、驚きました。雑賀も見ていない作品が半分ほどあり、解説を読んでいると見たくなります。また、知っている作品も、改めて目線を変えてみてみようかなと思いました。ありがとうございます」と書かれていました。プロの映画人に認めていただき、嬉しい限りです。雑賀監督、こちらこそ、ありがとうございます!

 雑賀監督はまた、同書の中で、わたしが小津安二郎へのリスペクトを綴っていたことに言及され、「雑賀の前作『カノン』ですが、金鶏百花賞の授賞式に、審査員からこのような事を言われました。『SFはハリウッド、アクション(カンフー含め)は中国、家族映画は、小津監督から伝統的に日本が上手い』と言われました。佐久間社長の愛してやまない小津監督のお名前を引き合いに出していただき、本当に光栄に思いました」と述べておられました。そう、わたしは、小津安二郎の映画が昔から大好きで、代表作の「東京物語」をはじめ、ほぼ全作品を観ています。黒澤明と並んで「日本映画最大の巨匠」であった彼の作品には、必ずと言ってよいほど結婚式か葬儀のシーンが出てきました。小津ほど「家族」のあるべき姿を描き続けた監督はいないと世界中から評価されていますが、彼はきっと、冠婚葬祭こそが「家族」の姿をくっきりと浮かび上がらせる最高の舞台であることを知っていたのでしょう。

 葬儀に始まり、結婚式に終わる「カノン」はまさに小津映画の現代版であると思います。そこで、もし小津安二郎が「カノン」の監督だったら、どんなキャストを考えるでしょうか? 小津映画に出演経験のある女優でリストアップしてみました。なお、( )内は生年です。祖母・辰子は杉村春子(1906年)あるいは田中絹代(1909年)、母・美津子は原節子(1920年)、長女・紫は新珠三千代(1930年)、次女・藍は超激戦で、有馬稲子(1932年)、岸惠子(1932年)、岡田茉莉子(1933年)、若尾文子(1933年)、司葉子(1934年)の中から1人。それにしても、これだけの美人女優がほぼ同世代とは・・・どれだけ充実してたんだ、日本映画の黄金時代!(笑)。

 最後に、三女・茜は小津映画の主演女優では最年少といえる岩下志麻(1941年)で決まり。これが小津版「カノン」の私的キャスト案ですが、雑賀監督いかがですかね?  身長的には新珠三千代、岸惠子、岩下志麻の三姉妹が良いのではないかと思うのですが・・・・・・今度、お酒でも飲みながら、ゆっくり話し合いましょうよ!

  • 販売元:KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日:2017/07/28
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