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「DIGGER/ディガー」

No.1417

トム・クルーズがついにアカデミー主演男優賞を獲得するのではないかと噂されているアメリカ映画「DIGGER/ディガー」をTジョイ・リバーウォーク北九州で観ました。日米ともに賛否両論、興行的には大苦戦している作品ですが、わたしは面白かったです。

ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『ミッション:インポッシブル』シリーズなどのトム・クルーズと、2度のオスカーに輝くアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督が組んだコメディー。石油採掘会社のCEOの強欲な行動によって地球滅亡の危機が迫り、大統領から事態の収拾を命じられた彼が世界を救おうとする。共演には『バートン・フィンク』などのジョン・グッドマン、『落下の解剖学』などのザンドラ・ヒュラー、『ブゴニア』などのジェシー・プレモンス、『シリアスマン』などのマイケル・スタールバーグらがそろう」と書かれています。

ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「石油採掘会社のCEOとして優雅に暮らすディガー・ロックウェル(トム・クルーズ)は、傲慢な権力者でもあった。あるとき、部下から緊急事態の連絡を受け石油の採掘停止を提案されるも、利益を上げることしか頭にない彼は却下する。しかし、事態は制御不能な地球規模の大災害へと悪化し、ディガーは大統領から事態の収拾を命じられる」

この映画には大きなサプライズがあります。ネタバレをする気はありませんが、本作が二重構造になっていることだけは明かします。いわゆる「入れ子式」になっているのですが、これが「最高に素晴らしい!」と絶賛する声と「わかりにくいし、不必要!」と否定する声に見事に分かれています。わたしは、どちらかというと後者でした。冒頭の芝居が大仰な演技の連続で、ちょっと引いてしまいました。後から考えると、あれは普通の映画のシーンではなかったですね。まるで舞台劇のようでした。舞台といえば、本作には「愚者の化石(Fossil  Fools)」という演劇作品が登場します。これ以上書くとネタバレになるので控えます。

トム・クルーズが演じるディガー・ロックウェルは、石油採掘会社のCEOを務めていますが、祖父の代から石油産業を手掛けている石油王です。映画の冒頭に南部訛り、太った体型、白髪のコームオーバー(オールバックに撫で付けた髪型)といった姿で登場する彼は、白い愛猫マギーと共に、動物の剥製と銃が置かれた豪邸に暮らしています。傲慢で欲深い権力者であるディガーは自らの利益しか考えない身勝手な行動で地球を滅亡の危機に陥れた後、コンプソン大統領(ジョン・グッドマン)らアメリカ政府のトップから事態の収拾を命じられ、シャベルを片手に世界を救うために奔走。彼は、科学者の警告や数字を無視し、人種差別的な言動もみせる強烈なキャラクターとして描かれます。

 

本作を鑑賞した日は寝不足で疲れていたこともあり、前半は睡魔に襲われました。しかし、中盤以降、俄然面白くなって、スクリーンから目が離せなくなりました。特に、ディガー・ロックウェルが公聴会のような場所で信じられないほどの熱量の演説を行うシーンは観ていて震えが来ました。もともとトム・クルーズの大ファンですが、「こんな凄い俳優だったのか!」と改めて痛感しました。あれは、間違いなく映画史に残る大演説でした。ものすごく長いセリフなのですが、ただの長演説ではありません。どんなに批判を浴びても自身の信念を堂々と述べています。また論理構成がしっかりしており、強い説得力がありました。

ディガー・ロックウェルの奇跡の大演説を聴いて、わたしはアメリカ映画の名作である「スミス都へ行く」(1939年)の演説シーンを連想しました。同作では、主人公ジェフ・スミスが上院議会で自分の潔白と民主主義の理想を訴え続けます。汚職側に追い込まれたスミスが、議場で長時間話し続けることで採決を止めようとするのです。最後は声も体力も尽き、倒れる寸前まで訴え続けるのが同作の最大の見どころです。このシーンは、権力や世論に押しつぶされそうになっても、一人で信念を守る姿を描いており、世界中に感動を与えました。「スミス都へ行く」という作品全体の中心にあるのは政治腐敗への抵抗で、演説場面がその頂点です。

ディガー・ロックウェルの演説内容は、ドキュメンタリー映画史上に残る記録的大ヒットとなった2006年のアメリカ映画「不都合な真実」への反論のようにも思えました。地球の温暖化によって引き起こされる数々の問題に心を痛め、人々の意識改革に乗り出すべく、環境問題に関するスライド講演を世界中で行うアメリカ元副大統領アル・ゴアの闘いを追いながら、人類が滅亡するまでの真実のシナリオを明らかにしていく内容です。同作は第79回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞・アカデミー歌曲賞を受賞し、環境問題啓発に貢献したとしてゴアはノーベル平和賞を授与されました。あれからちょうど20年が経過した今、ディガーの魂の演説が観客の心を揺さぶります。

本作「DIGGER/ディガー」を観た多くの映画レビュアーは、1964年のアメリカ・イギリス合作のブラックコメディ映画「博士の異常な愛情」を連想したようです。監督は、スタンリー・キューブリック。「博士の異常な愛情」が東西冷戦や核戦争の不条理を描いたように、本作は環境危機や大都市に迫る巨大氷河・メタンガス爆発といった地球規模の危機を前にした人間の滑稽さや利己性をブラックに描き出しています。主演のトム・クルーズが見せる怪演や、巨大な危機に対する皮肉な構造が、キューブリック作のシニカルなトーンと重なることから、一部の映画批評やレビューで「トム・クルーズ版『博士の異常な愛情』」と称されています。

トム・クルーズは本作への出演により、アカデミー主演男優賞の受賞候補として話題に挙がっています。トム自身は過去にアカデミー主演男優賞・助演男優賞にノミネート歴はあるものの演技賞の受賞経験はなく、2025年11月にアカデミー名誉賞を受賞しています。最近はすっかりアクションスターの代名詞のようになったトムですが、本作にアクションシーンは一切登場せず、トムはひたすらシリアスな熱演、あるいは怪演を見せています。しかし、2026年10月2日に北米で公開されましたが、オープニング週末の興行収入は4位と苦戦しており、作品の評価も賛否両論を呼んでいます。しかし、トム・クルーズの俳優生活45年の集大成である本作で、ぜひ、アカデミー主演男優賞を獲得してほしいですね。あの大演説シーンには、それだけの価値あり!

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