HOME

「キリコのタクト~YELL~」

No.1419

 

10月12日は「スポーツの日」でしたが、朝一番で軽く筋トレした後、日本映画「キリコのタクト~YELL~」をシネマワールド小倉で鑑賞。一条真也の映画館「レッドシューズ」で紹介した小生もチョイ役で出演した映画のメガホンを取った雑賀俊朗監督の最新作で楽しみにしていましたが、素晴らしい感動作でした。なお、本作は今年観た190本目の映画です。

ヤフーの「解説」には、「音楽グループ『いきものがかり』が第76回NHK全国学校音楽コンクール・中学校の部課題曲として制作した楽曲『YELL』に着想を得たドラマ。全国合唱コンクールで数々の賞を獲得してきた音楽教師から指導を受けたかつての学生たちが、消息不明となった彼女の行方を追う。メガホンを取るのは『レディ加賀』などの雑賀俊朗。『グランメゾン・パリ』などの鈴木京香、『俺ではない炎上』などの藤原大祐のほか、榊原郁恵、小西博之、小泉今日子らが出演する」と書かれています。

ヤフーの「あらすじ」は、「音楽出版社に勤める北村翔(藤原大祐)は、雑誌『音楽ジャーナル』の特集企画『伝説の音楽教師』で取り上げられることになった原田貴理子(鈴木京香)という元音楽教師への取材を任される。原田は全国合唱コンクールで数々の賞を獲得して『優勝請負人』とまで呼ばれた教師で、北村も学生時代に彼女の指導を受けて全国合唱コンクールで優勝していた。退職後に消息不明になっている原田の行方を追う北村は、かつての合唱部のメンバーだった同級生と再会して一緒に彼女を探す旅に出る」です。

現在、日本映画やアメリカ映画をはじめ、話題作が目白押しです。本作は北九州内のシネコンで1日1回だけ上映されています。正直、タイトルやテーマも地味ですし、「あらすじ」を読んでも、そんなに興味が沸く作品ではありません。親交のある雑賀監督の最新作でなければ、きっと鑑賞していなかったと思います。でも、鑑賞後は心の底から「観て良かった!」と思いました。キリコ先生の「人には人生で何度か『まいった!』という時がある。そのとき、その人は試されている」とか「その人の人生に責任は持てなくても、応援はできる」などの言葉が印象的でした。作品全体に深い人間愛が溢れており、こういう映画こそ「こころの王国」に通じているのだと思いました。ちなみに、キリコの教え子4人組の名前が東山・西川・南野・北村で、「東西南北」を成しているのはご愛敬ですね。監督のアイデアでしょうか?

「キリコのタクト~YELL~」は音楽映画ですが、主演の鈴木京香はピアノの猛特訓を行ったそうです。雑賀監督には、一条真也の映画館「カノン」で紹介した2016年の音楽映画があります。ミムラ・比嘉愛未・佐々木希が演じる3姉妹が名曲「カノン」をピアノ伴奏する感動作です。祖母の葬式で集まった、東京、金沢、富山それぞれに暮らしていた3姉妹が、死んだと聞かされていた母親の存在を知ることで自身を見つめ直していく姿を追い掛けます。同作は、中国のアカデミー賞とされる金鶏百花映画祭の国際映画部門で 最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀女優賞の三冠を達成しています。

雑賀監督は、これまで「カノン」で佐々木希、「レッドシューズ」で朝比奈彩、一条真也の映画館「レディ加賀」で紹介した2024年の映画で小芝風花・・・・・・常に時代の最先端を行く若手美人女優を主演に据えて映画を作り続けてきました。しかし、本作「キリコのタクト~YELL~」では、現在58歳の鈴木京香を主演に素晴らしいヒューマンドラマを完成させてくれました。本作には、他にも雑誌の編集長役で60歳の小泉今日子、さらにはキリコの音楽学校の先輩役で69歳の名取裕子が存在感を示しています。若手美人女優だけでなく、熟女(失礼!)女優たちも見事に使いこなす雑賀監督の手腕に感服しました。

とはいえ、本作には若くて美しい女優さんも登場します。井頭愛海です。彼女の美貌は一瞬でわたしの目を釘付けにしました。そして、「雑賀監督、やるなあ!」と思いました。彼女は2001年3月生まれで、現在25歳。小学生の時にミュージカル「アニー」を見てミュージカル女優に憧れたそうです。2012年、第13回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞。同コンテストのファイナリストにより結成されたアイドルグループ「X21」のメンバーとなりました。2013年、「おしん」で映画初出演。2016年、第88回選抜高等学校野球大会の「センバツ応援イメージキャラクター」に選ばれました。同年、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」で、主人公である坂東すみれの娘・さくら役に起用。2020年公開の映画「鬼ガール!!」では映画初主演を果たしています。

美しく可憐な井頭愛海ですが、本作では、父親が家を出て行ったことが原因で心を病んだ母親をケアする西川花蓮を演じていました。花蓮はヤングケアラーなのですが、そういえば一条真也の映画館「汝、星のごとく」で紹介した日本映画にもヤングケアラーが登場しました。主演の広瀬すずが演じた暁海です。彼女の母親(木村佳乃)は夫が不倫して家を出て行ったことが原因で心を病んだのです。ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されている家事や家族の介護、障害・病気の家族の世話などを日常的に過度に行っている子どもや若者のことです。花蓮も、暁海も、高校生です。高校生、それも卒業を控えた3年生でヤングケアラーになると、当然ながら進路の選択が狭められます。必死で母親を支える花蓮の姿は、映画だとわかっていても辛かったです。

『歌(うた)』の語源は『訴える(うったえる)』ことだと生徒に伝えるキリコは、自分の全人生をかけて生徒への音楽指導を行います。音楽教室の中だけではなく、野外でも合唱の練習に取り組みます。それは、キリコが大好きなある映画の影響だと作中で明かされます。その映画とは、一条真也の映画館「サウンド・オブ・ミュージック」で紹介した音楽映画の金字塔でした。同作は、大ヒットしたブロードウェイ・ミュージカルの映画化。1938年のオーストリア、院長の命により厳格なトラップ家へ家庭教師としてやって来た修道女マリア。彼女の温かい人柄と音楽を用いた教育法で、七人の子供たちはマリアの事が好きになり、トラップ一家は素晴らしい合唱隊となるのでした。同作で、マリアは野外で子どもたちに歌を指導します。「キリコのタクト~YELL~」での野外練習シーンでは、キリコがマリアに、鈴木京香がジュリー・アンドリュースに見えてきました。

そして、本作のタイトルにもなった名曲が「YELL」です。「いきものがかり」の代表的なバラードナンバーですが、2009年9月23日に両A面シングル「YELL/じょいふる」としてリリースされました。作詞・作曲は水野良樹、編曲は松任谷正隆。第76回NHK全国学校音楽コンクール(2009年度)中学校の部の課題曲として書き下ろされました。そのため、全国の学校の合唱コンクールや卒業式で定番の合唱曲として歌い継がれています。「サヨナラは悲しい言葉じゃない それぞれの夢へと 僕らを繋ぐ YELL」というフレーズに代表されるように、単なる別れの寂しさだけでなく、未来へ向かってお互いに独りで歩み出す「孤独な夢」を肯定し、背中を押し合う強い絆が描かれています。

『愛する人を亡くした人へ』(PHP文庫)

「YELL」の「サヨナラは悲しい言葉じゃない」というフレーズは、拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林・PHP文庫)のメッセージでもあります。同書の最後には「また会えるから」というわたしの詩が添えられています。考えてみれば、世界中の言語における別れの挨拶に「また会いましょう」という再会の約束が込められています。日本語の「じゃあね」、中国語の「再見」もそうですし、英語の「See you again」もそうです。フランス語やドイツ語やその他の国の言葉でも同様です。これは、どういうことでしょうか。古今東西の人間たちは、つらく、さびしい別れに直面するにあたって、再会の希望をもつことでそれに耐えてきたのかもしれません。

でも、こういう見方もできないでしょうか。二度と会えないという本当の別れなど存在せず、必ずまた再会できるということを人類は無意識のうちに知っているのだと。その無意識の底にある真理が、別れの挨拶に再会の約束を重ねさせているのだと。わたしたちは、別れても、必ずまた、愛する人に再会できるのです。そういった想いを詩に込めました。その詩にココペリが曲をつけてくれたのがグリーフケアソング「また会えるから」です。大切な人を失って、悲しみの淵にいる方々への「YELL」として生まれた歌です。よろしければ、YouTube動画で聴いてみて下さい!

HOME
Copyright © 2017 - 2022 Shinya Ichijyo’s Movie Theater All right reserved.