9月1日の夜、アメリカ映画「ラスト・サバイバー」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉のIMAXで鑑賞。最大の1番シアターに観客はわたしを入れて2人だけ。映画館のラスト・サバイバーになった気がしました(苦笑)。SFですが内容もイマイチで、疲れもあって前半は爆睡しました。
ヤフーの「解説」には、「『ブレードランナー』などのリドリー・スコット監督が、ピーター・ヘラーの小説を映画化。未知のパンデミックにより荒廃した世界で、妻を失った悲しみを抱えながらサバイバル生活を送るパイロットがわずかな希望を追い求める。『フランケンシュタイン』などのジェイコブ・エロルディが主人公を演じ、『ボーダーライン』シリーズなどのジョシュ・ブローリン、『サブスタンス』などのマーガレット・クアリーのほか、オスカー俳優のアリソン・ジャネイ、ガイ・ピアースらが出演する」とあります。
ヤフーの「あらすじ」は、「未知のパンデミックにより人類の大半が死滅し、人間性を失った者たちが争い合う荒廃した世界。パイロットのヒッグ(ジェイコブ・エロルディ)は妻を亡くした悲しみを抱えながら、元軍人のバングリー(ジョシュ・ブローリン)をはじめ生き残った人々と協力することで日々を生き延びていた。そんな中、小型機の無線に届いた謎の声に導かれ、彼は絶望に覆われた世界のどこかにまだ残されているかもしれない希望を求めて飛び立つ」です。
原作はピーター・ヘラーによるディストピア小説です。邦訳はハヤカワ文庫から上下巻で刊行されており、上巻はアマゾンの内容紹介に「巨匠リドリー・スコットが映画化したベストセラー小説。文明崩壊後のアメリカ。無線で繋がった『誰か』を求め、男は旅に出た。9年前に発生した謎の疫病により人類がほぼ滅亡した世界。コロラド州で生き延びる飛行機乗りのヒッグもまた、妻や友人を失っていた。愛犬ジャスパーとガンマニアの隣人バングリーだけを話し相手に暮らす彼は、数年前に無線から聞こえてきた呼びかけを忘れられずにいた。どこか遠くに、まだ誰かいるのか? ヒッグはセスナ機で新たな地へ飛び立つが・・・・・・。文明が崩壊したあとの世界の絶望と祈りを描く傑作長篇。『いつかぼくが帰る場所』改題」と書かれています。
下巻はアマゾンの内容紹介に「各国の文学賞を賑わせた、リドリー・スコット監督映画原作。失う痛みを知ってなお、人を愛せるだろうか――男の答えは?
無線から聞こえた声を追い、ついに飛び立ったヒッグ。彼を待っていたのは、農場で動物たちと暮らしながらも、喪失の痛みを抱える父娘だった。ヒッグは危険な侵入者として銃を向けられながらも、父娘と過去を語り合い距離を縮めていった。新たな出会いに見出した希望は、しかし思わぬかたちで試されることになる・・・・・・。失う苦しみを知りつくしてなお、人は誰かを愛することができるのか――絶望と再生を詩情豊かに描く傑作」と書かれています。
ピーター・ヘラーは、コロラド州デンバー在住の作家。ダートマス大学を卒業後、アイオワ大学のライターズ・ワークショップで美術学修士号を取得。自然や探検を題材にした作品で高い評価を受け、2010年にナショナル・アウトドア・ブック・アワードを受賞。2025年にはアメリカ西部文学への貢献によりフランク・ウォーターズ賞を、ニューイングランド文学への貢献によりサラ・ジョセファ・ヘイル賞を受賞しています。2012年に発表した初の小説である本書はニューヨーク・タイムズ・ベストセラーとなりました。物語の舞台は2035年です。9年前に謎の疫病が発生して人類がほぼ滅亡したという設定ですが、パンデミックは2026年つまり現在発生したということになりますね。
パンデミック後の世界を描いたディストピア映画に一条真也の映画館「イット・カムズ・アット・ナイト」で紹介した2017年のアメリカ映画があります。得体の知れない何かにおびえる2組の家族を描く心理スリラーです。森の中の一軒家に住むポール(ジョエル・エドガートン)一家のもとに、ウィル(クリストファー・アボット)と名乗る男とその家族が、正体不明の“それ”から逃げようと助けを求めてきます。ポールは、“それ”が侵入しないように『夜は入口の赤いドアを常に施錠する』というルールに従うことを条件に、彼らを受け入れました。ところがある日の夜、赤いドアが開いていたことがわかるのでした。
「イット・カムズ・アット・ナイト」では、人類の中で残り少ない生存者同士が腹の探り合いをします。「相手が病気ではないか?」「自分を殺そうとしているのではないか?」と疑い、常に疑心暗鬼の関係が続きます。そのストレスが限界を突破したとき、お互いに強烈な殺意を相手に抱くのでした。本作「ラスト・サバイバー」も基本的には同じ構造なのですが、生存者がグループ化して一種の「野武士」のようになっています。野武士が集落を見つけたら、平和的に交渉などしません。いきなり銃撃戦が始まります。そんな殺伐とした世界で生き抜く主人公ヒッグを演じたジェイコブ・エロルディは一条真也の映画館「フランケンシュタイン」で紹介した2025年のNETFLIX映画でモンスターを演じた俳優です。じつは、ものすごいハンサムだったのですね!
本作のメガホンを取ったリドリー・スコット監督は、「エイリアン」(1979年)、「ブレードランナー」(1982年)というSF映画史に燦然と輝く名作で知られる映画界の巨匠です。かつての名作に比べると、本作はちょっと物足りない印象ですが、それでもヒッグたちがセスナで降り立ったグランド・ジャンクションの世界は妖しく幻想的で、「ブレードランナー」で描かれた日本チックなロサンゼルスを彷彿とさせました。スコットは正式に映画製作の勉強をしたことはないそうですが、世界一の美術系大学であるイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでグラフィックデザインを学び、BBCにセットデザイナーとして入社したところからキャリアをスタートさせています。そんな彼の美意識や審美眼が本作にも生きています。
スコット監督は今年の6月、アカデミー賞の名誉賞を与えられました。授与式は11月の予定ですが、これまで「テルマ&ルイーズ」(1991年)、「グラディエーター」(2000年)、「ブラックホーク・ダウン」(2001年)で監督賞にノミネートされましたが、受賞には至っていません。「グラディエーター」は作品賞や主演男優賞(ラッセル・クロウ)には輝きましたが、監督賞は逃しました。それだけに今回の受賞は嬉しかったのではないでしょうか。現在88歳である彼の次回作はスティーヴンソンの冒険小説『宝島』の実写映画化だそうです。かつてディズニーで実写映画化されていますが、宝の地図を見つけた少年と出会う海賊ジョン・シルバーをヒュー・ジャックマンが演じるというから楽しみです。完成する頃には90歳を超えているでしょう。
本作の原題は“THE DOG STARS”です。愛妻を亡くしてグリーフを抱えていたヒッグの心をケアしたのは愛犬ジャスパーでした。そのジャスパーが襲撃者との戦いで命を落とし、亡骸を埋葬するシーンがありました。そのシーンを見たとき、わたしはかつてハリーという愛犬を失い、その埋葬をしたことを思い出して悲しくなりました。人類にとって最初の友は犬だったといいます。「GOD」を逆にすると「DOG」になりますが、犬とは神から遣わされた人間の友なのかもしれません。特に、日本の縄文時代などの狩猟社会において犬は人間にとって最高のパートナーで、人間と犬が一緒に埋葬された例もあるようです。
埋葬といえば、わたしはいつも「もし地球上に人間が自分1人しかいなくなったとき、自分自身の葬儀は行えるか」ということを考えます。 自分を弔ってくれる他者がいない「最後の1人」になったとき、自らの葬儀を行うことは不可能です。つまり、人間は1人では絶対に葬儀ができません。わたしは、人間が人間であるための最大の条件は葬儀を行うことであり、死者を弔うことだと考えます。したがって、「自分の葬儀を行えない最後の1人」になった瞬間、その人は生物学的には「ヒト」であっても、社会的・文化的な意味での「人間」は滅亡したことになるのではないでしょうか。ある意味で、リドリー・スコット監督の終活映画である「ラスト・サバイバー」を観て、わたしはそんなことを考えました。