東京に来ています。財団の打ち合わせを終えた9月3日の夜に、日本映画「レンタル家族」をTOHOシネマズ日比谷で観ました。昨年12月に1週間限定で単館上映され、異例の前日満員となって全国順次公開された自主映画です。でも、期待していたほどの作品ではありませんでした。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「レンタル家族というサービスを通じて見知らぬ者同士が心を通わせていくさまを描くヒューマンドラマ。東京で会社勤めをしながら帰郷して母親の介護もする女性がレンタル家族というサービスを紹介され、レンタル夫とレンタル娘と共に家族を演じる。監督などを手掛けるのは上坂龍之介。『ジェファソンの東』などの荻野友里、ドラマ『グランマの憂鬱』などの駒塚由衣のほか、龍輝、松林慎司、田中壮太郎らがキャストに名を連ねている」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「東京での会社勤めの傍ら、洋子(荻野友里)は定期的に実家に帰省して、父親の忠勝と協力しながら認知症の母親千恵子のケアをしていた。千恵子の認知症の進行が早くなる中、ある日洋子は取引先の担当者に『レンタル家族』というサービスを紹介される。最初は戸惑いつつも家事代行としてレンタル夫を自宅に呼んだ洋子だったが、派遣されたレンタル夫の松下豪と意気投合する」
この映画、「家族」をテーマとしているし、正直ものすごく期待していたのですが、残念なことに少しも興味をおぼえませんでした。感動もしませんでした。むしろ、違和感がどんどん膨れ上がっていく不快な経験をしましたね。まず。主人公はなぜレンタル家族なる「偽家族」で認知症の母親・千恵子を騙すのか。レンタル家族のスタッフならまだしも、なぜ主人公の父親・忠勝(千恵子の夫)まで三文芝居に加担するのか。まったく理解できませんでした。これは千恵子の認知症を悪化させるばかりか、彼女の人間的尊厳を失わせるものではないでしょうか。
離婚歴のある独身女性である主人公・洋子が家事用レンタル夫を自宅に入れるのも違和感がありました。相手が悪人だったら、どうするのか。また、最初は子どもはレンタルすることができないと言いながら、10歳の女の子を洋子の娘としてレンタルしたことも不可解でした。本人は子役と同じようなアルバイトと考えているのかもしれませんが、さすがに危険でしょう。誘拐されたり、正体がバレて逆上した相手から暴力を振るわれたらどうするのでしょうか?
本作は1館から53館の拡大公開となったことから、一条真也の映画館「カメラを止めるな!」で紹介した2018年の大ヒット映画や、一条真也の映画館「侍タイムスリッパー」で紹介した2024年の大ヒット映画を連想してしまいますが、正直それらの作品とは完成度がまるで違います。まず、出演している役者がみんな素人臭くて芝居がわざとらしいです。大ヒットした2作にも無名の役者はたくさん出演していますが、みんな演技力はありました。本作はダメです。洋子の両親を演じた2人はそれなりにキャリアのある役者のようですが、わたしはピンときませんでした。洋子を演じた荻野友里は阿川佐和子に顔が似ているのですが、彼女だけはプロの女優という印象でした。
荻野友里は2005年から平田オリザ主宰の劇団「青年団」に所属し、同劇団の代表作「東京ノート」(2006年~)の海外公演などに参加するほか、劇団「柿食う客」「五反田団」「財団、江本純子」などの舞台にも立ってきました。深田晃司監督作「東京人間喜劇」(2009年)で映画に初出演し、本広克行監督作「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」(2012年)や、一条真也の映画館「四十九日のレシピ」で紹介した2013年のタナダユキ監督作、一条真也の映画館「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」で紹介した2017年の作品などに出演しています。
レンタル家族のサービスは日本に実在します。元祖レンタル家族サービス会社として知られる「ハートプロジェクト」の公式HPには、「2006年3月開始以来一人でご依頼を承ってまいりましたが、ご依頼数が非常に多く、また、1度に大量人数が必要(代理出席など)もあり現在はスタッフが全国に約100余名20代~70代までの男女が対応に充たっております。<レンタル 家族>とは・・・当初1人でご依頼を承っておりましたが、ご依頼人様のご要望が多岐に渡り、またスタッフの年齢層も幅広く必要になったため、スタッフ募集をしつつ個別の対応ではなく『レンタル家族』という総称を考え出し、現在に至っております。『レンタル 家族』は私共の造ったオリジナルの造語です。父親代行・母親代行・夫代行・妻代行など家族代行と友人代行・知人代行・上司代行・同僚代行・部下代行・代理出席など 人が係わる代行の総称と考えております」と書かれています。
本作を観ると、やはり一条真也の映画館「レンタル・ファミリー」で紹介した、今年2月27日に日本公開したアメリカ映画を連想してしまいます。歯磨き粉のCMに出演したことをきっかけに人気俳優になったものの、いまは東京に暮らしながら細々と俳優の仕事を続けているフィリップ(ブレンダン・フレイザー)。薄暗いマンションの自室で晩酌をするのをささやかな楽しみにする彼のもとに、「レンタル・ファミリー」の会社を経営する多田(平岳大)からある仕事の依頼が届きます。それは顧客の要望に合わせて家族のような役割に徹するというもので、フィリップは依頼を引き受けるのでした。
一条真也の映画館「peacock/ピーコック」で紹介した、今年7月24日に日本公開したオーストリア・ドイツ合作映画もあります。日本の「友達代行サービス」に着想を得たブラックコメディーです。ベルンハルト・ヴェンガー監督が2018年に日本を訪れて行ったリサーチを基にしたストーリーだとか。マティアス(アルブレヒト・シュッフ)は、どのような場面にも適応してくれる人物を送り出す代理店「マイ・コンパニオン」に勤めています。彼はそこのトップパフォーマーとして、自分に求められる役割を見事にこなし、毎日さまざまな人格を演じ分けていました。ところがある日、恋人のソフィアが「本当のあなたを感じない」という言葉を残して彼のもとから去ってしまうのでした。
「レンタル・ファミリー」には結婚式と葬儀のシーンが登場し、「peacock/ピーコック」にも葬儀のシーンが登場しました。人がフェイクでもいいから、どうしても家族を用意したいと思う最大の舞台は結婚式や葬儀といった冠婚葬祭の場だと思います。実際、レンタル家族業は冠婚葬祭業との親和性が高いと思いますが、わが社が手掛けようとは思いません。誰かの家族になりすますというのは、やはり「人をだます」行為であり、肯定しづらいものがあります。でも考えてみれば、水商売だって疑似恋愛みたいなものですから、世の中には恋人や配偶者のフリをする仕事というのは案外多いのかもしれませんね。