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「ザ・ゴールドディガーズ」

No.1416

金沢に来ています。10月7日の夜、1983年のイギリス映画「ザ・ゴールドディガーズ」を香林坊の「シネモンド」で観ました。メタファーに満ちていて、まことに難解な作品でしたが、言わんとするところは伝わったように思います。

ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「1980年代のロンドンを舞台に、働く女性たちが抱える思いを描いたドラマ。銀行のデータ入力業務にむなしさを感じた女性と、自分が偶像であることを意識するようになった俳優が出会う。メガホンを取るのは『選ばなかったみち』などのサリー・ポッター。『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』などのジュリー・クリスティやコレット・ラフォン、『ZOMBIO(ゾンバイオ)/死霊のしたたり』などのデヴィッド・ゲイルのほか、ヒラリー・ウェストレイク、ジャッキー・ランズリーらが出演する」

ヤフーの「あらすじ」は、「ロンドンの中心区『シティ』にある銀行で、データ入力係に就いている黒人のフランス人女性セレステ(コレット・ラフォン)は、数字を移動させるだけの仕事にむなしさを感じ、権力と金の関係について考えるようになる。一方、人気俳優のルビー(ジュリー・クリスティ)は、幼少期の記憶などをたどる中で、偶像視されてきた自分を見つめる。ある日、ひょんなことから出会ったセレステとルビーは共に語り合ううちに、女性は無力で美しいものという女性像と、男性が繰り広げる経済的覇権争いには関連があるのではと考える」となっています。

本作の冒頭では、舞踏会で紳士と踊る淑女(白人女性)がいきなり白馬の王子に連れ去られます。ところがその王子は白人男性ではなく、なんと黒人女性なのでした。このシーンを見て、「おおっ、80年代に多様性やLGBTQが出てくるのか!」とちょっと驚きましたが、本作はいわゆるフェミニズム映画です。フェミニズムが多様性やLGBTQに繋がることはある意味で自然なのですが、それを80年代に表現していることが凄いですね。さすがに、本作は「フェミニズム映画の金字塔」と評されるだけのことはあります。

本作は銀行のデータ入力として働く黒人女性のセレステと、女優であるルビーの2人を主人公に、男性中心の経済システムや社会構造を問います。作中には、彼女を追う銀行マンたちの姿がくどいほど登場。彼らは、男性が作り上げた「資本(金)」と「女性の価値(美)」を管理するルールの維持者です。そこから逸脱しようとする女性を、再びシステムの内側に閉じ込めようとする抑圧を表現しています。また、従来の映画において、男性は「見る(追う)側」、女性は「見られる(追われる)側」として記号化されてきました。本作はその構図をあえて強調し、批評的に描くことで、男性中心的な映画制度そのものを解体しようとしています。

本作のメガホンを取ったサリー・ポッターは、1949年イギリス・ロンドン生まれの映画監督、脚本家、作曲家、ダンサーです。女性と労働や経済支配の関係を独創的に描き続けた人です。ポッター自身は「女性監督」や「フェミニズム映画」という言葉を単なるレッテルにすぎないと語りつつも、自身がフェミニストであることを誇りにしています。また、ラベルが持つ重みや、作品が固定化されることへの葛藤も回想しています。彼女の長編デビュー作となる本作では、撮影クルーを女性中心で構成し、全員が同一賃金で働くというラジカルな実践を行いました。彼女は、2012年の国王誕生日に行われる叙勲にて、大英帝国勲章を受章しています。

サリー・ポッターの作品では、一条真也の映画館「選ばなかったみち」で紹介した2020年のイギリス・アメリカ・スウェーデン合作映画が思い出されます。「選ばなかったみち」は、わたし自身の娘との関係を思い起こす作品でした。ニューヨークに暮らす、メキシコ人移民の作家レオ(ハビエル・バルデム)。認知症を患っている彼は、誰かの介助なしには日常生活を送ることができず、ヘルパーや娘のモリー(エル・ファニング)との意思疎通を図るのも難しい状況に陥っていました。そんなレオを病院に連れ出そうとアパートを訪れるモリーですが、彼は娘を相手にせず、初恋の女性と出会った故郷のメキシコ、作家活動に行き詰まって単身で訪れたギリシャでの日々を思い起こすのでした。

「ザ・ゴールド・ディガーズ」の「ディガー(DIGGER)」とは「採掘者」という意味です。本作における「金鉱を採掘する男たち」は、非人格的で官僚主義的な集団として描かれています。彼らがひたすら金(ゴールド)を追い求めて大地を掘り進める姿は、男性中心の経済覇権争いや資本主義的な搾取を象徴しているようです。作中で男たちが一攫千金を狙って金塊を採掘するシーンは、チャーリー・チャップリンの有名なサイレント映画「黄金狂時代」(1925年)へのオマージュが含まれているとも言われています。同作は飢えや孤独などに翻弄されながら、黄金を求めて狂奔する人々をチャップリンならではのヒューマニズムとギャグで面白おかしく描いた大傑作です。

明日9日からトム・クルーズ主演のハリウッド映画が日本公開されますが、その名も「DIGGER/ディガー」!! トム・クルーズと、2度のオスカーに輝くアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督が組んだコメディーです。石油採掘会社のCEOの強欲な行動によって地球滅亡の危機が迫り、大統領から事態の収拾を命じられた彼が世界を救おうとする物語。石油採掘会社のCEOとして優雅に暮らすディガー・ロックウェル(トム・クルーズ)は、傲慢な権力者でした。あるとき、部下から緊急事態の連絡を受け石油の採掘停止を提案されるも、利益を上げることしか頭にない彼は却下します。しかし、事態は制御不能な地球規模の大災害へと悪化し、ディガーは大統領から事態の収拾を命じられます。


シネモンドの外観

 

さて、本作は「シネモンド」という雰囲気のあるミニシアターで鑑賞しました。一条真也の映画館「ヒンド・ラジャブの声」で紹介した映画もここで観ました。金沢市のクラソ・ブライス香林坊4階にある、石川県内唯一のミニシアターとのこと。ハリウッドのブロックバスター作品とは一線を画す、世界各国の名作やインディーズ映画、ドキュメンタリーなどを独自の視点でセレクトして上映しています。座席数は91席の1スクリーン。アットホームで映画に没頭できる空間が広がっています。金沢の文化の中心地である香林坊に位置しており、映画の前後にお買い物やカフェ巡りを楽しめるのも魅力!


シネモンドの前で

 

サンレー北陸の大谷部長がシネモンドの上野支配人と懇意になり、拙著『死を乗り越える映画ガイド』『心ゆたかな映画』『映画の観方』などの映画関連書をお渡ししたところ、大変喜んで下さったそうです。この日は「金沢21世紀美術館」での映画上映のために不在でしたが、なんでも支配人さんは大のホラー好きとのこと。また、『映画の観方』の中で取り上げた一条真也の映画館「ワン・バトル・アフター・アナザー」で紹介したレオナルド・ディカプリオ主演のアクション映画が大好きのこと。同作は、同年の「一条賞」映画篇の大賞受賞作です。わたしと映画の好みが似ている上野支配人にぜひ一度お会いしたいものです。ご縁があれば、「小倉昭和館」のように、わが社のシネアドも流させていただきたいですね。


『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)

 

『死を乗り越える映画ガイド』といえば、わたしの初めての映画についての本ですが、映画館の暗闇とスクリーンから発せられる光の関係を「死と生」の比喩とし、映画館に行くことを「死の世界に足を踏み入れ、臨死体験をする(または死者となる)こと」と位置づけました。古代の宗教儀式が生まれた洞窟と同様に、映画館も暗闇の世界です。闇は「死」の世界、光は「生」の世界を意味します。闇の中からスクリーンに映る光を見る行為は「死者が生者の世界を覗き見る」ことだというのがわたしの考えです。「ザ・ゴールド・ディガーズ」の中に「闇の中にいること。それが私の存在条件」というルビーのセリフが出てくるのですが、これも映画館という洞窟の中から光を見ることの暗示のようでした。

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