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「ヒトラーの毒見役」

No.1371

8月4日、建設中の東郷紫雲閣の工事現場を視察後、福岡市周辺の紫雲閣を回りました。夜は、イタリア・スイス・ベルギーの合作映画「ヒトラーの毒見役」をKBCシネマで鑑賞。同劇場を訪れるのは久しぶりですが、ほぼ満員でした。

ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「ヒトラーの毒見役を務めていたというドイツ人女性の証言を基にした小説を映画化。第2次世界大戦末期、ナチスドイツからヒトラーの食事を毒見する任務を命じられた女性たちの運命を描く。『エマの瞳』などのシルヴィオ・ソルディーニが監督、『さよなら子供たち』などのレナート・ベルタが撮影を担当。ドラマ『皇妃エリザベート』などのエリーザ・シュロット、『ベルリン・シンドローム』などのマックス・リーメルトのほか、アルマ・ハズン、エマ・ファルク、オルガ・フォン・ルクヴァルトらが出演する」

ヤフーの「あらすじ」は、「第2次世界大戦末期の1943年、出征中の夫の帰りを待つローザ(エリーザ・シュロット)はベルリンを離れ、ポーランドの田舎町で暮らしていた。そこはヒトラーが総統大本営を置く森の近所で、あるとき彼女はナチスドイツから奇妙な任務を命じられる。それは親衛隊による監視のもと、ほかの女性たちと共にヒトラーのために用意された料理を毒見するというものだった。死と隣り合わせの状況で苦悩に満ちた日々を過ごす中、総統大本営でヒトラー暗殺を謀るクーデターが起こる」です。

本作は実話に基づいているそうですが、わたしは「本当かな?」と思ってしまいました。いろいろと不自然な点があります。まず、ヒトラーの居場所に7人の女性を“通い”で毒見をさせたという点です。そんなことをすれば、彼女たちは家に帰って家人や隣人に話し、総統の居場所が筒抜けになってしまうではないですか。それから、なぜ女性でなければならないのか? ヒトラー自身は男性なのだから毒見役も男性でいいではないですか。そして、なぜドイツ人の同胞に危険な役目をさせるのか? なぜ、その役目がユダヤ人でなかったのか? そんなことを考えると、95歳のドイツ人女性が語った「ナチスに命じられヒトラーの毒見役を務めていたという事実」そのものが疑わしくなります。

アドルフ・ヒトラーの56年の生涯の中で、42回の暗殺未遂があったといいます。逆に言えば、それだけの危機を乗り越えてきたのは厳重なセキュリティ体制があったはずで、その意味では毒見役もいたかもしれません。第二次世界大戦勃発後、ヒトラーは暗殺防止のため、パレードすることが減りました。公衆の面前に姿を現す回数も減り、特に戦局が悪化した末期は、総統大本営に引きこもることが多くなったことから、一般人の接触自体がほぼ不可能となりました。実行可能なのは現役の軍人、しかもヒトラーに接近できる立場にある少数の者に限られていきました。また、1944年の「フォックスレイ事件」など連合軍側による暗殺計画も企てられたが、全て実行に移されなかったか失敗しています。

ヒトラーの暗殺未遂事件で有名なものが2つあります。「1939年ゲオルク・エルザーによる計画」と「1944年7月20日事件(ワルキューレ作戦)」です。まず、1939年に家具職人のゲオルグ・エルザーがミュンヘンのビアホール演説会場に自作の柱時計つき時限爆弾を長期間かけて設置し、ヒトラーの暗殺を企てました。しかし、ヒトラーが予定より早く演説を切り上げて13分前に会場を去ったため、爆破の直前に生存を許す結果となりました。この事件を映画化したのが一条真也の映画館「ヒトラー暗殺、13分の誤算」で紹介した2015年のドイツ映画です。監督は、名作「ヒトラー ~最期の12日間~」(2005年)のオリヴァー・ヒルシュビーゲル。ゲオルグ・エルザーをクリスティアン・フリーデルが演じました。

次に「1944年7月20日事件(ワルキューレ作戦)」です。この事件は本作「ヒトラーの毒見役」でも登場しますが、これを描いた作品が、2008年のアメリカ映画「ワルキューレ」です。第二次世界大戦下のドイツ。戦地で左目を負傷した将校・シュタウフェンベルク大佐(トム・クルーズ)は、純粋に祖国を愛するが故にヒトラー独裁政権へ反感を抱きます。彼は、やがて軍内部で秘密裏に活動しているレジスタンスメンバーたちの会合に参加。そんなある日、自宅でワーグナーの「ワルキューレの騎行」を耳にしたシュタウフェンベルクは、ある壮大な計画を思いつくのでした。過去に40回以上の暗殺計画をくぐり抜けてきたヒトラー(デヴィッド・バンバー)とその護衛たちを前に、大佐たちの計画は成功できるのか?

それにしても、毎年毎年ナチス関連の映画が次々に作られますね。しかも、本作のようにタイトルに「ヒトラー」が入る作品が多いです。一条真也の読書館『ナチス映画史』で紹介した馬庭教二氏の著書によれば、近年、ヒトラーやナチスを題材とする映画が多数製作、公開されています。2015年から2021年の7年間に日本で劇場公開された外国映画のうち、ヒトラー、ナチスを直接的テーマとするものや、第2次大戦欧州戦線、戦後東西ドイツ等を題材にした作品は筆者がざっと数えただけで70本ほどありました。この間毎年10本、ほぼ月に1本のペースでこうした映画が封切られていたことになるわけで、その異常なまでの数の多さに驚かされます。さすがにネタ切れになってきたため、新手のネタとして「毒見役」が選ばれたのではないでしょうか?

本作のメガホンを取ったシルヴィオ・ソルディーニ監督は、「エマの瞳」(2017年)などで知られ、これまで数々の映画祭で高い評価を受けてきたイタリアを代表する名匠です。インタビュー動画では本作の日本公開への喜びを述べ、「過去の物語だけれど、現在にも通じる映画なのです」と、本作で描かれるナチスの脅威が現代の世界情勢や戦後81年を迎える日本にも共通していることを強調しました。ヒトラーの毒見役の食事シーンという、これまでのナチス映画にないシチュエーションは緊迫感を生みましたが、毒見の場面はほんの少しで、あとは登場人物たちの不倫とか堕胎とか、タイトルからは予想もできない人生ドラマがほとんどで、ちょっと肩透かしを食った思いです。

エリーザ・シュロットのファンになりました!
エリーザ・シュロットのファンになりました!

 

主人公ローザを演じたエリーザ・シュロットはとても美しかったです。気品ある美貌に魅了されました。1994年ベルリン生まれのドイツ人女優で、現在32歳です。10代の頃にテレビデビューを果たし、ドイツ映画奨励賞を受賞しています。高校卒業後の2012年にベルリンからロンドンに移り、演技を学びました。 2015 年に麻薬中毒者を演じたことで広く知られるようになり、2917年に「Fremde Tochter」に主演し、ビーベラッハ映画祭でゴールデン・ビーバー賞を受賞。2016年から2018年にかけて、シャウシュピールケルンのアンサンブルのメンバーを務めました。NETFLIXドラマ「皇妃エリザベート」にも出演しており、これからが楽しみな女優さんです!

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