シルバーウィークの終わりに、自宅の書斎でNETFLIXオリジナルのアメリカ映画「バード・ボックス」を観ました。2018年の作品ですが、「ホラー映画は悲しみの処理に役立つ」という仮説の正しさを証明すべく未見の作品を渉猟する中で出合いました。当時は大きな話題となった本作ですが、現在でもNETFLIX歴代オリジナル映画視聴時間の5位に位置しています。面白かったです!
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「[Netflix作品]『オーシャンズ8』などのサンドラ・ブロックが主演を務めるスリラー。あるものを目にすると命を落とすという異常事態によって世界が大混乱に陥る中で、妊娠中の女性が決死のサバイバルに挑む。監督は『真夜中のゆりかご』などのスサンネ・ビア、『RED』シリーズなどのジョン・マルコヴィッチ、『ムーンライト』などのトレヴァンテ・ローズ、『ミスター・ガラス』などのサラ・ポールソンたちが共演する」
ヤフーの「あらすじ」は、「予期せぬ妊娠をしてしまったアーティストのマロリー(サンドラ・ブロック)は、あるものを見た人間が死ぬという異変が世界規模で発生していることを知る。すさまじい勢いで人々が死んでいき人類滅亡の危機が刻々と迫る中、自分と幼い命を守ろうとマロリーは目隠しをして安全な場所を探し求めていく」となっています。
本作は「ポスト・アポカリプス映画」です。核戦争や大災害、疫病などによって現代文明が崩壊した後の世界や社会を描くフィクションのジャンルですが、本作の場合は謎の怪物を見たものが次々に死んでいくという設定です。そんな怪物を見ることを避けるため、人々は目隠しをして生き延びようとします。その姿はスクリーンにも一切姿を見せません。恐怖の正体をあえて見せないことで不安を膨らませるというのはホラー映画の基本ですが、本作では目隠し演出がかなり直接的にその役割を担っています。
本作を観て、多くの人が一条真也の映画館「クワイエット・プレイス」で紹介したアメリカのホラー映画を連想することでしょう。わたしも、そうでした。奇しくも「バード・ボックス」が配信開始された2018年に劇場公開された「クワイエット・プレイス」ですが、ポスト・アポカリプス映画という点は共通しています。同作は、音に反応して襲撃してくる何かによって、人類は滅亡の危機にさらされる物語です。リー(ジョン・クラシンスキー)とエヴリン(エミリー・ブラント)の夫婦は、聴覚障害の娘ら3人の子供と決して音を立てないというルールを固く守ることで生き延びていました。手話を用い、裸足で歩くなどして、静寂を保ちながら暮らしていましたが、エヴリンの胎内には新しい命が宿っていたのです。
極限状況の中で「クワイエット・プレイス」のヒロインは妊娠・出産を経験するわけですが、これは本作「バード・ボックス」でも同じです。ただし、「音を立てない」ことよりも「目隠しをする」ことの方がはるかに難易度が高く、行動する上での危険度もはるかに大きいです。本作の主人公たちは目隠しをしたまま車を運転したり、ボートを漕いだりするのですから、はっきり言って尋常ではありません。目隠しによる行動制限は、登場人物の感情やサバイバルの切迫感を強めています。視界を奪うことで観客も先が読めません。当然ながら、音や気配に神経を集中させることになります。つまり、目隠しは単なる小道具ではなく、没入感と緊張感を作る装置として働いているのです。
目隠しという視覚の制限は、そのまま心理の制限になります。見えないからこそ、疑う・信じる・守るという選択が重くなります。本作にはヒロインと2人の子どもが登場しますが、母は子に「自分の言うことを絶対に守りなさい」と圧をかけます。愛しているからこそ、徹底的に守らせるという圧です。この極限状況では優しさやよりも、生き延びるための命令が前に出るのです。当然ながら、そこには親子の温もりというより、危機の中で成立する支配と保護が同居した関係として響きます。子どもにとっての「触れる」「見る」「信じる」といった当たり前の行為が危険になるので、母親の言葉がそのまま生存ルールになります。その関係は観ていて息苦しくなるほどでしたが、ラストではその緊張が一気に解かれるカタルシスが待っていたことが救いでした。
最後に、「バード・ボックス・チャレンジ」について。本作に影響された人々が目隠しをした状態で日常生活の動作や危険な作業を行為がネット上で流行しました。YouTubeやSNS上で、目隠しをしたまま歩く、階段を降りる、スポーツや料理をするなどの動画が投稿され、世界的ブームとなりました。目隠しをしたまま自動車を運転して衝突事故を起こすケースなどが発生しました。重大な怪我につながる恐れがあるため、NETFLIXが公式に「危険なのでやめてほしい」と強い注意喚起をする事態となりました。これについて、ひろゆき氏は「アメリカ人ってやばいよねww」とコメントしています。