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「怪談」4Kデジタルリマスター

No.1381

東京に来ています。8月20日、グリーフケア委員会の会議後に、1965年の日本映画「怪談」の4Kデジタルリマスター版をTOHOシネマズシャンテで観ました。ホラー映画ではありますが、様式美が素晴らしいです。久々の鑑賞でしたが、スクリーンで新たな感動をおぼえました。前日、ブログ「大女優・岸惠子、逝く!」で紹介した訃報に接しましたが、岸さんは雪女の役で本作に主演されています。チケットはすでに予約していたので偶然ではありましたが、この日は奇しくも岸さんの追悼鑑賞となりました。

「怪談」は1965年(昭和40年)公開の日本映画です。文芸プロダクションにんじんくらぶ製作、東宝配給。監督は小林正樹。1964年(昭和39年)12月29日に東京・有楽座で先行公開され、1965年2月27日から一般公開されました。カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。鮮烈な色彩美術や武満徹の音楽、重厚な演出が高く評価されています。上映時間は183分。

NHKの連続テレビ小説「ばけばけ」の主人公の夫のモデルとなった明治時代の作家・小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの『怪談』に収録されている「雪女」「耳無芳一の話」と『明暗』に収録されている「和解」(映画では「黒髪」)と『骨董』に収録されている「茶碗の中」の4つの怪談話を映画化したオムニバス作品です。構想にはじつに10年を要したそうで、9ヶ月の撮影期間と多額の予算をかけて製作されました。映画会社の力が大きかった時代に、独立プロダクションが制作した異例の作品でした。

公開当時の日本国内での興行は芳しくなく、製作した文芸プロダクションにんじんくらぶは多額の負債を抱え、公開後に倒産してしまいました。しかし、海外では高く評価され、第18回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。国内では183分の完全版で上映されましたが、カンヌ国際映画祭では161分に編集して公開。その後原版フィルムが紛失し、編集版のみが出回っていましたが、やがて原版が発見され、修復を経て2003年(平成15年)に東宝からオリジナル完全版のDVDが発売。わたしも購入しました。

「黒髪」のあらすじは、以下の通りです。
昔の京都。仕官していた主君を没落で失い、貧しい暮らしに耐えかねていた武士の男(三国連太郎)は、妻(新珠三千代)を捨てて遠い任地に向かい、良い家柄の娘(渡辺美佐子)と結婚します。しかし、その娘はわがままで冷酷な女でした。男はいつも前の妻のことを思い出し、自分の身勝手さを反省しました。やがて任期を終えて京に戻った男は、かつての家に向かいますが、そこには変わらず機織をしている妻の姿がありました。男はそれまでの不義理を詫び、妻をいたわり、そして一夜を共にします。夜が明け男が目を覚ますと、横に長い黒髪がありました。しかし、それは妻の髑髏の頭から生えていたのです。恐怖のあまり逃げ惑う武士でしたが、やがて彼自身も呪われて老い、死んでしまうのでした。

「雪女」のあらすじは、以下の通りです。
武蔵国、の巳之吉(仲代達矢)は、木樵の茂作(浜村純)と森へ薪を取りに行きますが猛吹雪に遭って森の中の山小屋に一泊することになりました。その夜、巳之吉は白い着物姿の女(岸惠子)を目撃します。女は茂作に白い息を吐いて凍死させますが、巳之吉は見逃し、「今夜見たことを誰にも話してはいけない。もし話したらお前を殺す」と言いつけて小屋から消えました。1年後、森へ薪を取りに行った巳之吉は、その帰り道で若くて美しいお雪(岸惠子)という女性に出会い、やがて彼女と結婚し3人の子宝に恵まれました。村の女たちからも羨ましがられ、幸せに暮らしていたある吹雪の夜、巳之吉はお雪の顔を見て、ふと10年前に山小屋で会った雪女のことを面白可笑しく話し出してしまいます。戸惑いながらも話を聞き終えたお雪は「その女は私。さても子らを不幸せにすれば命は無いものを・・・・・・」と、言い残して吹雪の中へ消えていったのでした。


「耳無芳一の話」より

 

「耳無芳一の話」のあらすじは、以下の通りです。
源平合戦の最後となった壇ノ浦の戦いで平家は敗れ、滅亡します。それから700年後、盲目の琵琶法師・芳一(中村賀津雄)は、ある夜に現れた甲冑姿の武士(丹波哲郎)に「高貴な人に琵琶を聴かせるために迎えに来た」と言われ、ある場所に連れていかれます。芳一はそこで『平家物語』の壇ノ浦の合戦のところを琵琶で奏でて唄います。それから武士は毎晩芳一を迎えに現れ、彼も繰り返し琵琶を奏でるのでした。寺の住職(志村喬)は毎晩どこかに出かける芳一を不審に思い彼に問いただしますが、武士に口外せぬよう言い付けられていた彼は何も答えませんでした。そこで、住職は寺男の矢作(田中邦衛)と松造(花沢徳衛)に芳一の後をつけさせる事にしました。その夜、芳一の後をつけた寺男たちが見たのは、鬼火が飛び交う平家の墓場の前で琵琶を奏でる彼の姿でした。住職は平家の怨霊に取り憑かれた芳一の体中に般若心経を書きつけます。るその夜、いつものように芳一を迎えに来た武士は何度も芳一の名を呼びますが、返事がありません。しかし、空中に耳が2つ浮かんでいたので、代わりにその耳を引きちぎって持って帰っていきました。両耳を取られ悶絶する芳一。住職は芳一の耳にだけお経を書くのを忘れていたのです。その後、彼は耳無芳一と呼ばれ、名声は遠方まで伝わり、その琵琶の音色を聴くために多くの褒美が渡され、金持ちとなったといいます。


「茶碗の中」より

 

「茶碗の中」のあらすじは、以下の通りです。
中川佐渡守の家臣の関内(中村翫右衛門)は、年始廻りの途中、茶店で水を飲もうと茶碗に水を汲み、顔を近づけますが、茶碗の水に見知らぬ男の顔が映っているのに気付きます。水を入れ替えたり茶碗を変えたりしても、同じ男の顔が映っていました。結局、彼は男の顔が映った水を飲み干します。その夜、夜番をしている関内のもとに、式部平内(仲谷昇)と名乗る1人の若侍が現れます。その男は昼間、茶碗の中に現われた男でした。関内は彼を斬りつけますが、消えてしまいました。屋敷に戻った関内は、3人の侍の来訪を受けます。平内の家臣と称する3人は「主人があなたに斬られて療養中である。来月16日に必ず恨みを果たしに来る」と言ったので、関内は3人に斬りつけるのでした。この物語は、明治32年(1899年)、作家(滝沢修)が古くから伝わる結末のない奇怪な物語をひとつの結末を書こうとしたものである。宿に逗留していた作家のもとに版元(中村鴈治郎)が訪ねてきます。女将(杉村春子)は作家を探しますが、どこにもいませんでした。版元は作家の書きかけの原稿を手にしました。「人の魂を飲んだ者の末路は・・・。」そのとき、女将が水瓶を指さして悲鳴を上げ、飛び出していきました。版元も水瓶に近づくと、水瓶の中に作家が映り、手招きをしていたのでした。

前回の鑑賞はオリジナル完全版DVDが発売された2003年でしたから、23年ぶりの鑑賞となりました。前回はただただ色彩の美しさや舞台の書き割りを思わせる幻想的な演出にとにかく感動するばかりでしたが、今回久々に、かつ4Kデジタルリマスター版をスクリーンで観て、いくつか違和感をおぼえました。「黒髪」に登場する夫婦は貧乏なはずなのに家が広すぎること。こんな大きな邸宅を用意していたら、セット代がかかって仕方なかったことでしょう。「雪女」では、夜空に巨大な目玉が浮かんでいるデザインですが、これはサルバドール・ダリの物真似のようで興醒めでした。あと、「耳無し芳一」の照明が明るすぎたこと。時代劇における照明は難しい問題ではありますが、さすがに中世日本の夜中なのに外が煌煌と明るいのはおかしいです。ホラーのような非現実的な物語ほど細部にはリアリティが求められるというのはわが持論ですが、その意味で残念でしたね。

しかしながら、「怪談」というオムニバス映画の構成の妙には感心しました。『怪談』『明暗』『骨董』という小泉八雲の怪奇短編集の中で、本作の最初に置かれた「黒髪」(「和解」)と最後に置かれた「茶碗の中」はマイナーな作品です。一方、「雪女」と「耳無芳一の話」は日本人なら誰もが知っているメジャーな作品です。「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話」「茶碗の中」・・・・・・メジャーな2作品をマイナー2作品で挟むというのが上手いですね。フランス料理のフルコースに例えれば「黒髪」がオードブルあるいはアントレ、「雪女」がポアソン(魚料理)、「耳無芳一の話」がヴィアンド(肉料理)、そして「茶碗の中」がデザートといったところでしょうか。日本映画なので、本当は会席料理に例えたかったのですが、うまくいきませんでした。


死霊を演じた丹波哲郎さん

 

再鑑賞で新たな発見もありました。「耳無芳一の話」で、芳一を迎えに来る武者が登場します。平家の使者である彼は死者なのですが、丹波哲郎さんが演じられてました。一条真也の読書館『丹波哲郎 見事な生涯』などでも紹介したように、わたしは生前の丹波さんに大変お世話になりました。わたしに対して贈って下さった「魂のお世話(冠婚葬祭業)をした人は、死後、良い世界に行けるんだよ」という言葉はわが人生の宝物です。丹波さんは「霊界の宣伝マン」と呼ばれた方ですが、「耳無芳一の話」での死霊の役はまさにハマリ役。芳一の両耳をもぎ取る演技も鬼気迫るものがありました。


雪女を演じた岸惠子さん

 

そして、「雪女」の岸恵子さん。本作のチケットは2日前に予約していましたが、その翌日に岸さんの訃報に接しました。さらにその翌日、TOHOシネマズシャンテの地下1階の大スクリーンに映る岸さんの姿を観たのですから、本当に奇遇でした。眉毛がない雪女を「美人」と言うのはちょっと抵抗もありますが、巳之吉の嫁・お雪を演じた岸さんは本当に美しかったです。一条真也の映画館「氷血」で紹介した今年7月に公開された日本映画にも雪女が登場しましたが、演じた女優がピンときませんでした。その記事に、わたしは「これまでに最も雪女にふさわしかったのは小林正樹監督の名作『怪談』(1965年)の岸恵子」「彼女が演じた雪女は美しく、妖しく、儚かったです」と書いています。最後に、わたしは常々、映画監督や俳優といった映画人が亡くなった場合、故人の作品を観ること(再鑑賞)が最高の供養であると思っています。訃報に接した際にその人物の関わった作品を鑑賞することは、心からの祈りや追憶につながる大切な行為だからです。最後に、日本映画界が誇る大女優であった岸惠子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

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