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「ルックバック」

No.1399

9月11日、淡路島から神戸を経て、小倉に戻りました。その夜、この日から公開された日本映画「ルックバック」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で鑑賞しました。 一条真也の映画館「ルックバック」で紹介した2024年のアニメ映画の実写版です。ちなみに、本作は今年観た170本目の映画です。

ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『チェンソーマン』シリーズの原作などで知られる藤本タツキの漫画を、『万引き家族』などの是枝裕和監督が実写映画化。漫画の腕に自信がある少女と、彼女に憧れを抱く画力の高い少女の日々を描く。ひたむきに漫画と向き合う主人公を『万事快調〈オール・グリーンズ〉』などの出口夏希と『ハピネス』などの蒔田彩珠、彼女たちの子供時代を七瀬ふうりと岡田六花が演じるほか、野呂佳代、宮藤官九郎、菅田将暉らが共演する」

ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「学年新聞で4コマ漫画を連載し、自分の腕に自信を持っている小学4年生の藤野(七瀬ふうり)。ある日、学年新聞に掲載された不登校の同級生・京本(岡田六花)の漫画を見て、その画力に衝撃を受けた彼女は努力を重ねるも、差は埋まらずついに漫画の道を諦めてしまう。卒業式の日、京本に卒業証書を届けに行った藤野は、彼女が自分の作品のファンだったことを知る。漫画への情熱で結ばれた二人は共に漫画を描き始め、かけがえのない時間を積み重ねていくが、あるとき思いも寄らぬ出来事に見舞われる」

2年前、わたしは何の予備知識も持たずにアニメ版「ルックバック」を観ましたが、ずっと「え、何これ?」「おいおい、すごいな、これ!」と思いながら観て、何度も心が動かされました。何度も泣きました。ネタバレにならないように書くと、この物語ではある登場人物の大切な人が亡くなります。葬儀のシーンもあります。そして、この物語にはパラレルワールド的な要素があります。亡くなったはずの人物がじつは生きているという世界観に非常に感動しました。わたしはつねづね、パラレルワールドとかマルチバースとかタイムスリップといったSF的設定はグリーフケアに大きな力を持つと考えています。「今は亡きあの人は、違う時空で生きている」と思えるからです。アニメ版「ルックバック」を観て、まさにそのようなメッセージを感じました。

さて、「ルックバック」、英語で「LOOK BACK」の意味は「振り返る」です。映画「ルックバック」の冒頭シーンは漫画を描いている藤野の後ろ姿が延々と続きます。全部で58分しかない作品なのに、いつまでも後ろ姿しか映らないので、観客はだんだん不安になり、「振り返ってよ!」とスクリーンの中に人物に言いたくなります。「振り返る」というのは単なる後ろを見るという行動だけではなく、「人生を回顧する」という意味があります。

人生を振り返ることを歌った素晴らしい名曲があります。ブログ「ただ風が吹いているだけ♪」で紹介した「風」という楽曲です。はしだのりひことシューベルツが1969年に発表した大ヒット曲ですが、「ちょっぴりさみしくて振り返っても、そこにはただ風が吹いているだけ♪」「人は誰も人生につまづいて 人は誰も夢破れ 振り返る♪」という物悲しい歌詞は、北山修によるものです。当時まだ23歳だった北山は「振り返らず ただ一人 一歩ずつ 振り返らず 泣かないで歩くんだ♪」とも書いていますが、わたしは人生というものは振り返るべきものだし、なつかしい人を思い出して泣いてもいいと思います。

アニメ版映画「ルックバック」は、『チェンソーマン』で知られる人気漫画家・藤本タツキが、2021年に「ジャンプ+」で発表した読み切り漫画「ルックバック」を劇場アニメ化したものです。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」や「君たちはどう生きるか」などさまざまな話題のアニメに携わってきた、アニメーション監督でアニメーターの押山清高が、監督・脚本・キャラクターデザインを手がけました。ひたむきに漫画づくりを続ける2人の少女の姿を描く青春ストーリーですが、小学校の頃、わたしもいつも授業中に漫画を描いていて、クラスの仲間が回し読みし、悪友たちから「おまえ、漫画うまいな! 漫画家になれるんじゃない?」と言われていたことも思い出しました。

そして今回の実写版「ルックバック」ですが、あの是枝裕和監督がメガホンを取るということで注目されました。是枝監督はわたしと同い年なのですが、正直、わたしはあまり彼の作品を評価していません。ただし、一条真也の映画館「海街diary」で紹介した2015年の映画だけは傑作だと思っています。その他は受賞して話題になった一条真也の映画館「万引き家族」で紹介した2018年のカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞映画もまったく共感できませんでしたし、一条真也の映画館「箱の中の羊」で紹介したグリーフケア映画も駄作だと思いました。それでも、本作「ルックバック」は良かったです。アニメ版を忠実に踏襲したこともあるのでしょうが、数多くの是枝作品の中ではとびきりの名作に仕上がっていました。

ふと、思ったのは「是枝監督はコミックの映画化が得意なのでは?」ということでした。わたしがこれまでで唯一好きな是枝作品である「海街diary」も吉田秋生のベストセラー・コミックが原作です。鎌倉で暮らす、幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)。そんな彼女たちのもとに、15年前に姿を消した父親が亡くなったという知らせが届く。葬儀が執り行われる山形へと向かった三人は、そこで父とほかの女性の間に生まれた異母妹すず(広瀬すず)と対面する。身寄りがいなくなった今後の生活を前にしながらも、気丈かつ毅然と振る舞おうとするすず。その姿を見た幸は、彼女に鎌倉で自分たちと一緒に暮らさないかと持ち掛ける。こうして鎌倉での生活がスタートするのでした。

「海街diary」では、なんといっても超新星の広瀬すずが最高に輝いていましたが、本作「ルックバック」でも藤野を演じた出口夏希が素晴らしく、日本映画界の超新生となる予感がしました。また、小中学生時代の藤野を演じた七瀬ふうりも良かったです。透明感があってとても可愛らしく、若き日の広瀬すずを連想させました。是枝監督はコミックの実写化も巧いですが、少女を描くことも得意なのかもしれませんね。また本作は映像が美しかったです。特に、物語の舞台となっている山形の四季の描写が秀逸でした。京本が藤野に決別宣言をするシーンでは本物のマジックアワーに撮影されていることも監督のこだわりを感じました。正直、「落ち目の是枝裕和が上り坂の押山清高を超えられるわけないだろう」と思っていましたが、本作はアニメ版に劣らない名作となっていました。すべての是枝作品の中でもベストであり、これを機に是枝監督の復活を望むばかりです。

本作では藤野と京本の2人以外にもさまざまな魅力的な人物が登場し、それぞれ旬の役者が演じていました。漫画雑誌の編集者を演じた菅田将暉も良かったですが、何といっても藤野の小学生時代の担任教師を演じた宮藤官九郎が素晴らしかったです。その担任教師は不登校の京本が描いた4コマ漫画を学級通信(クラスだより)に載せることを藤野に打診します。この出来事がきっかけで藤野は京本の存在を知り、絵の道へ大きな影響を受けることになります。また、卒業式に出席しなかった京本の自宅へ卒業証書を持っていってほしいと藤野に頼むのもこの教師です。その結果、藤野と京本は運命の出会いを果たすのです。宮藤官九郎といえば、一条真也の映画館「時には懺悔を」で紹介した現在公開中の日本映画にも重要な役で出演していますが、本当に存在感のある人ですね。

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