No.0010
「涙そうそう」といえば、映画にもなりましたね。
妻夫木聡と長澤まさみが、血のつがっていない兄と妹を演じました。
どんな困難に直面しても、「なんくるないさ~」と笑う兄の前向きさと、そんな兄を心から慕う妹の可憐さが印象的でした。
この映画の最大のハイライトは、なんといっても兄妹の別れのシーンです。
何度観ても泣けてくる名場面です。
妻夫木聡が鼻をつまんで男泣きする姿は一世一代の名演技ですね。
観ているこちらまで鼻をつまんで泣きたくなってきます。
いくら我慢しても、涙が出てきます。
わたしは昨年、涙についての本を書きました。
『涙は世界で一番小さな海』(三五館)という本です。
アンデルセンは、涙は「世界でいちばん小さな海」だといいました。
そして、わたしたちは、自分で小さな海をつくることができます。
その小さな海は大きな海につながっているのです。
沖縄には、人は亡くなったら海の彼方の「ニライカナイ」という理想郷に行くのだという伝説があります。妹は「会いたいときは、いつでも会えるから」と言って兄と別れますが、二人はもう会うことはありませんでした。
無理がたたって兄が亡くなってしまうからです。
兄の葬儀を終え、砂浜に座って海を見つめる妹に、平良とみ演じる祖母が優しく声をかけ、「兄さんはニライカナイで幸せに暮らすんだよ」と言うのです。
死者が海の彼方の理想郷で生きているというファンタジーを大切にする沖縄の人々は、本当に心ゆたかであると思わずにはいられません。
そして妹の元に亡くなった兄から荷物が届きます。
それは妹の成人式用の着物でした。
兄は、たった一人の妹に成人式の晴れ着を買ってやるために、無理をして働いていたのですね。そのために若くして命を落としてしまったわけですが、そんな兄の深い愛情は妹の心にしっかりと届くのでした。
こんなにも成人式を大事にしている人もいるのですから、もはや恒例となった沖縄の荒れる成人式は悲しいですね。
「守礼之邦」の名が泣きますよ!
あなたの"一番星"は誰ですか?
ラストでは、夏川りみの歌声に乗って、妹の美しい晴れ着姿が映し出されます。
成人式があって、葬儀がある。
当然ながら、兄は成人式後の妹の花嫁姿も見たかったはずです。
そこには、家族への限りない愛があります。
「涙そうそう」は、まさに冠婚葬祭と家族愛を描いた沖縄の映画でした。
サンレー沖縄のみんながこの映画を観たことは言うまでもありません。
この映画は『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)で取り上げました。