No.0087
ブログ「アルバート氏の人生」で紹介した作品を観た後、同じ映画館でもう1本観ました。「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」という映画です。
じつは、横浜に住んでいる長女が東京に引っ越すことになりました。その部屋探しに同行することになり、その前に待ち合わせた長女と一緒に観ました。
「老人映画の傑作」という評判を聞いていたので、大学の社会学部で高齢者福祉の勉強をしている長女にもぜひ観せたいと思ったのです。
静かな感動を呼ぶ「アルバート氏の人生」とは違って、こちらはドタバタもある群像コメディーで、非常に明るい印象を持ちました。舞台がインドなのですが、まさにインド映画の雰囲気を醸し出していました。でも、この作品そのものはインド映画ではなく、イギリス・アメリカ・アラブ首長国連邦の製作となっています。
監督は、「恋におちたシェイクスピア」のジョン・マッデン。
「007」シリーズの"M"役のジュディ・デンチ、「ハリー・ポッター」シリーズのマクゴナガル先生役のマギー・スミス、さらにはビル・ナイやトム・ウィルキンソンなど、イギリスの実力派ベテラン俳優陣を揃えています。
物語は、イギリスに暮らす男女7人の生活の描写から始まります。
人生の終盤を迎えたシニア世代の彼らは、それぞれに事情も抱えています。
「マリーゴールド・ホテルで、穏やかで心地良い日々を-」という宣伝に魅力を感じた彼らは、インドの豪華リゾートホテルへの移住を決意します。
ところが、待っていたのは倒壊寸前のオンボロ・ホテルでした。豪華ホテルでのセカンドライフを夢見た彼らは、粉飾されたホームページに騙されたのでした。
それでも、異文化の世界に驚きながら寺院巡りをしたり、仕事を見つけたり・・・・・人生を楽しもうとする前向きな彼らの姿が涙と笑いを誘います。
この映画のイギリスの公開初日には、久しく映画館から足が遠のいていた熟年夫婦や独身高齢者の長蛇の列がチケット売場にできたそうです。日本でも、観客の多くは高齢者だと聞きました。実際、わたしたち親子が観賞したときも、東京の日比谷という土地柄もあるのでしょうがシニア世代が多かったです。
とはいえ、この名作を熟年ファンしか観ないのは惜しいと思います。
ホテルの支配人であるソニーは映画で重要な役割を果たしますが、彼はまだ20代の若者です。彼は、インドでは常識である親の指定する女性との婚約を拒否します。そして、自分の愛する女性と婚約を果たそうとするのです。
つまり、この映画は老若男女に関わらず、「自らが運命を切り拓くこと」の大切さを訴えているのではないでしょうか。そう、この映画は安易に運命に流されずに積極的に挑戦する勇気を与えてくれるのです。
それから、ホームページを粉飾することは感心しませんが(というより犯罪)、どんな手段を使ってでもホテルを守ろうとする支配人ソニーの情熱には胸を打たれました。彼は、心の底からマリーゴールド・ホテルを愛しているのです。
そういえば、「アルバート氏の人生」の舞台もホテルであり、経営難のホテルを必死で守る女主人が登場します。彼女は、どちらかというと悪役なのですが、それでもホテルへの深い愛情はソニーに通じます。時代背景も国も違う2つの映画に登場するホテルがともに倒産寸前であるというのは、ホテルという商売がもともと非常に経営の難しいビジネスであることを物語っています。
特に、日本においては大手も含めて、ほとんどが赤字に苦しんでいます。
しかし、奇しくも「ホテル映画」というジャンルに入る「アルバート氏の人生」と「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」の2作から、わたしはホテルの素晴らしさ、そしてオーナーのホテルへの愛情を学びました。
そう、たしかにホテル経営は難しいです。働く人たちも、苦労が多いと思います。
でも、言わせて下さい。それでも、ホテル業ほど素敵な商売はありません! 多くのお客様の人生が交錯し、喜びも悲しみも優しく受け容れるホテル業というビジネスは、やりがいと面白さに満ちているのです。
「アルバート氏の人生」と「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」を観終わったわたしは、わが社の松柏園ホテルを思い浮かべていました。
ソニーは、マリーゴールド・ホテルで生まれて育ちました。
それと同じように、わたしは松柏園ホテルで生まれて育ったのです。
わたしも、ソニーのようにわがホテルを心の底から愛そうと思いました。
そして、わがホテルで多くの人たちを幸せにしたいと強く思いました。
すると、自然に松柏園で働くスタッフの顔が次々に浮かんできました。
松柏園で働く人たちは、みんなハートフル・スタッフです。
彼らならば、多くの人たちを絶対に幸せにできるはずです。
気づくと、わたしは「松柏園ホテルで会いましょう」とつぶやいていました。
ちょうど今、東京ビッグサイトで「ホテル・レストランショー」が開催され、わが社のスタッフも訪れていることと思います。松柏園だけでなく、世界中のホテルで働く人々が自分の仕事に誇りを持ち、生き生きと働けますように・・・・・
もう一度言います。ホテル業ほど素敵な商売はありません!
この映画は『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)で取り上げました。