No.0117
北九州では観れないミニシアター系の映画を観ました。「タイピスト!」というフランス映画です。とてもオシャレでキュートでエキサイティングな映画でした。いやあ、面白かったです。音楽も最高でした!
映画公式HPの「Introduction」には「これは、ある田舎娘がタイプライターひとつで世界に挑む戦いの記録である―」「50年代フランスを舞台に、本当にあった世界大会に全てをかけるヒロインを描く、サクセス・エンターテインメント!」というリード文に続いて、以下のように書かれています。
「1950年代フランス。女性たちは自由を求めて社会へ飛び出そうとしていた。そんな彼女たちの憧れNO.1の職業は『秘書』。その中でももっともステイタスを得られるのは、当時一大競技として人気だった<タイプライター早打ち大会>で勝つこと。ドジで不器用なローズは、秘書になるため各国代表と、タイプでオリンピックさながらの闘いに挑むことになるが―。
『アーティスト』『オーケストラ!』の制作陣が集結。タイプ早打ちの知られざる、しかし、過酷な死闘を繰り広げる競技の白熱シーンの驚きも話題となり、本年度セザール賞5部門にノミネートされた。天然系キュートなヒロイン×ポップな50年代カルチャー×興奮と感動のスポ根。エンターテインメントが誕生した!」
また、公式HPの「Story」には「クビ宣言を受けた新米秘書に残された道は、世界大会出場。憧れの上司は鬼コーチとなり、めざすはまさかの優勝!?」のリードに続いて、以下のように映画の「あらすじ」が書かれています。
「都会暮らしに憧れて、田舎から出て来たローズは、保険会社を経営するルイに秘書に応募。晴れて採用されるも、ドジで不器用なローズは、一週間でクビ確定に。『ただし―』と、意外な提案をもちかけるルイ。
ローズの唯一の才能<タイプの早打ち>を見抜いたルイは、彼女と組んで世界大会で優勝するという野望を抱く。ところが、初めての闘いに動揺したローズは地方予選であっさり敗退、その日からルイのコーチ魂に火が付き、鬼コーチとしての特訓が始まる。1本指打法から10本指への矯正、難解な文学書のタイプ、ピアノレッスン、ジョギング、心理戦の訓練・・・。厳しいトレーニングに耐えたローズは地方大会を1位通過、全仏大会のために夢のパリへと乗り込む。そこには、3度目の防衛を狙う恐るべき女王が待ち受けていた―」
レジス・ロワンサル監督は42歳とのことですが、本当に小粋な映画を撮ってきれたものです。主演のデボラ・フランソワが可愛くて、「現代のオードリー・ヘップバーンの登場!」という謳い文句も納得できるかも? 作中にも主人公の部屋の壁に母親の写真とオードリーのブロマイドを並べて貼ってあるシーンが登場し、デボラをオードリーに重ね合わせようとする意図が見えました。
オードリーといえば、「タイピスト!」のデボラは「麗しのサブリナ」のときのオードリーのムードに似ていましたね。サブリナとローズは、田舎娘が一人前の大人の女に成長していくという意味でも共通しています。
「女性の自立」をテーマにしているだけに、ヒロインのローズがルイに初めて抱かれるときに「わたし、初めてじゃないのよ」と言ってみたり、都会の女性ぶってタバコを吸ってみたりする場面もありました。
これが50年代後半のフランスの風潮だったのかもしれませんね。
また、映画全体の雰囲気はビリー・ワイルダー監督の「アパートの鍵貸します」に似ていました。「アパートの鍵貸します」には、たしか多くの会社員がタイプライターを打つシーンも出てきたように記憶しています。
いずれにせよ、「麗しのサブリナ」や「アパートの鍵貸します」の時代背景は、まさに50年代であり、当時の映画界はアメリカもフランスも最高に輝いていました。
「タイピスト!」は、これらのハリウッドの黄金期に作られた作品と同じようなオーラを放っていました。考えてみれば、凄いことですね。「タイピスト!」はフランス映画祭で観客賞を受賞し、日本でもネットなどの評価が非常に高いです。
CGとか派手なアクション満載の今風の映画もいいけれど、こういった素朴な映画を観客も求めているのかもしれませんね。
それにしても、タイプライターの早打ち大会なんて初耳ですが、実在したというから面白いですね。作中では、早打ち大会の全仏チャンピオンとなり人気者になったローズが、「なぜ、タイプライターを早く打つのですか?」というインタビュアーに対して「スピードの向上は進歩の証です。スポーツと同じですよ」と答えるシーンがあります。たしかに、スポーツにせよ飛行機や新幹線などの乗り物にせよ20世紀以降の人類はひたすら「スピード」を追求してきました。その結果、素早く調理される「ファストフード」なども生まれました。その反動から21世紀になって「スローフード」をはじめとした「スローライフ」という考え方も生まれてきたわけです。その意味で、「タイピスト!」は人類が無邪気にスピードを追求していた頃を描いた映画なのです。このへんをもっと文明論的に考察してみても面白いかもしれませんね。
ところで、この「タイピスト!」には、同じく世界的に大ヒットしたフランス映画である「アーティスト」と「オーケストラ!」の製作スタッフが参集したそうです。
わたしのブログ記事「アーティスト」で紹介した映画は、モノクロ&サイレントでハリウッドの過渡期を描いた作品で、オスカー主要5部門を受賞しました。
また、同ブログ記事「オーケストラ!」で紹介した映画は、かつて一流オーケストラの天才指揮者だった中年清掃員が、出演できなくなった楽団の代わりに、昔の楽団仲間を集めてコンサートに出場しようと奮闘する作品です。
「アーティスト」と「オーケストラ!」は、どちらもわたしの大好きな作品です。
「タイピスト!」も含めてこの3本のフランス映画に共通するのは、いずれもハッピーエンドのサクセス・エンターテインメントであること。
思うのですが、もし日本人監督が「タイピスト!」を撮ったとしたら、多分、最後の結末は違っていたというか、アンハッピーエンドにしたのではないでしょうか。その理由は「ハッピーエンドでは安直なので、物語に深みに持たせるため」です。
でも、今の日本映画はちょっと暗過ぎる気がします。おそらく世相を反映しているのでしょうが、もっと「安直」で「ハッピーエンド」なサクセス・エンターテインメントを観て元気になりた いと思っているのは、わたしだけではありますまい。
わたしは、おフランスで作られた「タイピスト!」を観て、元気になったざます!