映画「ゼロ・グラビティ」を観ました。
 この映画、映画史上最もリアルに宇宙空間を表現しているとの前評判を聞いていました。それ以来、ずっと観るのを楽しみにしていたのです。
 いや、予想以上に素晴らしかったです。3Dで観たのですが、上映された91分間、わたしは宇宙を漂流する疑似体験をすることができました。

 この作品は、「天国の入口、終りの楽園。」「ハリー・ポッターとアズガバンの囚人」「トゥモロー・ワールド」などで知られるアルフォンソ・キュアロンが製作・監督・脚本を務めたスペー
ス・サスペンスです。
 第70回ベネチア国際映画祭のオープニング作品となっています。
 出演がサンドラ・ブロックとジョージ・クルー二―の2人(なんと、この2人しか映画に登場しません)と初めて知ったとき、正直あまり観たいとは思いませんでした。「いかにも、ハリウッドだなあ」という印象がして、とりあえず有名俳優を揃え、CGを駆使して巨額の制作費をかけただけのSF映画を想像したからです。
 しかし、その予想は完全に裏切られました。というより、「やっぱり、ハリウッドはすげえなあ!」と心の底から思いましたね。いや、まったく。

 映画の舞台は、地表から600キロメートルも離れた宇宙です。
 女性メディカルエンジニアのライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)とベテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)の2人は、ミッションを遂行していました。するとミサイルで爆破されたロシアの人工衛星の破片が飛来するという想定外の事態が起こります。その結果、ライアンやマットの搭乗していたスペースシャトルが大破し、他の乗組員は全員死亡。2人は1本のロープでつながれたまま漆黒の無重力空間へと放り出されてしまいます。
 地球に戻る交通手段であったスペースシャトルを失ったばかりか、ヒューストンとの交信も断たれ、さらには残された酸素も2時間分しかありません。このような絶望的な状況で、2人は懸命に生還する方法を探っていくのでした。

 これ以上書くと「ネタバレ」になってしまいますので控えますが、ここからさらに想定外の出来事が次々と起こり、絶え間なく危機が襲いかかってきます。
 果たして、彼らは無事に地球に帰還することができるのでしょうか。
 わたしのブログ記事「キャプテン・フィリップス」に書いたように、わたしは「キャプテン・フィリップス」を同じくトム・ハンクスが主演した「アポロ13」や「キャスト・アウェイ」などの名作と似た内容をイメージしていましたが、予想が裏切られました。つまり、「極限状態に置かれた人間の知恵を描いた映画」をイメージしていたわけですが、この「ゼロ・グラビティ」こそはまさにそんな作品でした。ここには、もう考えうる限りの絶望的な状況、そして考えうる限りの最高の知恵と勇気が描かれています。

 それにしても、宇宙空間のリアルさには深い感銘を受けました。
 映画を観て、これほど宇宙を体感した経験は初めてだと言っていいでしょう。
 北九州市にあるテーマパーク「スペースワールド」のアトラクションを彷彿とさせました。この映画の試写会をスペースワールドでやれば話題になったかも。
 ハリウッドは、これまで多くの宇宙を描き続けてきました。
 しかし、この映画は間違いなく最高傑作であると確信します。
 UFOもエイリアンも登場しない漆黒の闇。それがリアルな宇宙です。
映画.com」で評論家の芝山幹郎氏は「作業中の宇宙飛行士(サンドラ・ブロックとジョージ・クルーニー)が、地球から600キロ以上離れた空間を漂流する。重力はない。助けは来ない。声は届かない。キュアロンは、このシンプルな設定で90分間、観客を宙吊りにする。発想の基本は『活動大写真』だ。一難去ってまた一難。序盤の快活な雰囲気は、いつしか底知れぬ悪夢へと変貌していく」とコメントしていますが、この「活動大写真」という表現にはまったく同感です。

 宇宙空間はもとより、宇宙船内の様子も非常にリアルでした。主演のサンドラ・ブロックはワークアウトによって身体を鍛えており、二の腕も太腿も逞しく、それがまた奇妙なリアリティを観客に与えます。無重力空間をフワフワ浮遊する場面など、「いったい、どうやって撮影したのだろう?」と、何度も思いました。
 サンドラは、「どのようにしてあのリアルな映像は作られたのですか?」というインタビュアーの質問に対して、「特別なワイヤーシステムやキューブ(撮影中サンドラが入っていた約3メートル四方の箱)を使って撮影したわ。シーンの順番をばらばらに撮影しているから、それらを後でつないでいったの。250人のコンピューターの天才職人たちが作業をしてくれたのよ」と答えています。

 また、この映画では絶対的な人間の「孤独」が見事に描かれていました。
 「もしあなたが宇宙にいたら、何が恋しいと思いますか?」という質問に対して、サンドラは「もし宇宙ですごく孤独になったら、人間とのやり取りなら何でも恋しくなるわ。撮影中もわたしは1人きりが多かったから、そうだったの。わたしのヘルメットを外しに来てくれた人が、どれほど優しかったか。感謝しているわ。音響担当の人も毎日の終わりに「彼女をハッピーにさせる音楽を何かかけよう」と言ってくれた。チョコレート1切れをそっと渡してくれたり、コーヒーを持ってきてくれるだけでも、『(感動して)オオオオ』という感じになったわ(笑)」と答えています。

 そう、宇宙空間ほど孤独な場所はありません。
 主人公のライアンは以前、4歳になる娘を怪我で亡くしていました。ちなみにライアンを演じたサンドラには3歳の息子がおり、今は「自分の命より大事」だそうです。そんな最愛の我が子を亡くす哀しみを素晴らしい演技で表現していました。
 映画では、「地球には誰か大事な人はいるのかい?」というマットの問いに、ライアンは今は亡き愛娘の面影を想います。それが、彼女をさらに孤独にするのですが、そのうち思わぬ展開というか、彼女の孤独を癒すある奇跡が起こります。
 ネタバレになるので詳しくは書きませんが、「生者は死者に支えられて生きている」ということです。この事実が感動的に観客に突きつけられます。そして、光も音も空気もない宇宙空間が「死の世界」だという事実も突きつけられます。

 わたしのブログ記事「宇宙葬」で紹介したアメリカの宇宙葬のことを想いました。
 かつては「SF」の世界の話であった宇宙葬が、いよいよ現実的になってきました。宇宙葬とは、いわゆる散骨の形態の1つです。故人の遺骨などを納めたロケットを宇宙空間に打ち上げるというものですが、初の宇宙葬はもう15年以上前に行われました。1997年4月21日、空中発射型ロケットのペガサスロケットによって行われました。このロケットには24人分の遺骨が格納されており、カナリア諸島の上空11kmから発射されました。ロケットは遠地点578km・近地点551kmで公転周期96分の楕円軌道に乗り、2002年5月20日にオーストラリア北部に落下しています。

 2013年10月、アメリカのエリジウム・スペース社の宇宙葬が日本にも上陸してきました。同社のトマ・シベ(Thomas Civeit)CEOは元NASAの技術者で、ハッブル望遠鏡の開発者でもあります。
 その彼は、わたしの『ロマンティック・デス~月と死のセレモニー』(国書刊行会)を読んで、宇宙葬ビジネスへの挑戦を決意されたそうです。
 基本的に、宇宙葬とは遺骨入りのカプセルを大量に納めた人工衛星を打ち上げるというものです。そのまま人工衛星が「星」となって永久に地球の周囲を回るのであればロマンティックですが、「ゼロ・グラビティ」を観て、他の衛星などの破片に衝突されて破壊される可能性もあるのだと悟りました。やはり周回する衛星よりも、月を安住の地とする「月面聖塔」のほうがいいと思います。

 この映画を観て、つくづく感じたのは「宇宙は人間の世界を超越している」ということ。「宇宙の果て」について説明できないことも、その理由の1つです。
 「この映画のテーマは何だと思いますか?」という質問に対して、サンドラは「わたしがこの作品から得たのは、畏敬の念ね。大きな宇宙の中で、わたしたちがいかに小さな存在か、そしていかに人生を無駄使いしているかを強く感じたわ。人生は驚嘆すべきもので、そこにはパワーやマジックがある。この作品のどこが美しいかというと、人生において、どこから助けがやってくるか決してわからないということを描いていることだと思うわ」と答えていますが、まさに宇宙とはサムシング・グレートそのもの、人間は「畏敬」の念を覚えずにはいられません。
 畏敬すべき宇宙を体感する映画としては、SF映画の最高峰とされるスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」を思い出してしまいます。名曲「美しき青きドナウ」が流れる中、人類文明の粋を凝らした宇宙ステーションが全貌を現した感動的な冒頭シーンを忘れることができません。今は亡きキューブリックが「ゼロ・グラビティ」を観たら、何とコメントしたでしょうか?

 最後に、この映画の原題は「GRAVITY」です。つまり「重力」という意味です。
 しかし、邦題では「ゼロ」をつけて「無重力」としました。この「ゼロ」に、わたしはもうすぐ公開される日本映画「永遠の0(ゼロ)」を連想しました。
 けっしてこじつけではありません。狭い宇宙船の中で漆黒の闇を漂うライアンの孤独は、ゼロ戦に搭乗した特攻隊員の孤独に通じていると思います。ライアンは「もう、ここまで」と諦めた絶望的な状況の中で、地球上の見知らぬ他人と偶然つながった無線に向って、「わたし、これから死ぬのよ。人間いつかは死ぬものだけど、わたしは今日死ぬの。不思議ね、死を悟るって気分・・・・・」

 死を覚悟するという点においても、ライアンは特攻隊員と同じ心境でした。
 しかしながら、あくまでも「生きて地球に帰還する」という目的のあるライアンに対して、「死んで日本を守る」と決意した特攻隊員の心中を想像するとやりきれません。「永遠の0」は21日(土)公開なので、ぜひ観たいと思います。
 最後に、「ゼロ・グラビティ」は絶対に3Dで観賞することをおススメします!
 これほど3Dと相性の良い映画は「アバター」以来だと思います。
 この映画は『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)で取り上げました。

  • 販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日:2014/12/03
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