No.0148


 東京・丸の内ルーブルで「マンデラ 自由への長い道」を観ました。
 じつに久々の映画館での映画鑑賞でした。

 毎日、かなりハードなスケジュールです。とても映画など観ている余裕はないのですが、わたしの心の中に住んでいる"映画男"が「そろそろ、映画を見せろ!」と悲鳴をあげたので、なんとか時間をやり繰りして、ようやく観た次第です。

 「マンデラ 自由への長い道」は、とても観たかった映画でした。
 29日、東京に向かうスターフライヤーの中で『知の英断』吉成真由美インタビュー・編(NHK出版新書)、『ノーベル平和賞で世の中がわかる』池上彰著(マガジンハウス)の2冊を読みました。2冊ともにネルソン・マンデラが登場し、彼に対する興味が強く湧いてきたのです。

 『知の英断』の序文は、「ネルソン・マンデラの教え」という題名でジミー・カーター(アメリカ合衆国元大統領)の文章です。
 その冒頭で、カーター元大統領は次のように述べています。


「ネルソン・マンデラからは、大きなインスピレーションを受けました。南アフリカ共和国の白人統治者たちは、彼を、人生の4分の1あまり―27年にもわたって投獄しました。抑圧的でしばしば暴力的な当時の政権に対して、彼が、黒人市民として果敢に抵抗したからです。ネルソン・マンデラは、1990年に釈放されてから、思いがけない行動に出ました。自分を捕らえた人たちを許して、南アフリカ共和国初の黒人大統領となったのです。南アフリカ国内のひどい対立を緩和し、国家として融和するよう助けたわけです。
 ネルソン・マンデラは、肌の色、性別、富の多少にかかわらず、社会がすべての人間を受け入れることを求めていました。しかも素晴らしくうまくいった。間違いなく、ごくわずかな特別な人間だけがなしうるようなスケールで、未来の世代の人々をインスパイアし続けていくことでしょう」

 マンデラが登場する映画といえば、クリント・イーストウッド監督の「インビクタス/負けざる者たち」を思い出します。
 映画公式HPの「INTRODUCTION」には、「混迷する世界のなかで、差別と闘いながら愛と共に共存を説いた指導者ネルソン・マンデラの真実の軌跡、完全映画化―。」というリードに続いて、以下のように解説されます。


「人が人を差別する制度に異を唱え、自由と平等の世界をつくるために生涯をかけた、南アフリカ共和国の英ネルソン・マンデラ(愛称:マディバ)。残念ながら2013年12月5日に他界したが、悪名高いアパルトヘイト(人種隔離政策)に反対し、27年の牢獄生活に屈することなくアパルトヘイトの撤廃を勝ち取ったマンデラの存在こそが21世紀世界の、まさに希望の象徴だった。憎しみの連鎖が横行する現在、復讐を否定し赦しを説く彼のことばの数々は、今も人々の心のなかに生き続け、そのメッセージは永遠の輝きを帯びている」

 続けて、「INTRODUCTION」には以下のように書かれています。


「本作は、マンデラのプライベートな部分も包み隠さず記され、世界中から映画化のオファーが殺到したが、マンデラは『これは南アフリカの物語だ。君につくってほしい』と、本作のプロデュ―サーであるインド系のアナント・シンを指名した。シン自身も南アフリカにおいて反アパルトヘイト運動に参画し、『サラフィナ!』をはじめとする傑作をいくつも送り出していた。決して美化しないという条件のもとで映画化権を獲得したシンは、16年の歳月を費やして作品を誕生させた」

 そして、「INTRODUCTION」は以下のように続きます。


「ネルソン・マンデラに扮するのはイドリス・エルバ。『28週後・・・』や『パシフィック・リム』『マイティー・ソー』シリーズなどで強烈な個性を披露した彼が、カリスマ性と愛嬌をもった指導者をみごとに表現している。マンデラの最愛の妻ウィニーには『007 スカイフォール』のナオミ・ハリス。ふたりを囲んで『インビクタス/負けざる者たち』のトニー・キゴロギをはじめ、リアード・ムーサ、ファナ・モコエナなど、南アフリカを代表する俳優が選りすぐられている」

 さらに「特筆すべきは、マンデラと親交の厚かったボノ率いるU2が、楽曲「オーディナリー・ラヴ」を進んで提供していることだ。マンデラを敬愛する人々が結集して生みだされた本作を象徴するようなエピソードである」と書かれています。「INTRODUCTION」の最後には、「すべての人々が協調して、平等な機会の下でともに暮らす。民主的で自由な社会という理想に、私は人生を捧げる」というマンデラ自身の言葉が紹介されています。

 この「マンデラ 自由への長い道」を観て、まず思ったことは、マンデラの赤裸々な私生活もすべて描かれていることでした。特に、彼はけっこうモテたようで、妻子がいるのにもかかわらず、美女と浮気をしてしまい、それが発覚して最初の夫人に逃げられた場面にはちょっと驚きました。というのも、マンデラというと聖人君子のイメージがあり、浮気などには無縁だと思っていたからです。でも、この映画を観る限り、彼はかなりの女性好きだったようですね。しかし、だからといって、偉大なるマンデラの生涯に対する評価はまったく揺るぎません。

 じつは最近、「東京の止まり木」こと赤坂見附にあるカラオケスナックDANで飲んでいるとき、マスターから「一条先生は、不倫についてどう思われますか?」との質問を受けました。そこでも話したのですが、わたしは浮気ごときに「不倫」という表現を用いるのは大仰であると思っています。「不倫」の倫とは「倫理」すなわち「人の道」のこと。つまり、不倫とは「人の道から外れる」ことです。殺人をはじめとした重大な犯罪に比べて、たかが男女の浮気ごときを「不倫」と表現して大騒ぎすることには昔から違和感を持っていました。本当の不倫とは、親が亡くなっても葬儀をあげないといった行為ではないでしょうか。その意味で「葬式は、要らない」は「不倫のすすめ」と同義語だと思います。

 そもそも「人の道」を求めるといえば儒教が代表的宗教ですが、「論語と算盤」で知られる日本資本主義の父・渋沢栄一翁は相当な女性好きで、お妾さんが何人もいたそうです。翁の奥方は「あなたが求めるのが儒教で良かったですね。キリスト教なら、お妾さんは持てませんからね」と嫌味を言われたとか。儒教的には浮気はOKなのです。
 この映画の主人公であるマンデラも、「英雄、色を好む」ということで、健康な男子の生き方をしただけであり、それは彼の偉業を少しも損なうものではありません。完璧な聖人君子よりも人間らしくて良いと思います。とはいえ、わたし自身が浮気をしているわけではありませんので、念のため。

 しかし、そのマンデラも二度目の妻から裏切られ、心を傷めます。つまり、妻に愛人がいることが発覚したのです。あまりにも長く夫が獄中にいたため、妻は孤独に耐えられなくなったのでした。
 亀裂が入ってしまった夫婦は、ついに別居に至ります。
 マンデラは「昔の彼女を愛している」というセリフを吐くのですが、彼らの結婚式のシーンは素晴らしかったです。アフリカの民族衣装に身をまとい、荘厳な儀式と周囲からの祝福・・・・そこには、アフリカ人の民族性や宗教観が見事に表現されており、やはり冠婚葬祭とは「文化の核」であると再認識した次第です。

 ところで、映画の中で老いたマンデラが「人の道」を説く孔子のように見えた場面がありました。彼の孫たちが見張りの白人男性たちに悪態をついたり、からかったりするシーンが登場するのですが、それを見たマンデラは孫たちの行為を咎め、優しく叱ります。そして、たとえ相手が白人であっても礼儀正しく接しなさいと教えるのです。このシーンには感動を覚えました。「礼」とは相手を選ばず、誰にでも尽くすべきものだからです。マンデラは大いなる「礼」の人でした。

 また、差別を憎み、「平等」を追及するところはブッダのようにも見えました。
 ブッダはインドのカースト制度を撤廃することはできませんでしたが、マンデラは南アフリカのアパルトヘイト制度を撤廃しました。いかにマンデラの成し遂げたことが凄いかがわかります。
 また、弁護士から政治家となり、「自由」と「平和」をひたすら追求した姿は、かのマハトマ・ガンディーにも重なります。マンデラもガンディーと同じく、非暴力の平和政策を愚直なまでに貫きました。まさに、彼らは「平和バカ一代」であったと思います。わたしはもともと「アフリカのガンディー」といったイメージをマンデラに抱いていたのですが、この映画を観て、その思いがいっそう強くなりました。

 最後に、邦題のように、この映画は「自由」の素晴らしさを描いています。
 牢獄での生活がいかに不自由か、観ている方が息苦しくなるくらいでした。
 狭い独房の中でマンデラが体を鍛え、シャドーボクシングをする場面は「あしたのジョー」を連想させました。
 また、長男の死を獄中で知り、その葬儀にも立ち会えなかったマンデラの苦悩を観て、たまらなくなりました。この世で「愛する者を弔うことができない」以上に、大きな苦悩はありません。日本人も、あの東日本大震災のとき、「愛する者を普通に弔うことができる」幸せを噛みしめたように思います。

 人生の4分の1以上を牢獄で過ごしたマンデラにとって「自由」とは何よりも価値のあるものでしたが、自分だけの自由ではなく、すべての民衆の自由を勝ち取ったところに彼のリーダーとしての偉大さがあります。そして、その陰には気の遠くなるような「忍耐」の日々がありました。

 6月3日、わたしは業界団体の会長に就任する予定なのですが、「リーダーとは何か」を考える上で、マンデラの人生から多くのものを学ばせてもらいました。ということで、今日はこれから北九州へ帰ります。
 6月は、5月以上に怒涛のスケジュールが待ち受けています。
 ああ今度、映画館に行けるのはいつのことやら?

  • 販売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
  • 発売日:2015/12/02
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