No.0336
映画「レディ・プレイヤー1」をレイトショーで観ました。スティーヴン・スピルバーグの最新作です。最高に刺激的な映像体験でした。
ヤフー映画の「解説」には、以下のように書かれています。「スティーヴン・スピルバーグがアーネスト・クラインの小説を映画化した、仮想ネットワークシステムの謎を探る高校生の活躍を描くSFアドベンチャー。2045年を舞台に、仮想ネットワークシステム『オアシス』開発者の遺産争奪戦を描く。主人公を『MUD マッド』『グランド・ジョー』などのタイ・シェリダンが演じる。共演は、オリヴィア・クック、マーク・ライランス、サイモン・ペッグ、T・J・ミラー、ベン・メンデルソーン、森崎ウィンら」
また、ヤフー映画の「あらすじ」には、以下のように書かれています。「2045年、人類は思い浮かんだ夢が実現するVRワールド『オアシス』で生活していた。ある日、オアシスの創設者の遺言が発表される。その内容は、オアシスの三つの謎を解いた者に全財産の56兆円とこの世界を与えるというものだった。これを受けて、全世界を巻き込む争奪戦が起こり......」
この作品をわたしは3Dで鑑賞したのですが、冒頭からヴァン・ヘイレンの「JUMP」が鳴り響き、ドラッグレースには「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンや「AKIRA」の金田バイクが疾走し、ティラノサウルスやキングコングが大暴れします。いやあ、いきなり、ぶっ飛びましたね。
アーネスト・クラインが2011年に発表した原作小説『ゲームウォーズ』には、世界的に有名なアニメやコミック、映画のキャラクターを一堂に集め、有名映画やゲームの舞台までも再現され、まさに「ポップカルチャー大集合」の観がありました。映画にはハロー・キティなどのキュートなキャラも一瞬登場しますが、何よりも日本人を驚かせたのは敵のボスがメカゴジラを出現させたこと、さらには日本が誇る巨大メカであるガンダムが颯爽と現れたことでしょう。
ガンダムといえば、20日、「機動戦士ガンダム」シリーズの新作となる映画「機動戦士ガンダムNT」(ナラティブ)が、今年11月に劇場公開されることが発表されました。ガンダム・ファンの人には嬉しい出来事が続きますね。わたしの好みで言えば、シン・ゴジラとエヴァンゲリオンだったら最高でした。でも、無いものねだりをしても仕方がありません。
原作と映画では登場するキャラに違いははありますが、ほぼ原作の映像化に成功しています。エンターテインメントの天才であるスピルバーグでなければ不可能だったでしょう。1946年生まれのスティーヴン・アラン・スピルバーグは、映画監督としては、世界最高のヒットメーカーの1人です。「ジョーズ」「未知との遭遇」「E.T.」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「インディ・ジョーンズ」「ジュラシック・パーク」「シンドラーのリスト」......彼がメガホンを取ったヒット作を挙げていけばキリがありません。
スピルバーグ監督作品の全米生涯興行収入は2018年現在で計46億3660万ドルに達しています。日本円に換算するとほぼ5000億円ですから、凄まじいですね。これは、もちろん監督として歴代1位ですが、プロデュース作品の同興行収入も計77億3330万ドル(約8297億円)を記録していて長年歴代1位でしたが、2018年にケヴィン・ファイギが1位となり、現在は歴代2位となっています。それにしても、ジャーナリズムの尊厳に迫った社会派の傑作「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」を同時進行で仕上げてしまうのですから、その天才ぶりはもはや神がかりであると言えるでしょう。
ガンダム登場にも盛り上がりましたが、わたしが最もコーフンしたのは、1980年に製作された映画「シャイニング」が作品ごと舞台になったことでした。スティーブン・キングの原作小説をもとに、監督スタンリー・キューブリック自らが共同脚色を手がけたホラー映画の金字塔で、わたしの大好きな作品です。原作者のキング自身は気に入らなかったようですが、ホラー映画の歴史を俯瞰しても最恐の作品に仕上がっていると思います。この物語に登場する狂気と殺戮が渦巻くオーバールック・ホテルがそのまま「レディ・プレイヤー1」の舞台となるわけですから、もうたまりませんでした。
こうなると、もっとバラエティに富んだ映画やアニメを「レディ・プレイヤー1」に出したくなるのが人情です。4月19日、「レディ・プレイヤー1」のスペシャルトークセッションが行われました。そこでスピルバーグ監督は、出演者のタイ・シェリダン、オリビア・クック、森崎ウィンとともに登壇しましたが、「日本人のクリエイティビィティについてどう思うか」という記者の質問に対して、スピルバーグは「宮崎駿監督はディズニー以上だ。尊敬している」と述べました。また、「続篇が作られるとしたら、ウルトラマンは登場できないか」という質問には、「権利が取れたら出したいね」と答えました。ぜひ、巨神兵やナウシカやトトロやウルトラマンやバルタン星人が「オアシス」に出現するシーンを見てみたいです。スタジオ・ジブリや円谷プロは前向きに検討していただきたいですね。
「レディ・プレイヤー1」は、バーチャル・リアリティ(VR)の快楽と危険性を描いたSF大作です。VRは、コンピュータによって作り出された世界である人工環境・サイバースペースを現実として知覚させる技術です。時空を超える環境技術であり、人類の認知を拡張します。VRをテーマにした映画といえば、やはり「マトリックス」(1999年)がすぐ思い浮かびますね。ストーリーの各所にメタファーや暗示を置き、哲学や信仰というテーマも表現したSF映画の名作です。従来のCGにはなかった、ワイヤーアクションやバレットタイムなどのVFXを融合した斬新な映像表現は「映像革命」として大きな話題になりました。
『ハートビジネス宣言』(東急エージェンシー)
VRといえば、今から26年も前の1992年に上梓した拙著『ハートビジネス宣言』(東急エージェンシー)において、わたしは「バーチャル・リアリティの役割」という文章を発表しています。そこで、わたしはメディアの歴史およびVRの歴史を振り返りながら、VRにはエンターテインメントを超えた大きな役割があるのではないかと述べ、寝たきり老人や病人のための「仮想体験システム」が大日本印刷やインテルジャパンが共同開発したことを取り上げました。両社は「動物園に行こう」というタイトルで、東京都多摩動物園で録画した約30分の散歩風景のVR映像を作成したのです。
このシステム開発に協力した筑波医学実験用霊長類センター長(当時)の吉川泰弘氏は「寝たきりの病人は、日常生活の変化が少ないため精神的に参りがち、寝たままでも、自分の意志で散歩しているような体験ができれば、お年寄りにはボケ防止、病人には元気づけのきっかけになるはず。思い出深い旅行風景などを映し出せば、患者の精神的な支えになると思う」と「朝日新聞」1991年12月4日朝刊の記事で発言しています。
この記事を読んで非常に感動したわたしは、「足が不自由な人や寝たきりの人が夢の中で、行きたいところへ思い切り走ってゆく。こういう夢をかなえることこそ、VRの最大の役割の1つではないだろうか。VRが人間のための癒しのテクノロジーになる可能性は大いにあるのだ」と書きました。その思いは四半世紀以上を経た今でも変わりません。
『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)
また、今月から上智大学グリーフケア研究所の客員教授に就任したこともあって、わたしは、グリーフケアについて考え続けています。拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)にも書きましたが、わたしは、人間にとっての最大の苦悩は、愛する人を亡くすことだと思っています。老病死の苦悩は、結局は自分自身の問題でしょう。しかし、愛する者を失うことはそれらに勝る大きな苦しみではないでしょうか。配偶者を亡くした人は、立ち直るのに3年はかかるといわれています。幼い子どもを亡くした人は10年かかるとされています。この世にこんな苦しみが、他にあるでしょうか。あまりの苦しみの大きさ、悲しみの深さから自ら命を絶とうする人も多いです。
わたしはVRこそは、グリーフケアにとって大きな力になるような気がします。仮想現実の中で今は亡き愛する人に会う。それはもちろん現実ではありませんが、悲しみの淵にある心を慰めることはできるはずです。何よりも、自殺の危険を回避するだけでもグリーフケアにおけるVRの活用は検討すべきではないかと思います。緊急処置としてのVRで急場を切り抜けて、その後にカウンセリングなどによって「愛する人を亡くした」現実の人生を生きる道を歩み出すことができればいいのではないでしょうか。東日本大震災後には多くの幽霊現象が報告されましたが、あれも「どうしても故人に再会したい」という遺族の脳内VRという側面があったと思います。
故人との再会といえば、「レディ・プレイヤー1」の中にも死者が登場しました。「オアシス」の創始者であるジェームズ・ハリデーです。彼によって組まれたゲームの勝者は「オアシス」の所有権と2400億ドル(56兆円!)相当のハリデーの遺産が授与されることになっているのですから、多くの人々がもう死にもの狂いでゲームに参加しました。「レディ・プレイヤー1」におけるハリデーはまさに創造主であり神そのものでした。会社を創業した仲間との決裂の場面などは、スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグの人生を連想させます。まあ、いま、フェイスブックは大変なことになっていますけどね。
わが書斎のボヘミアングラスの卵型ペーパーウェイト
ゲームの参加者の中には、「オアシス」の管理権を欲する大企業のメンバーもいましたが、この会社がまた究極のブラック企業でした。ハリデーは「オアシス」内にイースターエッグを隠しており、それを得た者が最終的な勝利者となるわけですが、このイースターエッグが映画の最後に姿を見せます。それは、わたしが今月14日にプラハのボヘミアングラスの工場で求めた卵型ペーパーウェイトにそっくりでした。このボヘミアングラスのペーパーウェイト、現在はわが書斎の机の上に鎮座しています。