No.372
4日の日曜日、日本映画「オズランド 笑顔の魔法おしえます。」を観ました。知人が経営する会社が製作委員会に参加している関係で、試写会に何度も誘われたのですが、どうしても予定が合わずに公開後の鑑賞となりました。小倉のシネコンの一番小さい10番シアターで観たのですが、残念ながらガラガラでした。
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『海猿』の原案などで知られる小森陽一の小説『オズの世界』を実写映画化。就職が決まったものの田舎の遊園地に配属されてしまった新入社員が、上司や個性的な従業員たちの中で経験を積んでいく。主人公をNHKの連続テレビ小説『あさが来た』などの波瑠、彼女の上司を『MOZU』シリーズなどの西島秀俊が演じる。『SP』シリーズなどの波多野貴文がメガホンを取り、『ヒロイン失格』などの吉田恵里香が脚本を担当した」
ヤフー映画の「あらすじ」には、こう書かれています。 「超一流のホテルチェーンに就職したが、グループ傘下のローカル遊園地に配属された波平久瑠美(波瑠)は、数々の企画を成功させ『魔法使い』と呼ばれる先輩社員の小塚慶彦(西島秀俊)と出会う。希望の部署に異動するために頑張る久瑠美だったが、失敗だらけで自分の未熟さを痛感する。小塚の叱咤を受けながら経験を重ねる久瑠美は、やがて働くことの楽しさを見いだすが......」
この映画の製作に参加した社長さんには悪いのですが、あまり完成度が高い映画とは思えませんでした。というより、面白くない。主人公の波平久瑠美と恋人のエピソードなど、取ってつけた感じが強く、シナリオに難がありました。また、恋人役の中村倫也と同僚役の岡山天音の顔がよく似ていて(髪型まで同じ)、見分けがつきませんでしたね。似ているといえば、一条真也の映画館「スマホを落としただけなのに」で紹介した映画に出演している成田陵と千葉雄大の顔が似ていて見分けがつかなかった人がいるようですね。同じ映画に、あまり似た顔の役者さんは使わないほうがいいと思います。
何人かの互助会経営者が試写会でこの映画を観たようですが、わたしの聞いた限りでは評価はあまり高くありませんでした。正直、互助会のみならず、サービス業のプロが観れば、「?」という部分が多かったです。この映画に出てくる遊園地では、園長以下、来場者のことを「お客」と呼び、バックヤードに貼られた「五か条の鉄則」とやらにも、「どんなに急いでいても、お客の前では走らない」などと書かれているのですが、「お客」ではなく「お客様」ではなければダメでしょう!
ただ遊園地の企画に関する部分で、わたしの仕事上で参考になったシーンがありました。人気イベントをそのまま繰り返す企画事業部に対して、ある上司が言い放った「同じことばかりをやるんだったら、『企画事業部』じゃなくて、『企画繰り返し部』に名前を変更すればいい」という言葉は名言。わが社の企画スタッフにも、人気イベントを繰り返せばよいと考えている者がいるので、この言葉を聞かせたかったですね。企画は、やはり新しいものに挑戦するマインドが大切です。
新しい企画といえば、この映画の最後にも登場します。ネタバレにならないように具体的な内容は控えますが、費用もかからずに「世界一」の称号を得ることができるナイスな企画だと思いました。
あと、ホスピタリティの実例として、ショーを行うアイドル・グループのために深夜の遊園地で遊ばせるという場面が出てきますが、こういうのは非現実的過ぎます。わたしは、忘れ物をしたお客様のために飛行機に乗って海外まで忘れ物を届けるといった過剰なホスピタリティを紹介したビジネス書が大嫌いで、実害さえあると思っているのですが、この映画の深夜の遊園地にもそれを感じて不愉快になりました。あと、人気のアイドル・グループの子たちが全然かわいくない!
女優陣にしても、メインが波瑠で、サブが橋本愛というのが弱いですね。波瑠はけっして嫌いな女優さんではないのですが、なにぶん華がありません。 テレビ朝日ドラマ「BORDER」の死体検査官の役、TBSドラマ「あなたのことはそれほど」での不倫妻の役は良かったですけどね。
「オズランド」では、小塚の指導のもと日々奮闘する久瑠美や仕事仲間たちの姿が切り取られていますが、その基本として、「お仕事の五か条」というものが示されています。それは以下のような内容です。
1、インパクトのある自己紹介で目立つべし!
2、嫌な仕事からも逃げるべからず!
3、仕事のミスは仕事で取り返すべし!
4、夢はでっかく語るべし!
5、仕事はチームワークが命!
遊園地やテーマパークのリーディング・カンパニーといえば、誰もが「ディズニー」の名前を挙げるでしょう。ディズニーの行動指針は、
1.安全性、2.礼儀正しさ、3.ショー、4.効率。
それぞれの数字は、ずばり優先順位を表しています。この優先順位をつけるというのが非常に重要ですね。東京ディズニーリゾートでは、1年間で約1万8000人のアルバイトの中の9000人が退職します。じつにアルバイトの半数が1年間で辞めてしまうというのです。そこで、短期間にアルバイトのキャストの育成が必要になるわけです。まさに、「人を育てる仕組み」が、ここにあります。
一条真也の読書館『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』で紹介した本によれば、ディズニーには「人は経験で変わる・育つ」という考え方があるそうです。人には変わる・育つ可能性がある。その可能性を実現することが、ディズニーの高いクオリティを維持していくことにつながるというのです。そのために研修、トレーニング、アルバイト・社員間での話し合いなど、さまざまなことが実践されます。同書の著者である福島文二郎氏は、「ディズニーの教育研修やしくみの背景にある基本的な考え方は、規模や業種・業態を問わず、すべての会社・組織に共通する」と断言します。たとえば、「挨拶」や「笑顔」といったサービス業の基本スキルは、パークを訪れたゲストに対してだけでなく、アルバイトや社員間でも求められます。その理由について、福島氏は「その人としての基本的な所作が、実は職場の人間関係をよくし、アルバイト・社員個々の働きがいを育て、ゲストに感動を与えるという重要な役割を果たすからにほかなりません。逆に、挨拶・笑顔の見られない職場では、社員相互の信頼関係も希薄で、社員が働きがいを感じることも少ないものです。それが、CSの低下、会社の衰退に直結することはいうまでもないでしょう」として、「挨拶や笑顔を実行に移せない会社・組織はないはずです」と述べています。
映画「オズランド」の主題歌「Wonderland」は、Dream Amiが歌っています。わたしは彼女のファンなのですが、この曲も元気の出る素敵なナンバーになっています。ブログ「E‐girlsがいい!」で書いたように、ちょうど4年前にスターフライヤーの機内ビデオで流れていたE-girlsのプロモーション・ビデオで彼女の存在を初めて知りました。最初は、隣の席の青年が観ていたE-girlsのプロモーション・ビデオを横から盗み見したのですが、そのカラフルなコスチュームとキレのいいダンスに魅了されてしまいました。わたしは、すぐに「あ、これは、あの某国民的アイドルグループとは違って、本格的なエンターテイナーだ!」と思いましたね。メンバーの多いE-girlsの中で、ひときわ目立つ女の子がいました。ド金髪のAmiという子です。このAmiちゃん、ひたすらニコニコしていて、とにかく愛嬌満点! わたしの中では「金髪といえば不良」といったイメージがありましたが、完全に崩されました。今では「金髪いいじゃない!」と思っています。(笑)
「オズランド」という名前の由来は、もちろん「オズの魔法使い」からです。一条真也の映画館「オズ はじまりの戦い」にも書きましたが、わたしは、ミュージカル映画の金字塔であるMGMの「オズの魔法使い」(1939年)が大好きでした。思えば、この映画を観てから、わたしはファンタジーの世界に魅せられたのでした。主人公ドロシーを演じた主演のジュディ・ガーランドが歌う「虹の彼方へ」も素晴らしい名曲でした。原作であるライマン・フランク・ボームの『オズの魔法使い』は明らかにルイス・キャロルの『ふしぎの国のアリス』の影響で書かれた作品だと思います。メーテルリンクの『青い鳥』の影響で、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』が書かれたのと同じだと思います。チルチルとミチルは、ジョバンニとカンパネルラに姿を変えました。それと同じように、アリスはドロシーへと転身したのではないでしょうか。オズの国については、わたしは『よくわかる伝説の「聖地・幻想世界」事典』(廣済堂文庫)という監修書で詳しく紹介しました。
『よくわかる伝説の「聖地・幻想世界」事典』より
この映画のタイトルには「笑顔の魔法おしえます」という言葉が入っていますが、「笑顔の魔法」というもの、はたしてこの世に実在するのでしょうか。わたしは、実在すると思っています。『人間関係を良くする17の魔法』(致知出版社)という本です。さまざまな人間関係を良くする魔法を紹介しているのですが、その中で「笑顔」についても言及しています。笑顔は世界共通のコミュニケーションの「かたち」ですが、人間関係を良くする魔法の1つでもあります。
『人間関係を良くする17の魔法』(致知出版社)
わが社には経営理念の1つとして、「スマイル・トゥー・マンカインド~すべての人に笑顔を」というものがあります。わが社のような「ホスピタリティ」すなわち「親切な思いやり」を提供する接客サービス業においては、笑顔・挨拶・お辞儀といったスキルが非常に大切です。中でも特に笑顔が必要であると言えるでしょう。
サービスだけではありません。営業においても、明るい笑顔でお客様に接するのと暗い無表情で接するのとでは雲泥の差があり、それは確実に成果の差となって出てきます。マンカインドとは、すなわち人類であり、すべての人という意味です。すべての人は、わたしたちのお客様になりえます。ぜひ、お客様のみならず、取引業者の方や社内の人たち、部下や後輩にも笑顔で接していただきたいと社員のみなさんにお願いしています
かつて、クレイジーキャッツの「日本全国ゴマスリ行進曲」という歌で、ゴマスリは手間もかからないし元手もいらないので、「大いにゴマをすろう!」というような内容で、亡くなった植木等さんが歌っていました。笑顔もまた、手間もかからず、元手もいりません。ゴマスリなどする必要はありませんが、そのかわりに笑顔を心がけたいものです。これほど安上がりで効果が高いサービス業のスキルは他に存在しません。まさに最高のコスト・パフォーマンスと言えるでしょう。植木等さんといえば、一度だけお会いしたことがあります。そのとき、「人生における本当の成功者とは、お金持ちとか社会的地位の高い人じゃない。たくさん笑った人が真の人生の成功者だ」とおっしゃっていたことが印象的でした。
笑顔は、サービス業においてだけでなく、ありとあらゆるすべての人間関係に大きな好影響を与えます。国籍も民族も超えた、まさに世界共通語、それが笑顔です。また、性別や年齢や職業など、人間を区別するすべてのものを超越します。「すべての人に笑顔を」は、「人間尊重」そのものなのです。笑顔のない組織に潤いはなく、殺伐とした非人間的な集団にすぎません。そんな会社は、ハートレス・カンパニーであり、ハートフル・カンパニーには笑顔が溢れています。笑顔のもとに人は集まることは不変の真理であるといえるでしょう。
笑顔など見せる気にならないときは、無理にでも笑ってみせることです。アメリカの心理学者ウイリアム・ジェイムズによれば、動作は感情に従って起こるように見えるが、実際は、動作と感情は並行するものであるといいます。ですから、快活さを失った場合には、いかにも快活そうにふるまうことが、それを取り戻す最高の方法なのです。不愉快なときにこそ、愉快そうに笑ってみて下さい。
「笑う門には福来たる」という言葉があるように、「笑い」は「幸福」に通じます。笑いとは一種の気の転換技術であり、笑うことによって陰気を陽気に、弱気を強気に、そして絶望を希望に変えるのです。
他人の笑いからもプラスの気を与えられます。特に元気な子どもの笑い声など、人間の精神の糧になるだけでなく、肉体にも滋養になるそうです。「童(わらべ)」の「わら」と「笑い」の「わら」とは通じているのです。笑うとは、子どものように純粋で素直な心になることなのです。
さらに、「笑い」とは、この世に心の理想郷をつくる仕掛けであると思います。地上を喜びの笑いに満たすことが政治や経済や宗教の究極の理想ではないでしょうか。「笑い」のない生命には、活気も飛躍も創造もありません。「笑い」のない宗教も哲学もどこかいびつで、かたよっているということです。実際、ソクラテスはよく笑いましたし、老子もよく笑いました。如来もそうですし、ブッダもしかりです。
わが社の経営理念の1つに「スマイル・トゥー・マンカインド」を入れたとき、営業や冠婚部門に笑顔が必要なのは当然だが、葬祭部門には関係ないのではと思った方がいたようです。しかし、それは誤った認識です。仏像は、みな穏やかに微笑んでいます。これは優しい穏やかな微笑みが、人間の苦悩や悲しみを癒す力を持っていることを表しています。葬儀だからといって、暗いしかめ面をする必要などまったくないのです。わが会社が運営するセレモニーホールの「お客様アンケート」を読むと、「担当の方の笑顔に癒されました」とか、「担当者のスマイルに救われた」などの感想が非常に増えてきています。これは大変嬉しいことです。もちろん、葬儀の場で大声で笑ったり、ニタニタすることは非常識ですが、おだやかな微笑は必要ではないかと思います。
最後に、この映画は、小森陽一の小説を波多野貴文が映画化したわけですが、熊本に実際にある遊園地グリーンランドの全面協力のもと撮影されたヒューマンドラマとなっています。わたしも九州に住んでいるので、娘たちの幼い頃に一度だけ遊びに行ったことがありますが、当時からそんなに人気の遊園地ではなかったような気がします。娘たちも「また、ディズニーランドに行きたい」とか「これなら、スペースワールドのほうがいい」とかとか言っていたような記憶があります。そのスペースワールドも昨年閉園してしまいました。
わたしの想いはブログ「スペースワールド閉園」に書きましたが、わたしは北九州市に住んでいるので、スペースワールドを何度も訪れています。2人の娘たちも何度も連れて行きました。28年前に開園したときはオープニング・セレモニーにも招待されましたし、当時はリゾート・プランナーをやっていたこともあり、テレビや新聞の取材も受けました。わたしは北九州市観光協会の理事であり、北九州商工会議所の観光・サービス部会の副部会長ですので、スペースワールドの閉園に心を痛めました。しかし、それ以上に残念だったのは、娘たちと遊んだ思い出の詰まった場所がなくなることでした。遊園地というのは、子どもにとってだけでなく、一緒に遊んだ親にとってもハートフルな場所なのです。