No.802


 東京に来ています。
 11月20日、水天宮で映画関係者と打ち合わせした後は日比谷へ移動し、宝塚劇場下のTOHOシネマズ日比谷で映画「SISU/シス 不死身の男」を観ました。超弩級のアクション映画で、カタルシスも最高。スカッとしました。なお、この記事は今年140本目の映画レビューです。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「第2次世界大戦末期のフィンランドを舞台に、一人の老兵がナチスドイツの戦車隊と激闘を繰り広げるバイオレンスアクション。監督を務めたのは『ビッグゲーム 大統領と少年ハンター』などのヤルマリ・ヘランダー。同監督作『レア・エクスポーツ~囚われのサンタクロース~』などのヨルマ・トンミラが不死身の老兵を演じ、『ヘッドハンター』などのアクセル・ヘニー、『セメタリー・ジャンクション』などのジャック・ドゥーランのほか、ミモサ・ヴィッラモ、オンニ・トンミラらが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は「第2次世界大戦末期の1944年、ナチスドイツに国土を焼き払われたフィンランド。金塊を掘り当てた老兵アアタミ・コルピ(ヨルマ・トンミラ)はいてつく荒野を旅する途中、ブルーノ・ヘルドルフ中尉(アクセル・ヘニー)率いるナチスドイツの戦車隊に遭遇し、金塊も命も奪われそうになる。かつて祖国に侵攻したソ連兵を撃退した伝説の兵士であるアアタミは、持っていた1本のツルハシと不屈の精神"SISU"を武器に、次々と敵を血祭りに上げていく」です。
 
 正直言って、この映画、それほど観たい作品ではありませんでした。観たい映画、話題の映画はたいてい観尽くしているので、時間が合う映画を適当にチョイスしたのです。しかし、どうですか!、ムチャクチャ面白かったです。これだから、気まぐれ映画鑑賞がやめられません。わたしも人並みのストレスは持っているつもりですが、このスーパー・エンターティンメントに接して、わがストレスは地雷とともに完全に吹っ飛びました。(笑)
 
 しかし、よくもこんな奇想天外な物語を考えたものです。もはやファンタジー映画の部類に入るのではないかと思いますが、とにかく面白かった。最初、1人の老人がナチスを皆殺しにする話というのは知っていましたが、「それはまた無理な設定だな。どうやってバトルが始まるの?」と思っていましたが、ロシア兵300人を殺した伝説の特殊部隊員の老人が金塊を発見し、その金塊をナチスが奪ったので復讐したというストーリーには納得しつつも、「それでも、無理な設定だなあ」と思いながら観ました。
 
 ヨルマ・トンミラ演じる老兵アアタミ・コルピがとにかく強くて、不死身です。地雷で吹っ飛ばされても、機関銃で撃たれても、水中で呼吸困難になっても、搭乗している飛行機が墜落しても、彼は不死身です。特に、アクセル・ヘニー演じるブルーノ・ヘルドルフ中尉らから首吊りにされたときも死ななかったのには驚きました。かつて、アントニオ猪木が異種格闘技戦で闘った相手にレフトフック・デイトンというプロ空手家がいました。彼は首吊りにされても平気という一種の「びっくり人間」でしたが、不死身のコルビを見て、そのデイトンを思い出しました。
 
 さて、この映画の舞台は1944年のフィンランドです。フィンランドといえば、サンタクロースの国として有名です。この映画のメガホンを取ったヤルマリ・ヘランダー監督は、2011年に「レア・エクスポーツ~囚われのサンタクロース~」というダークファンタジー映画を世に送り出していますが、主役のサンタクロースを演じたのが、「SISU シス 不死身の男」で老兵コルピを演じたヨルマ・トンミラその人でした。「レア・エクスポーツ~囚われのサンタクロース~」は、世界中で愛されているサンタクロースのイメージを覆し、彼の付き添いとして悪い子たちにお仕置きをする悪魔の恐怖を現代によみがえらせます。ひねりの効いたブラックユーモアは、「SISU/シス 不死身の男」にも通じます。
 
 この映画は、木々の生えていない荒野のような場所で撮影されています。隠れ場所のない砂漠のような土地です。西部劇の舞台とも思える荒地ですが、ここでコルピが鬼神のようにナチスを撃退します。タイトルの「SISU(シス)」とはフィンランドの言葉で、すべての希望が失われたときに現れるという不屈の精神のような意味合いを持つとか。ナチス自体も「20世紀の神話」と呼べるような存在ですが、コルピはまさに神話の登場人物そのものです。
 
 この映画の舞台はフィンランドなので、イメージする神話は北欧神話です。北欧神話には暴れん坊というか、最強の神がいます。「トール」という名の雷の神で、神々の敵である巨人と戦う戦神として活躍します。 雷神なので、ギリシャ神話のゼウスと同一視されました。 燃える様な目と赤い顎ひげの大男ですが、コルピも燃えるような目と顎ひげの老人です。今年で60歳になったわたしは、還暦を迎えたときに、「光GENJIの『ガラスの十代』ならぬ『鋼の六十代』を目指す」と広言しました。「SISU/シス 不死身の男」の主人公コルピも鋼の老人です。わたしも、彼のように不死身のクソジジイになりたい!

古事記と冠婚葬祭』(現代書林)
 
 
 
 なお、日本神話における荒ぶる神はスサノヲですが、21日、「神道と日本人」のサブタイトルを持つ『古事記と冠婚葬祭』(現代書林)が発売されます。ブログ「鎌田東二先生との対談」ブログ「鎌田先生との対談2日目」で紹介したように、わたしは今年3月8日・9日に「バク転神道ソングライター」こと京都大学名誉教授で宗教哲学者の鎌田東二先生と対談しましたが、その内容が本書に掲載されています。日本神話のスサノヲと北欧神話のトールには多くの共通点があります。それは、日本人や北欧人にとっての魂の元型です。国や民族は違っても、人間は「神話」と「儀礼」を必要とするというのが同書の最大のメッセージです。みなさま、ぜひ、ご一読下さい!