No.808
12月1日は話題の映画の公開ラッシュでした。ブログ「『グリーフケアの時代に』開幕!」で紹介した、わたしも出演したドキュメンタリー映画の他、観たい映画が同時多発で公開。その中の1本である「エクソシスト 信じる者」を小倉コロナシネマワールドで観ました。楽しみにしていた作品でしたが、想定外の駄作でしたね。
ヤフーの「解説」には、「『ハロウィン』シリーズなどのデヴィッド・ゴードン・グリーンが監督などを手掛けたホラー。行方不明になった二人の少女が何も覚えていない状態で戻り、その直後から周囲にこれまでにない恐怖が降りかかる。『ライフ・ウィズ・ミュージック』などのレスリー・オドム・Jr、『コンプライアンス 服従の心理』などのアン・ダウドのほか、ウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』のオリジナルキャストであるエレン・バースティンらが出演している」と書かれています。
ヤフーの「あらすじ」は、「12年前、ハイチの地震で妊娠中の妻を亡くしたヴィクターは、娘のアンジェラを一人で育ててきた。ある日、アンジェラとその友人キャサリンが森の中で行方不明になり、3日後に無事に戻って来るものの、行方不明中に起きたことをまったく覚えていなかった。その日を境に、二人の少女とその家族は、かつてない恐怖を味わうことになる」となっています。
「エクソシスト」という言葉を多くの日本人が知ったのは、1973年12月26日にアメリカで、1974年7月13日に日本で公開された映画「エクソシスト」によってです。このホラー映画の歴史に燦然と輝く作品は、少女に憑依した悪魔と神父の戦いを描いたオカルト映画の代表作であり、その後さまざまな派生作品が制作されました。今年は「エクソシスト」製作50周年記念作品が数本作られましたが、その真打ちともいうべき映画がこの「エクソシスト 信じる者」です。なにしろ、50年前の「エクソシスト」の主役だった母娘が登場するのですから。
わたしは、「少年チャンピオン」に連載されていた藤子不二雄Aの「魔太郎がくる」の中で初めて「エクソシスト」という映画の存在を知りました。公開時は確か小学5年生のときだったと思いますが、ドキドキしながら映画館に向かいました。最初に観たときは何が起こっているのかもよくわからず大変な恐怖を感じましたね。アメリカはプロテスタントの国ですが、プロテスタントの祖であるルターは悪魔の存在を信じていたことで知られています。バチカンにはエクソシストの養成所がありますし、悪魔の存在を認めているという点では、カトリックもプロテスタントも共通しています。
わたしは上智大学グリーフケア研究所の客員教授を務めましたが、上智といえば日本におけるカトリックの総本山です。それで神父や修道女の方々にも知り合いが増えたのですが、カトリックの文化の中でもエクソシズム(悪魔祓い)に強い関心を抱いています。なぜなら、エクソシズムとグリーフケアの間には多くの共通点があると考えているからです。エクソシズムは憑依された人間から「魔」を除去することですが、グリーフケアは悲嘆の淵にある人間から「悲」を除去すること。両者とも非常に似た構造を持つ儀式といえるのです。
「魔」も「悲」も放置しておくと、死に至るので危険ですね。しかしながら、「魔」や「悲」には対立すべきものがあります。「悪魔」に対立するものは「天使」であり、さらには「神」です。そして、「悲嘆」に対立するものは「感謝」ではないかと思います。神の御名のもとに悪魔が退散するように、死別の悲嘆の中にある人は故人への感謝の念を思い起こせば、少しは心が安らぐのではないでしょうか。そのような意味で、「グリーフケアの時代に」と「エクソシスト 信じる者」が同じ日に公開したというのは奇妙な縁を感じます。
オリジナルの「エクソシスト」では、悪魔に憑依されてしまった少女リーガンをリンダ・ブレアが演じましたが、悪魔憑きの彼女の表情には凄まじいものがありました。リーガンを救うべく母親は必死で行動しますが、その母親を演じていたのがエレン・バースティンですが、「エクソシスト 信じる者」では彼女はプロの悪魔祓い師のように悪魔に憑依された少女に向かい合います。わたしは、ここが非常に違和感がありました。そして、本職のエクソシストが退場してからは、素人がみんなで悪魔祓いをする様子にも違和感をおぼえました。
エクソシストによる悪魔祓いの儀式では、悪魔を追い払う聖水、聖香油、塩のような適切な準秘跡が登場しますが、これらはバチカンの正式なやり方です。救済の祈りによって示された目標とともに使用されるときには非常に有益だとされます。司祭はだれでも水と香油と塩を清めることができ、祓魔師はそれをする必要がありません。とはいっても、司祭はエクソシズムのはっきりと限定された祝福を信じ、それを熟知している必要があります。「エクソシスト 信じる者」は、いろいろと突っ込みどころは満載ですが、儀式の描写に関してはしっかりと描いていました。
「エクソシスト 信じる者」では、アンジェラとキャサリンという2人の少女が森の中で行方不明になり、悪魔に憑依されます。しかしながら、その悪魔がどういう名前のどういう悪魔なのかがまったくわかりません。悪魔祓いの儀式と言うのは、その悪魔の名前を突き止めることが非常に重要なので、「これは、おかしいな」と思いました。オリジナル版「エクソシスト」では、パズズという名前の中東の悪魔でした。そいつが取り憑いたリーガンからカラス神父に移動することで悪魔祓いが成功したわけです。あと、コックリさんのような降霊術ごっこが悪魔を呼び寄せるきっかけとなる演出も疑問でした。わたしは、もうすぐ公開されるA24配給の話題作「TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー」を連想しました。
「TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー」は、全米はじめ全世界で大ヒット、アリ・アスターやジョーダン・ピール、サム・ライミ、スティーヴン・スピルバーグら名だたる名匠も絶賛した新世代ホラーです。手を握り、「Talk to Me」と唱えて90秒の憑依チャレンジに興じる若者たちが登場します。そのゲームは、1つだけ注意が必要でした。制限時間の90秒を超えて霊を憑依させ続けては、絶対にいけないのです。手軽にスリルと高揚感を味わえる行為にハマっていく若者たち。だがその代償はあまりにも大きかったのでした。フレッシュなキャストを起用し、現代的なテーマとエッセンスをちりばめつつ、ホラー映画の定石を巧みに覆してみせる軽やかな演出手腕が大絶賛されています。今月22日に公開ですので、おそらくは今年最後の映画鑑賞は「TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー」になる予感がしています。