No.807


 11月30日の夜、アニメ映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」を観ました。一条真也生の映画館「法廷遊戯」で紹介した日本映画に続いての連続鑑賞で、座席は同じ丸の内TOEIスクリーン2のP17でした。「法廷遊戯」が5人ぐらいしか観客がいなくてガラガラだったのに比べ、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」はけっこう入っていました。それが若い女性客が多いのにビックリ! 鬼太郎というと男の子向けのアニメとばかり思っていましたが、今は女子に人気なのか? 内容は土着系ホラー要素が満載で面白かったです!
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「水木しげる原作の『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する鬼太郎の父と、水木という男との出会いを描いたアニメーション。行方不明になった妻を捜すため、とある村を訪れた鬼太郎の父と、密命を帯びたサラリーマンの水木が惨劇に遭遇する。ボイスキャストは関俊彦や木内秀信、古川登志夫、沢城みゆき、野沢雅子など。監督を『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』なども担当した古賀豪が務める」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、「廃虚となった哭倉(なぐら)村に鬼太郎と共にやってきた目玉おやじは、70年前に起きた出来事を思い出していた。昭和31年、哭倉村は政財界を裏で操る龍賀一族に支配されており、鬼太郎の父は失踪した妻を捜しに村に足を踏み入れたのだった。一方、血液銀行で龍賀製薬を担当する水木は、龍賀一族の当主・時貞の死に伴い、ある密命を帯びて村を訪れるが、そこで一族の者が惨殺される事件が起こる」となっています。
 
 子どもの頃は「ゲゲゲの鬼太郎」が大好きだったわたしですが、大人になってからはそうでもありませんでした。「やっぱり、お子様向けのアニメだな」と思っていたのです。しかし、一条真也の読書館『教養としての神道』で紹介した宗教学者の島薗進先生の著書に、「娯楽文化の中の神道的なもの」として、アカデミックというよりはエンターテインメントに属す領域では水木しげる(1922-2015)の『ゲゲゲの鬼太郎』(1960年の『墓場鬼太郎』以来)などのコミック作品が注目されると指摘し、著者は「『ゲゲゲの鬼太郎』には、さまざまな妖怪が登場する。民俗宗教の世界を参照しながら描いた作品でファンも多い。妖怪は日本の神々が姿を変えたもので、地域住民たちが伝承してきた神秘感覚を伝えるものとして親しみ深い存在となっている」と述べているのを思い出して、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の鑑賞を決めました。
 
 この映画、冒頭に夜汽車のシーンがあるのですが、車内の1人の女の子が咳き込んでいます。喘息気味なのかもしれませんが、見ると、主人公の水木をはじめ、周りの大人の男たちがみんなタバコを吸っています。小さな女の子が咳き込んでいるのだから吸うのをやめてあげればいいのに、誰も止めません。時代は昭和31年ですが、この頃の成人男子はほとんどタバコ吸いだったことを改めて認識しました。それから、夜汽車ということで、一条真也の映画館「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」で紹介したアニメ映画を連想しましたね。拙著『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)で、わたしはコロナ禍にもかかわらず大ヒットを記録した『鬼滅の刃』には"マンガの神様"と呼ばれた手塚治虫の影響が強いことを例を挙げながら指摘しましたが、水木しげるの影響も見られることに改めて気づきました。
 
「ゲゲゲの鬼太郎」というと明るくユーモラスな子供向けアニメのイメージが強いですが、もともとは貸本漫画の時代に『墓場鬼太郎』として誕生した怪奇キャラクターでした。貸本に登場した当時は、子供ばかりか大人をも震え上がらせたといいます。映画のエンドロールで、『墓場鬼太郎』で使われた漫画の一部が流れて、鬼太郎ファンを喜ばせてくれます。物語も、横溝正史シリーズのような土着系ホラーの雰囲気が良かったです。遺産相続をめぐって家族や親族が邪念の塊になる描写がありますが、「相続争いとは、人を鬼に変えるもの」だと痛感しました。あと、「陰陽師」的な世界も展開されて、盛りだくさんでした。ネタバレにならないように気をつけますが、妖怪「狂骨」が大暴れするさまは、水木しげるの晩年の弟子である京極夏彦の小説『狂骨の夢』を連想してしまいました。