No.806
11月30日、東京で各種の打ち合わせをしました。夜は、丸の内TOEIで日本映画「法廷遊戯」を観ました。連日寝不足だったので最初は寝落ちしましたが、中盤から物語が加速し、目が離せなくなりました。電車内での痴漢の冤罪問題が扱われており、考えさせられました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「小説家で弁護士の五十嵐律人が司法修習生時代に上梓した小説を原作に描くミステリー。ロースクールの同級生の3人の男女が、実際に起きた殺人事件の真相を模擬裁判として追う中で、彼らの隠された真実が暴かれていく。メガホンを取るのは『桜のような僕の恋人』などの深川栄洋。『真夜中乙女戦争』などの永瀬廉、『市子』などの杉咲花、『スクロール』などの北村匠海のほか、柄本明、生瀬勝久、筒井道隆、大森南朋らが出演している」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「セイギ(永瀬廉)、彼の幼なじみの美鈴(杉咲花)、馨(北村匠海)らの通うロースクールでは、『無辜(むこ)ゲーム』と呼ばれる模擬裁判が行われていた。あるときクラスメートに過去の出来事を告発されたセイギは、異議を申し立てるために美鈴を弁護人に指名して模擬裁判に臨む。ロースクール卒業後、セイギは弁護士、馨は法学の研究者になっていたが、ある日、セイギは無辜ゲームを再び開くという馨に呼び出されるが、そこで彼が目にしたのは馨の死体と、その隣でナイフを手にした美鈴の姿だった」
じつは、この日、わたしは新宿から丸の内線で銀座に向かいました。普段はあまり東京の地下鉄には乗らないのですが、この日はタクシーも拾えず、久々に乗り込みました。最初、電車は混んでいて、わたしはバッグを荷台に置いて立って左手でスマホを見ていました。右手は吊革を掴んでいました。東京で電車に乗るときは痴漢に間違えられないよう、いつもそうします。すると、新宿三丁目で目の前の席が空いたので座ることにしました。1人分しか空いていないスペースなので窮屈です。コートも着ていて厚着なので、座った瞬間、隣の人に身体が少し接触しました。すると、ものすごい勢いで脇腹に肘鉄を喰らわされたのです。かなりの衝撃で、思わず「うっ!」と声が出ました。
その肘鉄を喰らわした人物を見ると、40代ぐらいの女性でした。スマホを覗いたまま、顔も上げませんでした。わたしは「痛いじゃないですか!」と言おうとしましたが、相手がきつそうな表情をしていたので口論になることは確実でした。そこで言い争いでもしようものなら、わたしが周囲から痴漢に間違えられるかもしれないと思い、何も言いませんでした。次の駅で向かい側の席が空いたので、そちらに移動しました。その席は隣が中年男性でした。わたしは非常に納得のいかない思いで例の女性の方を見たところ、彼女はちょうど降りるところでした。周囲を見ると、先に男性が座っているところに女性が隣に座ることはあっても、その逆はなさそうでした。東京の地下鉄から遠ざかっているうちに、新しいマナーができたのか?
それにしても、「いつでも、どこでも、痴漢に間違えられるかもしれない」というのは大変な恐怖です。普段は運転手さん付きの社用車か、マイカーか、タクシーでしか移動しないため、庶民感覚から離れているのかもしれませんが、「東京の地下鉄が怖いな」と思いました。そして、その日の夜に観た「法廷遊戯」がまさに痴漢の冤罪事件で有罪となった男性が自死を遂げる物語だったので、ものすごく嫌な気分になりました。映画では痴漢の被害者を装ってカネを巻き上げるタチの悪いJKなども登場し、観ていて気が滅入りました。世にフェミニストでジェンダーの問題を声高に叫ぶ人は多いですが、痴漢の冤罪事件には、男女の逆差別の問題が潜んでいるように思えます。まあ、実際に本物の痴漢をするエロ親父もいるのでしょうけど。
「法廷遊戯」では、杉咲花の演技が圧巻でした。前半の大人しいイメージから、ラスト近くの鬼のような形相は迫力満点で、わたしは「エクソシストかよ!」と思ってしまいました。また、弁護士のセイギを演じた永瀬廉もすごく良かったです。彼はKing&Princeのメンバーだそうで、ということは元ジャニーズ事務所の現役タレントですね。一条真也の映画館「検察側の罪人」で紹介した2018年の日本映画では、元SMAPの木村拓哉、嵐の二宮和也が検事役で出演、一条真也の映画館「正欲」で紹介した2023年の日本映画では、元SMAPの稲垣吾郎が検事役で出演していました。いずれも素晴らしい演技でしたが、どうしても、人類史上最悪の性犯罪者である故ジャニー喜多川のことを考えてしまいます。「法廷遊戯」では死者の無実を晴らすということがテーマでしたが、死者の罪を裁くことも忘れてはなりません。「死に逃げ」は許されないのです!