No.994


 今年に入ってすっかりネットフリックスにハマっていましたが、久々にシネプレックス小倉でアメリカ・イギリス映画「ビーキーパー」を観ました。わたしはオッサンがキレて、敵をぶちのめす話が大好きなのですが、本作はまさにドンピシャ。チョー面白かったし、鑑賞後はスッキリ!
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『トランスポーター』シリーズなどのジェイソン・ステイサムが主演を務めたリベンジアクション。組織的詐欺集団によって恩人が死に追いやられたことから、ビーキーパー(養蜂家)と呼ばれる男が悪党たちへの復讐に立ち上がる。監督は『スーサイド・スクワッド』などのデヴィッド・エアー、脚本は『リベリオン』などのカート・ウィマーが担当。共演には『ハンガー・ゲーム』シリーズなどのジョシュ・ハッチャーソン、オスカー俳優のジェレミー・アイアンズらが名を連ねる」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「アメリカの片田舎でビーキーパー(養蜂家)として静かに暮らすアダム・クレイ(ジェイソン・ステイサム)。あるとき彼の恩人である女性がフィッシング詐欺に遭い、全財産をだまし取られて自ら命を絶ってしまう。怒りに燃えるアダムは詐欺組織への復讐を決意し、かつて特殊工作員だった自らのスキルを駆使して悪党たちを追い詰め、事件の黒幕へと迫っていく。
 
 映画「ビーキーパー」には、養蜂家のクレイによって、蜂の集団のエピソードが披露される場面が多々ありました。パーカー夫人の娘でFBIの捜査官であるヴェローナも本を開きながら「蜂の話って面白いわ」と同僚に言う場面がありました。わたしは、モーリス・メーテルリンクの名著『蜜蜂の生活』を思い出しました。ノーベル文学賞受賞者であり、かの『青い鳥』の作者としても知られるメーテルリンクは、「蜜蜂荘」と名づけた南フランスの家に住み、古代ギリシャ以来の蜜蜂に関する文献を探索するメーテルリンクは、有能な養蜂家でもありました。社会的昆虫の生態を克明かつきらびやかに描いた博物文学である『蜜蜂の生活』には、「女王蜂はけっして人間的な意味での女王ではない。命令をくだすわけではなく、むしろ仮面にかくれたみごとなまでに賢いひとつの力に、一介の臣下と同じように、仕えているにすぎない。(山下知夫+橋本綱訳)」と書かれています。じつに興味深いですね。
 
「ビーキーパー」の冒頭では、静かな隠遁生活を送る養蜂家のクレイに親切に接してくれるパーカー夫人という老婦人が登場します。彼女は行き場のないクレイに土地と納屋を提供してくれ、さらには「今夜、夕食をごちそうさせて」と言ってくれます。そこには「コンパッション」がありました。ところが、そのパーカー夫人がフィッシング詐欺にかかり、全財産をだまし取られた末に自ら命を絶ってしまいます。恩人の死に悲嘆を抱えるクレイ。そこには「グリーフ」がありました。しかし、詐欺組織への復讐を誓ったクレイは、かつて所属していた世界最強の秘密組織"ビーキーパー"の力を借り、怒涛の勢いで敵陣に殴り込みをするのでした。その暴れっぷりはハンパではありません。リベンジ(復讐)こそは哲学者アリストテレスが『詩論』で示した「カタルシス」、さらには「グリーフケア」に通じることを痛感する場面でした。
 
 怒涛の勢いで事件の黒幕へと迫っていくクレイは、FBIやらCIAやらに狙われます。また、シールズやデルタ・フォースといった特殊部隊の工作員たちにも命を狙われます。次から次に敵を蹴散らすクレイの先に立ちはだかるのは、アメリカでは絶対に誰も手が出せない最高権力の影でした。それでも養蜂家は何も恐れず前進し、社会の秩序を破壊する害虫どもを完膚なきまでに駆除し続けます。とにかくクレイの最強っぷりが凄まじく、もう笑ってしまうしかありません。また、彼の攻撃は中途半端ではなく、相手を「叩きのめす」とか「叩き潰す」とかいったレベルではなく、まさに「叩き殺す」といった徹底ぶりで、あまりの過剰ぶりにこちらも笑ってしまいました。
 
 クレイを演じたジェイソン・スティサムといえば、主演映画「トランスポーター」(2003年)が有名です。同作は、ルイ・レテリエ監督で、リュック・ベッソンが脚本とプロデュースを担当。どんな依頼品も正確に目的地まで届けるプロの運び屋と、その依頼品である女が追っ手との壮絶な闘いを繰り広げる物語です。南仏に暮らすフランク(ジェイソン・スティサム)はプロの運び屋。"契約厳守""名前は聞かない""依頼品は開けない"という3つのルールの下、高額な報酬と引き換えにワケありの依頼品であろうが正確に目的地まで運びます。そんなフランクにある組織から新たな仕事が入ります。いつも通り車のトランクに依頼品のバッグを積み、目的地へと向かいます。が、道中でバッグに不審を感じたフランクは、自らのルールを破ってつい開けてしまいます。すると、そこには手足を縛られた中国人美女(スー・チー)が入っていました。
 
 アダム・クレイのキレっぷりが凄まじい「ビーキーパー」ですが、わたしは、一条真也の映画館「Mr.ノーバディ」で紹介した2021年のアメリカ映画を思い出しました。家庭にも職場にも居場所のない平凡な中年男の覚醒を描いたアクション映画の傑作です。さえない中年男のハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)は、職場では実力が評価されず、家族からも頼りない父親として扱われていました。ある夜、自宅に強盗が押し入るも暴力を恐れた彼は反撃できず、家族に失望され、同じ職場の義弟にもバカにされます。鬱憤を溜め込んだハッチは、路線バスで出くわした不良たちの挑発にキレて連中を叩きのめしてしまいます。この事件をきっかけに、彼は謎の武装集団やロシアンマフィアから命を狙われてしまうのでした。わたしも気は短い方なので、無法者や無礼者を見るとキレそうになりますが、いつも必死に自制しております。
 
「ビーキーパー」の話題に戻すと、パーカー夫人が被害に遭ったフィッシング詐欺の卑劣さには強い怒りをおぼえました。夫人が自宅でPC操作をしていると、突如画面がかわり、「データが消えてしまうのですぐに電話を」と警告文が表示されます。PCに疎い夫人がその番号に電話すると、「PCにソフトをいれれば私が遠隔操作で直せる」といわれ、従ってしまいます。怪しげなコールセンターでは、パーカー夫人の管理する口座に年金や退職金以外にも慈善団体の200万ドルもの残高があることを知って色めき立ちます。悪党どもは、夫人を上手く誘導してパスワードを入力させます。そして、一瞬にしてすべての口座から現金を奪ってしまいました。このように情報機器に弱い老人を相手にした犯罪は絶対に許せません!

 フィッシング詐欺のコールセンターは、クレイが大暴れして破壊し、最後は全焼させてしまいます。呆然とする悪党どもに向かって、クレイは「おれはビーキーパーだ」「群れを守るためにスズメバチを焼き払う」と言い放つのでした。世の中には、フィッシング詐欺集団の他にも悪い奴らがゴマンといます。1人でも「悪党」というのは、悪人はみな団結性を持っているからです。彼らに立ち向かうためには、悪に染まらず、悪を知る。そしてその上手をいく知恵を出すことが求められると言えるでしょう。日本社会はコンプラインスの遵守が叫ばれていますが、高齢者を狙った詐欺的商法は後を絶ちません。また、性加害を繰り返す芸能事務所やテレビ局も言語道断です。ぜひ、彼らにはクレイのような正義の味方が鉄槌を下してほしい! あと、高齢者を蔑ろにしてZ世代にばかり媚び、政令指定都市を「修羅の国」にしようとする愚かな市役所にも!
いよいよ来週公開です!