No.993
1月7日の夜、沖縄から北九州に戻りました。 ネットフリックスオリジナル映画「アイズ・オン・ユー」を観ました。実話に基づくサスペンスです。2023年のトロント国際映画祭でプレミア上映され、2024年10月18日に配信開始されましたが、とても面白かった!
「アイズ・オン・ユー」は、1970年代にアメリカで起きた連続殺人事件を実写化した作品です。「ピッチ・パーフェクト」シリーズや、「シンプル・フェイバー」などのコメディータッチの作品で知られる女優のアナ・ケンドリックが初監督を務めた映画です。まさに「事実は小説よりも奇なり」という実話を基にした驚くべき作品となっています。エミー賞を席巻したドラマ「私のトナカイちゃん」(2004年)といい、最近のネトフリには実話を基にした怖い作品が多いですね。
1970年代アメリカ・ロサンゼルス。 オーディションになかなか受からない役者志望のシェリル・ブラッドショー(アナ・ケンドリック)は、エージェントから恋愛バラエティー番組「デートゲーム」に出演することを勧められます。大勢の人に見てもらえると説得され、しぶしぶ出演を承諾したシェリルでしたが、彼女をめぐってゲームで競い合う3人の男性出演者の中に恐るべき連続殺人犯が混じっていたのでした。
舞台は1978年のハリウッド。ケンドリックが演じるシェリル・ブラッドショー(彼女も実在する人物)は、女優を夢見て、さまざまなオーディションに挑み続けます。しかし、なかなか役が決まらず、女優になる夢をあきらめかけます。そんなとき、エージェントから人気の恋愛バラエティー番組〝The Dating Game(デートゲーム)〟への出演を指示されます。同番組は、衝立で隠された3人の男性とトークをした後に、女性がデートする相手を1人選ぶというマッチング番組です。
1970年代後半のハリウッドの公開テレビ番組の雰囲気がよく描けていましたが、一条真也の映画館「悪魔と夜ふかし」で紹介した2024年のオーストラリア映画を思い出しました。1977年10月31日。放送局UBCの深夜トークバラエティー番組「ナイト・オウルズ」の司会ジャック(デヴィッド・ダストマルチャン)は、オカルトの企画で番組の人気低迷を打破しようと考えます。霊聴、ポルターガイスト、悪魔ばらいといった超常現象が番組で紹介され、ルポルタージュ『悪魔との対話』の著者であるジューン博士と、本のモデルになった悪魔がつくとされる少女リリーが登場するのでした。
「悪魔と夜ふかし」はフィクションであり、「ナイト・オウルズ」は架空の番組です。でも、「アイズ・オン・ユー」は実話に基づき、登場するマッチング番組「デートゲーム」は実在しました。同番組に出演した素人男性3人の中の1人は、連続殺人鬼のロドニー・アルカラだったのです。ヒロインのシェリルはアナ・ケンドリック監督が演じましたが、ロドニー・アルカラを演じたのはダニエル・ゾヴァットです。 一条真也の映画館「ヴァチカンのエクソシスト」で紹介した2023年のホラー映画でトーマス神父を演じた俳優です。「悪魔と夜ふかし」も「ヴァチカンのエクソシスト」も、ともに悪魔つきの話というのが面白いですね。
ロドニー・ジェームス・アルカラ(1943年~2021年)は、アメリカ全土で強姦と殺人を繰り返したシリアルキラーです。カリフォルニア州で1977年から1979年の間に犯した5件の殺人のために2010年に死刑判決を受けました。2013年にはニューヨーク州で1971年と1977年の別の2件の殺人事件で有罪を認め、25年間の刑が追加。彼の本当の犠牲者数は不明のままで、はるかに多い可能性が指摘されており、一説では130人ともいわれています。検察によると、アルカラは犠牲者の首を絞めて意識を失わせ、一旦意識が回復するまで待つという行為を、時には複数回、最終的に殺害するまで繰り返すということを行っていたそうです。
ある捜査官はアルカラを「殺害マシーン」と表現し、他にはアメリカ犯罪史上に残る連続殺人鬼テッド・バンディと比較する者もいます。アルカラは、自ら撮影した1000枚以上の女性と10代の少年たちの写真のアルバムを作成しており、被写体の多くは性的に露骨なポーズをとっているものでした。2016年、その写真の中の1枚に写っていた女性被害者が特定され、1977年に殺害したとして起訴されました。他の写真に写っていた女性も襲われていることが分かっており、警察はそれらの被写体も同様に強姦または殺害の犠牲者であると推測しています。彼は一連の殺人事件を起こしている真っ只中の1978年、テレビの人気バラエティー番組「デートゲーム」に出演したため、「デートゲーム・キラー」の別名がつきました。2021年7月24日に死刑が執行される前に死去。
もちろん「デートゲーム」の番組のスタッフたちは、そんな連続殺人鬼が出演していることは知らずに収録を続けています。しかし、わたしはロドニーの正体を知っていました。なぜなら、彼が2人の女性を殺害するシーンをすでに見せられているからです。1人目は1977年のワイオミングで、2人目は1971年のニューヨークで殺害されたのでした。そして、1979年のカリフォルニア州サンガブリエルで、家出少女に声をかけるシーンもありました。つまりロドニーはテレビ番組に出演した後も、逮捕されずに犯罪を続けていたわけです。時系列の入れ替えがシリアルキラーの異常性を際立たせていますが、そんなロドニーと番組収録後に会ったシェリーは彼の正体に気づきます。
シェリーは機転もきくし、じつに頭の良い女性です。「どうして、こんな美しくて才能ある女性が女優として成功しなかったのだろう?」と疑問に思いましたが、実際のシェリーの映像を見てちょっと納得。多くは語りませんが、アナ・ケンドリックとはあまり似ていませんね。はからずも殺人鬼と共演した番組で、シェリーはバチェロレッテとして3人の男性にウイットのきいた質問を次々に投げかけます。いわく、「女性に食事を御馳走するとき、何を期待する?」「あなたにとって女生とは?」などの質問です。その他にも多くの質問をマシンガンのように放つシェリーに向かって、ヘアメークのベテラン女性が「女が男に望むことは1つ、私を傷つけないでということよ」と言います。これには唸りました。すべての男性は、女性たちは「私を傷つけないで」と望んでいることを肝に銘じましょう。