No.952
オーストラリア映画「悪魔と夜ふかし」をシネプレックス小倉で観ました。一条真也の映画館「TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー」で紹介した映画と同じく、オーストラリア発のホラー映画ですが、ものすごく面白かったです。ホラーには目のないわたしですが、大いに血沸き肉踊りました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「1970年代のテレビ番組で起こったてん末を、封印されたマスターテープが見つかったという設定で映し出したホラー。深夜のトークバラエティー番組の司会者が、悪魔が憑依しているという少女から話を聞くうちに、思いも寄らぬ事態が起きる。監督は『スケア・キャンペーン』などのコリン・キャメロン・ケアンズ。『アントマン』シリーズなどのデヴィッド・ダストマルチャン、『ソウ5』などのローラ・ゴードン、『ブラック・サイト 危険区域』などのフェイザル・バジらが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、「1977年10月31日。放送局UBCの深夜トークバラエティー番組『ナイト・オウルズ』の司会ジャック(デヴィッド・ダストマルチャン)は、オカルトの企画で番組の人気低迷を打破しようと考える。霊聴、ポルターガイスト、悪魔ばらいといった超常現象が番組で紹介され、ルポルタージュ『悪魔との対話』の著者であるジューン博士と、本のモデルになった悪魔がつくとされる少女リリーが登場する」となっています。
物語は、視聴率が低迷して打ち切り寸前のバラエティ番組のホスト、ジャック・デルロイが起死回生のためにハロウィンの夜に特番を放送するところから始まります。かつて大活躍していたジャックは妻のマデリーンを癌で亡くし、ショウビズ界を離れていました。復帰してからは、次第に番組は飽きられ始め、視聴率は下がる一方でした。どうしても番組を継続させたいジャックは、ハロウィンの夜に生放送でオカルト特集を行うことを決めます。
オカルト特集番組のトップバッターは霊媒師のクリストウ。彼は観客の中で身近な人を亡くした母親と娘に霊からのメッセージを伝え、会場を驚きと感動で包みます。その次に登場するのは、霊能力者をインチキだと証明することに情熱をかけるカーマイケルです。サイキック・ハンターの彼は「偽物だ!科学で説明できる!」と騒ぎ、クリストウを激怒させます。クリストウは邪悪な何かを感じ取ったかのように、突然体調を崩します。そして、口から黒いドロドロしたものを吐き出し、運び出されてしまいます。そのことで、会場は一気に不穏な空気になってしまいます。
そこに登場するのが悪魔を研究する女性超心理学者のジューンと少女リリーです。リリーは悪魔崇拝カルトの犠牲者で、信者たちは何らかの理由で全員死んでしまったのですが、その唯一の生き残りでした。世間がリリーに偏見の目を向ける中、ジューンがリリーを引き取って研究を行っていたのでした。リリーが登場してからは、もう怒涛の展開で、ものすごいことになってしまいます。振り切った演出が最高でしたが、1つ言えるのは、テレビの生放送に悪魔を出演させてはダメなこと。なぜなら、悪魔は卑猥な言葉を口にするので、放送倫理に抵触するというか、とにかく不適切だからです。(苦笑)
この悪魔が生出演した恐るべき放送事故は1977年に起こったことになっていますが、1973年12月26日にアメリカで、1974年7月13日に日本で公開された映画「エクソシスト」の影響が強いことは明らかです。このホラー映画の歴史に燦然と輝く作品は、少女に憑依した悪魔と神父の戦いを描いたオカルト映画の代表作であり、その後さまざまな派生作品が制作されました。最初に観たときは何が起こっているのかもよくわからず大変な恐怖を感じましたね。アメリカはプロテスタントの国ですが、プロテスタントの祖であるルターは悪魔の存在を信じていたことで知られています。バチカンにはエクソシストの養成所がありますし、悪魔の存在を認めているという点では、カトリックもプロテスタントも共通しています。
また、「悪魔と夜ふかし」には「キング・オブ・コメディ」(1982年)の影響も感じます。「タクシードライバー」(1976年)「レイジング・ブル」(1980年)のマーティン・スコセッシ監督&ロバート・デ・ニーロ主演によるブラックコメディです。コメディアン志望の青年ルパート(ロバート・デ・ニーロ)は、有名コメディアンのジェリー(ジェリー・ルイス)に接触し自分を売り込もうとしますが、まったく相手にされません。そこでルパートは、ジェリーの熱狂的ファンである女性マーシャと手を組んでジェリーを誘拐し、自らのテレビ出演を強要します。願望実現のために常軌を逸する男と現代社会に息づくささやかな狂気をリアルに描いた怖い映画でした。
「エクソシスト」や「キング・オブ・コメディ」へのオマージュ的作品でもある「悪魔と夜ふかし」は本当にホラー映画好きにはたまらない傑作でした。全米でスマッシュヒットを記録しており、「キャリー」(1976年)や「シャイニング」(1980年)を生み出したホラー界の巨匠スティーヴン・キングも絶賛しているといいます。ネタバレにならないように気をつけて書くと、会場が大パニックに陥る中、ジャックは過去の記憶の中に迷い込みます。そこで思い出したことは、過去に悪魔と契約を交わしたことでした。その契約の内容は想像がつくと思いますが、どんなに死者が出ても生放送を止めようとしないテレビ局のプロデューサーの姿を見ても、視聴率という魔物に支配されているテレビマンたちが悪魔そのものに見えてきます。