No.1198
東京に来ています。13日の夜、イギリス・ドイツ映画の「おくびょう鳥が歌うほうへ」をシネスイッチ銀座で鑑賞。主演のシアーシャ・ローナンが好きだったので観たのですが、女性の生き方を問う真撃な作品で圧倒されました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『システム・クラッシャー』などのノラ・フィングシャイト監督が、エイミー・リプトロットによる回想録を映画化。ロンドンで生物学を学ぶも都会暮らしの中で自分を見失った女性が、10年ぶりに帰郷したスコットランド・オークニー諸島の自然の中で自らを見つめ直す。『レディ・バード』などのシアーシャ・ローナンが主演とプロデューサーを務め、『MEN 同じ顔の男たち』などのパーパ・エッシードゥ、『バタフライ・キス』などのサスキア・リーヴス、『美しすぎる母』などのスティーヴン・ディレインらが共演する」
ヤフーの「あらすじ」は、「ロンドンの大学院で生物学を学ぶ29歳のロナ(シアーシャ・ローナン)は、いつしか自分を見失い、酒におぼれる日々を送っていた。恋人との別れや暴力的な体験などによって限界を迎えた彼女は、リハビリを経て断酒生活を開始し、10年ぶりにスコットランド・オークニー諸島の故郷に帰ってくる。野鳥保護団体で働くことになったロナは、故郷の荒々しい自然の中で過ごしながら自分自身を見つめ直していく」となっています。
アルコール依存症の患者を演じるシアーシャ・ローナンの演技は見事です。アルコール依存症とは、お酒の飲み方(飲む量、飲むタイミング、飲む状況)を自分でコントロールできなくなった状態のことをいいます。飲むのはよくないことだとわかっていても、脳に異常が起きて飲むことをやめられなくなります。その意味では、アルコールは麻薬や覚せい剤と同様の依存性の薬物の一種だともいえます。またアルコール依存症は患者さん本人の意思の弱さによって起きるものではなく、医療機関で治療が必要な病気であるともいえます。
アルコール依存症を発症するまでの期間は、男性と女性で異なり、男性に比べて女性ではその半分程度であるとか。習慣的な飲酒は、アルコールに対する耐性をもたらします。飲酒を始めたころには少量のお酒で気分よく酔えていたのが、徐々に酒量が増え、酔った感じがしなくなってくるといいます。
さらに、アルコール依存症の患者は家庭や社会生活に影響があっても、気にすることもなく、飲酒量がいつも以上に増えたり、飲む時間や飲む場所を気にしなくなるといいます。この状態でさらに飲酒を続けると、少しでも酒を口にすると自分の意思が働かなくなり、ほどよいところで止められなくなるアルコール依存症になってしまいます。このような状態に陥ると、妻や夫から「離婚する」、職場で「退職してもらう」、周囲から「命にかかわる」などといわれても飲酒をやめられず、ほぼ毎日数時間おきに飲むようになります。そして、さらに病気が進行すると、目を覚ますと飲み始め、酔うと眠り、再び目覚めると飲み始めるという、連続飲酒を起こすようになります。当然ながら、大きな不安に襲われます。
アルコール依存症は、身体や仕事や家庭へ悪影響をもたらします。家族は経済的問題、別居・離婚など深刻な問題に直面することになりかねず、子どもは親の暴言や暴力、育児放棄により健全な心身の発達が損なわれる可能性があります。職場の上司や同僚には、欠勤や仕事上のトラブルで迷惑をかけ、さらには飲酒運転などによる重大事故の発生などにつながる恐れもあります。ところが、患者本人はこのような飲酒関連の問題が起きても、家族や周囲の人の注意や説得を聞こうとしません。これは、アルコール依存症になると、問題が起きても自分に都合よく考えて反省しなくなるためです。
また、酒を飲んで幸せに暮らしている自分を非難する周囲に反発を感じ、依存症の悪影響を否認するようになったり、自分では飲酒の問題にうすうす気づいていながら、周囲に助けを求めなくなるようになります。早期離脱症状は飲酒を止めて数時間すると出現し、手や全身の震え、発汗(特に寝汗)、不眠、吐き気、嘔吐、血圧の上昇、不整脈、イライラ感、集中力の低下、幻覚(虫の幻など)、幻聴などがみられます。後期離脱症状は飲酒を止めて2~3日で出現し、幻視(見えるはずのないものが見える)、見当識障害(自分のいる場所や時間が分からなくなる)、興奮などのほかに、発熱、発汗、震えがみられることもあります。そして患者さんは、離脱症状による不快感から逃れるために、さらに酒を飲み続けることになってしまいます。
わたしは、「酒とバラの日々」(1962年)を連想しました。アルコールに溺れてゆくカップルの悲劇を描いたシリアスドラマです。伝会社の営業部に所属するジョー(ジャック・レモン)は得意先のパーティーで大会社の秘書カーステン(リー・レミック)をセミ・プロの女と間違えて怒らせます。翌日、彼女に詫び、何度も食事に誘います。陽気で酒好きのジョーとは反対に、カーステンは甘党でしたが強く惹かれます。植物園を経営するカーステンの父エリス(チャールズ・ビックフォード)に報告に行きますが、不機嫌な父の顔を見て生まれて初めて自分から酒を求めます。幸福な月日が流れ、女の子デビーも生まれるのでした。ジョーは酒の上の失敗で減俸され、出張が多くなります。淋しさから少しずつ飲むようになったカーステンは酔い潰れてアパートを火事にし、この事件でジョーはクビになります。
ジョーは次々に職を変え、妻も飲酒がひどくなります。2人は禁酒に失敗。貧民街に移った一家は父の植物園で働くことになり、健康も回復するのでした。しかし、こっそり持ち込んだ酒で2人とも酔い潰れ、ジョーは強制入院。破滅を悟ったジョーは更正会の集会に出るようにりましたが、反省し自堕落な生活を送ります。やっと妻を見つけたジョーは妻の懇願でまた酒の虜になります。更正会の補導員はカーステンをエリスに預け、ジョーが更生するまで会えなくします。1年経ち、真面目に働き、小綺麗なアパートに住むジョーの所に妻が現れる。自分をアル中と認めない彼女はジョーの言葉に絶望して去る。デビーが「ママはよくなるの?」と尋ねると「僕が治ったろ」と答えます。外にはバーを通り越して道を行く妻の姿が見えたのでした。
「おくびょう鳥が歌うほうへ」でアルコール依存症患者のロナを演じたシアーシャ・ローナンですが、素晴らしい演技でした。実際に彼女もアルコール依存症に悩んだことがあるそうですが、演技とは思えないほどの切実な姿を見せてくれました。最後に、彼女自身が「地球の大陸」であるというイメージをする瞑想をする場面があるのですが、「わたしは大陸。目覚めは夜明け。呼吸は風を起こし、くしゃみは雷を鳴らす。歯ぎしりは地殻変動。そして愛する人とのセックスで絶頂に達するのは大地を揺らすこと」といったメタファー表現に感銘を受けました。この映画は、すべての女性が共感をおぼえることができる作品であると思いました。


