No.1208
睦月晦日となる1月31日、アメリカ映画「HELP/復讐島」をローソン・ユナイテッドシネマ小倉で観ました。無人島に男女2人が流れ着くというのはよくある設定なので、あまり期待していませんでした。ところが、想定外の展開の連続で、とても面白かったです。さすがはサム・ライミ!
ヤフーの「解説」には、「『死霊のはらわた』シリーズなどのサム・ライミ監督によるリベンジスリラー。上司からのパワハラに悩まされる女性が、飛行機事故により漂着した無人島で上司と二人きりになり、双方の力関係が逆転し始める。音楽はライミ監督作『スパイダーマン』シリーズなどのダニー・エルフマンが担当。主人公を『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』などのレイチェル・マクアダムス、パワハラ上司を『メイズ・ランナー』シリーズなどのディラン・オブライエンが演じる」と書かれています。
ヤフーの「あらすじ」は、「上司・ブラッドリー(ディラン・オブライエン)からのパワハラに苦しむ会社員のリンダ(レイチェル・マクアダムス)は、出張のために乗った飛行機が墜落し孤島に漂着する。生存者は彼女とブラッドリーの二人だけだった。負傷した彼が動けない一方で、リンダは食料の確保や火を起こしたりするなど極限状況をサバイバルしていくにつれ、二人の力関係が逆転し始める。そんな状況でも高圧的に振る舞うブラッドリーに対し、リンダは抑え込んできた怒りや復讐心を募らせていく」となっています。
主人公が無人島に流れ着く映画というのは数えきれないほど存在しますが、最も有名ななのは、2000年のアメリカ映画「キャスト・アウェイ」でしょう。「フォレスト・ガンプ 一期一会」(1994年)のロバート・ゼメキス監督とトム・ハンクスが再タッグを組み、飛行機事故に遭い無人島に漂着した男の生き残りをかけた孤独な日々を描いた人間ドラマです。ハンクス演じるチャックは速さを誇る宅配便"フェデックス"のシステム・エンジニア。世界中を駆け回り、システム上の問題解決に明け暮れる日々でした。1秒も無駄にしないことが信条の彼は、恋人ケリー(ヘレン・ハント)とのデートも秒刻みでした。そんな彼はある時、飛行機事故に遭い、1人で無人島に流れ着きます。彼は恋人ケリーとの面影と新しい友達に見立てたバレーボールを支えになんとか生き延びて、4年が経ったのでした。
「キャスト・アウェイ」は無人島に1人で流れ着く物語でしたが、男女で流れ着く物語も多いです。代表的な作品に1980年のアメリカ映画「青い珊瑚礁」があります。南太平洋を航海していた帆船が火事を引き起こし、幼い従兄妹はボートに乗り移って命拾いをしました。翌朝、ボートに乗っていたのは従兄妹2人と料理番のパディで、やがてボートは無人島にたどり着きます。3人のサバイバルが始まりますが、ある日パディが事故で死亡します。やがて思春期を迎えた2人は恋に落ちます。この作品、じつは1948年作のリメイクなのですが、80年版はより煽情的な作品になっています。主演のブルック・シールズの肢体と、ネストール・アルメンドロスの撮影による南洋の美しい自然が魅力的です。本作の続編として1991年に「ブルーラグーン」が製作され、ヒロインはミラ・ジョヴォヴィッチ。
しかし、今回の「HELP/復讐島」は「キャスト・アウェイ」のように感動のヒューマンドラマでもなければ、「青い珊瑚礁」のようにロマンティックなラブストーリーでもありません。ホラー映画の名作「死霊のはらわた」(1981年)や「スパイダーマン」シリーズのサム・ライミ監督による予測不能な復讐エンターテインメントとなっています。パワハラ上司によって昇進の芽を摘まれた主人公が、その上司と無人島でまさかの2人きりになりますが、上司と部下の関係から一転、復讐に次ぐ復讐の連続で結末がどうなるのかまったくわからない作品となっているのです。本国アメリカでも大絶賛されており、映画批評を集積、集計するサイト「ロッテントマト」で94%の高評価(1月28日時点)を獲得し、「スパイダーマン2」(2004年)を超えてサム・ライミ監督の最高得点を記録しています。
コンサル会社で働くリンダ(レイチェル・マクアダムス)は、数字に強く誰よりも有能でした。しかし、新たに上司になったブラッドリー(ディラン・オブライエン)に嫌われてしまい、理不尽なパワハラに遭うなど鬱屈した日々を送っていました。パワハラといいますが、わたしは映画でのリンダの振る舞いにも問題があると思いました。まず、仕事が忙しいのはわかりますが、いつも自分のデスクで変な時間に食事をしています。しかも、好物のツナサンドのカスを口元や歯に付けたままです。社長に就任した直後のブラッドリーに話しかけたときも口元にツナが付着しており、これでは「清潔感のない女性」と思われても仕方ないと思いました。
ある日、出張でタイへ向かう途中、飛行機が墜落してリンダとブラッドリーは無人島で2人きりになります。怪我で動けないブラッドリーを尻目に、リンダは持ち前のサバイバルスキルを発揮。食料を確保し、火を起こし、状況の立て直しを図っていきます。やがて、2人の力関係が逆転し始め、リンダのなかに抑え込まれていた怒りと復讐心が静かに膨れ上がるのでした。脚本家のダミアン・シャノンとマーク・スウィフトは、ハラスメント関係にある2人を無人島に不時着させるという、「ミザリー」(1990年)の心理的緊張と「キャスト・アウェイ」の孤立感を掛け合わせたような舞台装置を使い、社内政治の縮図を鮮やかに描き出しました。
映画のキャッチコピーにもあるような「パワハラ"クソ上司"と無人島で二人きり?」といった設定自体は、決して目新しいものではありません。サム・ライミ自身、「虐げられていたキャラクターが実力を発揮し、弱者(アンダードッグ)から英雄へと変貌を遂げるのはハリウッドの古い伝統だ」と語っています。この映画には、グロテスクでありながらユーモアも忘れないというサム・ライミ監督ならではのエッセンスも詰まっています。例えば、リンダが食料を求めて野生のイノシシを狩猟をするシーンでは、これでもかと手製の槍で刺し続けてドバドバと鮮血が噴き出しますが、思わず笑いが込み上げるほど過剰なシーンでした。てしまう。また、仰向けになったブラッドリーにリンダがゲロをドバドバ吐いたり、これまでサム・ライミ監督作を愛好してきた映画ファンも大満足の悪趣味な内容になっています。
このたび、ライミ監督から日本のファンに向けたメッセージ動画が到着しました。本作のプロモーションで来日を希望していたものの、それがかなわなかったというライミ監督。動画の中で突然、彼は地球儀を手に取ります。そして、「残念ながら私は今ここにあるハリウッドにいて、皆さんがいるココ。日本に伺うことができません」と真顔で説明します。そう言いながら指し示したのは、なぜかマダガスカル諸島でした。故意か天然ボケか、間違えたまま映画の告知を続け、そのままメッセージは締め括られています。そういえば、間違えたマダガスカルという地名は主演のマクアダムスという人名に似ています。そのマクアダムスは、先日行われたワールドプレミアに登場し、「ホラーやスリラー、それに心理サスペンス・・・いろんな要素が絶妙にミックスされた作品になりました。ちょっとダークなコメディ要素も効いています」とコメントしています。たしかに!


