No.1218
東京に来ています。2月18日の夕方から銀座で打ち合わせをした後、夜はシネスイッチ銀座でインド映画「ツーリストファミリー」を観ました。ネットでの評価が非常に高い作品ですが、心あたたまる佳作でした。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「インドに密入国したスリランカ人一家の姿を描くコメディー。経済的困窮から抜け出そうとインドに来た家族が、思いも寄らないトラブルに見舞われる。メガホンを取るのはアビシャン・ジーヴィント。シャシクマール、『タイガー 裏切りのスパイ』などのシムラン、『マーヴィーラン 伝説の勇者』などのヨーギ・バーブのほか、ミドゥン・ジェイ・シャンカル、カマレーシュ・ジャガンらが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「貧しい生活から抜け出そうと、スリランカ人のダース(シャシクマール)は、妻のワサンティ(シムラン)、長男のニドゥ(ミドゥン・ジェイ・シャンカル)、次男のムッリ(カマレーシュ・ジャガン)を連れて、隣国のインドへ密入国する。身分を偽ってチェンナイに居を構え、素性がバレないようにしながら仕事を探すダースだったが、不採用が続き、密入国に反対していたニドゥと衝突し、さらにはテロ事件を追う警察から疑いの目を向けられてしまう」
冒頭には、「本作は密入国を肯定するものではない」という文章が流れますが、この映画はモロに密入国を肯定的に描いています。主人公の一家はスリランカ出身ですが、方言ですぐ身元がわかってしまいます。彼らが入国したインドそのものも多言語国家として知られ、ヒンディー語を筆頭に、ベンガル語、テルグ語、マラーティー語、タミル語、ウルドゥー語、グジャラート語、マラヤーラム語、カンナダ語、オリヤー語、パンジャーブ語、ビハール語、ラージャスターン語、アッサム語、ビリー語、サンタル語、カシミール語などが入り乱れています。ヒンディー語はインドの18%の人々の母語ですが、他方、この言語を話す人口はおよそ30%に達し、更にヒンディー語を十分理解できる人口は、それ以上の数に及ぶそうです。わたしは、インド映画を観てこのあたりの事情を知るたびに、「よく国家として成立しているな!」と感心してしまいます。いや、ほんとに。
このスリランカから密入国した一家、母親のワサンティが美人です。さらに上品で育ちの良さが感じられ、「こういう奥さん、いいなあ」と思ってしまいました。演じたシムランは、1976年4月4日生まれ。現在、49歳です。南インド映画界において、ミーナらと並び、長期間にわたってトップ女優の地位を維持した女優です。愛らしい顔立ちと優れた演技力で、「ペッタ!」(2019年)、「Rocketry: The Nambi Effect」(2022年)、「Paava Kadhaigal」(Netflix作品)などに出演しています。2002年のタミル・メガ・スター・ナイトで、生のステージでのダンスでは、出演女優の中で圧倒的なプロ意識を見せました。腰がキレッキレなダンスは本作「ツーリストファミリー」でも披露されています。結婚した女優はヒロインを離れて、良き母親役を演じるというタミル映画界の既定路線に反発し、シムランは結婚して出産した後も、新しい女優像を打ち立てるべく奮闘しているようです。
インド映画といえば、やたらと長くて、唐突にダンスを踊るイメージがあります。この映画でもダンスは何度か登場しました。いがみ合っていた父親と長男がいきなり次男を交えて激しいダンスを踊るシーンを見ながら、わたしは「やっぱりダンスありか!」と思ってしまいました。一方でこの映画には、倫理的なメッセージが何度か登場します。たとえば、「握手は座ったまましてはいけない」とか「お客さんにコーヒーを出すときは紙コップではなく、ちゃんとしたカップで」とか「嘘をついてはいけない」など、わたしのハートにヒットする場面が多かったです。ヒンドゥー社会にも「礼」が重んじられていることが興味深かったです。そして、最大の「礼」とは「葬礼」です。スリランカから密入国したインドで暮らし始めた一家でしたが、隣家に住む老婦人が亡くなります。そのとき、一家の父親であるダースは近所の家々を回って「隣人がお亡くなりになりました」と葬儀の案内をします。この行動で、彼は隣人たちから一目置かれ、街中の住人たちにとって大切な存在となったのでした。
『隣人の時代』(三五館)
この映画は、コミュニティの中で葬儀というものがいかに重要かということを教えてくれます。わたしは、拙著『隣人の時代』(三五館)の中で訴えた「隣人とは、葬儀に参列する存在である」というメッセージをなつかしく思い出しました。葬儀に多くの人々が参列してくれるということは、亡くなった人が「確かに、この世に存在しましたよ」と確認する場となるのです。隣人という「となりびと」は「おくりびと」でもあります。というわけで、わが社は、孤独な高齢者の方々を中心に1人でも多くの「となりびと」を紹介する「隣人祭り」を開催し続けています。


