No.1225


 東京に来ています。2月24日、一条真也の映画館「恋愛裁判」で紹介した日本映画を観た後、出版打ち合わせを挟んで、アメリカ映画「おさるのベン」をTOHOシネマズ日比谷のレイトショーで観ました。ペットの猿が人間を襲うパニック・ホラー映画ですが、わたし的にはイマイチでした。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「凶暴化したチンパンジーが引き起こす恐怖を描いたスリラー。友人を連れて実家に戻った大学生が、そこで家族同様に暮らしてきたチンパンジーに襲われる。メガホンを取るのは『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』などのヨハネス・ロバーツ。『コーダ あいのうた』などのトロイ・コッツァー、ドラマ『BELIEVE/ビリーブ』などのジョニー・セコイヤのほか、ジェシカ・アレクサンダー、ヴィクトリア・ワイアントらが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「森に囲まれたハワイの高級別荘地にある実家に、友人を連れて帰省した大学生ルーシーは、幼いころから家族のように暮らしてきたチンパンジーのベンとの再会に心を弾ませる。プールでくつろいだり、パーティーを楽しんだりと、楽しいバカンスを過ごしていたルーシーだったが、ベンの様子がおかしいことに気がつく。ルーシーが胸騒ぎを覚える中、思いも寄らない事態が起きる」
 
「おさるのベン」という映画、怖いのは怖いのですが、どうにも気になるのはベンの大きさ。いや、小ささです。人間の赤ちゃん、あるいは子犬ぐらいのサイズのチンパンジーがいくら狂犬病にかかったとしても、「ここまで無敵になれるかな?」という疑問が湧いてくるのです。しかし、チンパンジーは非常に賢い反面、成体は人間を遥かに凌ぐ握力と高い知能を持つ油断できない野生動物です。特に発情期やストレス下で突発的に凶暴化し、人間に対して顔面や手足を噛みちぎるほどの致命的な襲撃事件(トラビス事件など)を引き起こした例も報告されています。「おさるのベン」では、狂犬病になったベンが驚くべき握力で人間の顔面を引き裂きますが、平均的な大人のチンパンジーの握力は250~300kgに達します。また、人間の数倍から10倍とも言われるパワーで人を容易に投げ飛ばすそうです。
 
 ロバーツ監督は、本作がスティーヴン・キング原作によるルイス・ティーグ監督作「クジョー」(1983年)の影響を受けていることを公言しています。「クジョー」は、ペットとして飼われていたセント・バーナード犬が狂犬病にかかり、次々と人を襲っていく物語です。1976年生まれのロバーツ監督にとって、それは「人生で初めて観た怖い映画」だったそうで、「『クジョー』は私が映画監督になりたいと思うきっかけになった作品であり、間違いなく『おさるのベン』にも大きな影響を与えています。なぜなら、私はずっと、いつか自分でもこのような映画を撮りたいと願い続けてきたからです」と、「MOVIE WALKER」インタビューで語っています。
 
 ロバーツ監督が念願の企画に着手したのは十数年前でした。同インタビューで、彼は「母の飼っている犬がプールの周りを走り回っているのを見た時にひらめいたんです。もし犬ではなく別の種類のペットが狂犬病にかかったら、なにが起こるだろうかと」と語っています。その後、ロバーツ監督がたどり着いたのは、人間にもっとも近い知能を持つと同時に人間をはるかに凌駕するパワーを備えたチンパンジーでした。彼は、「調べれば調べるほど、彼らは狂犬病がなくても恐ろしい一面を持ち合わせている動物だと知りました。非常に邪悪で凶暴で、その性質が、映画にこのうえない恐怖を与えてくれる。そう確信しました」と語ります。
 
 ベンは小さいですが、ホラー映画の主役にふさわしい顔つきはしていました。何より、人間を殺す方法がこの上なく凄まじいです。ロバーツ監督は、ホラー映画の名作「ハロウィン」(1978年)をイメージして「おさるのベン」を作ったそうです。同インタビューで、「まるで『ハロウィン』を撮影しているような気分でした」「昔ながらの撮影手法で臨むことができたので、ジョン・カーペンターがホラー映画の王者だった時代に戻って映画づくりをしている感覚を味わい、子どものように楽しんでしまいました。やっぱり私のなかには、1980年代のホラー映画が染み付いている。だから恐怖のスタイルは『ハロウィン』の影響がはっきりと出ているし、シンセサイザー・サウンドの音楽にも『クリスティーン』の影響が出ていると感じています」と語っています。
 
「クリスティーン」は、1983年のアメリカのホラー映画です。「クジョー」と同じく原作はスティーヴン・キングの同名小説。監督は、ジョン・カーペンターです。クリスティーンは作品の中心となる車で、赤の1958年型プリムス・フューリーに付けられた名前です。この映画は原作の出版以前から映画化企画がなされ、カーペンターは5週間で撮影を終了しました。長編である原作を2時間以内の映画にするには、持ち主の怨念がとりついた車と、それを取り巻く母子の愛憎劇という原作の筋書きは描ききれないため、もともと邪悪な意思を持つ車という設定に変更されました。
 
 正直言って、映画「おさるのベン」は「クジョー」の猿版といった印象が強くて、ホラー映画としてはイマイチでした。それよりも、わたしは「おさるのパンチくん」が気になっています。パンチくんとは、現在SNSで大きな話題となっている千葉県市川市動植物園の子ザルの名前です。 育児放棄を乗り越え、オランウータンのぬいぐるみを「お母さん代わり」にして懸命に生きる姿が多くの人々の感動を呼んでいます。生後約6か月のオスのニホンザルなのですが、母親が育児を放棄したため人工哺育で育ち、2026年1月からサル山に戻りました。サル山の中で常に大きなぬいぐるみに抱きついたり、連れて歩いたりしています。この姿が「#がんばれパンチ」のハッシュタグとともに拡散され、来園者が急増しています。わたしもパンチくんの存在を最近知ったのですが、あまりの可愛さに一発でファンになりました。それにしても、「おさるのベン」の公開中に「おさるのパンチくん」が人気者になるのは面白いですね。