No.1263


 5月19日の夜、打ち合わせの後、アメリカのホラー&アクション映画「ゼイ・ウィル・キル・ユー」をTOHOシネマズ日比谷の11番シアター・プレミアムシートで観ました。他のシアターのプレミアムのように座席前にスペースがなくて窮屈でしたが、内容は面白かったです。アクションシーンは最高でしたが、ホラー映画として怖くなかったですね。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「悪魔崇拝者が集まる高級マンションを舞台に、悪魔にささげるいけにえとして雇われたメイドの反撃を描くホラーアクション。悪魔崇拝者たちを相手に大暴れするメイドを『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール:報復の荒野』などのザジー・ビーツが演じ、オスカー俳優のパトリシア・アークエット、『ハリー・ポッター』シリーズなどのトム・フェルトン、『フロム・ヘル』などのヘザー・グラハムらが共演。『とっととくたばれ』などのキリル・ソコロフがメガホンを取り、製作陣には『IT/イット』シリーズなどのアンディ・ムスキエティが名を連ねる」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、「アメリカ・ニューヨークにある超高級マンション"バージル"。セレブが入居するゴージャスなイメージとは裏腹に、その実態は狂信的な悪魔崇拝者たちの巣窟で、住人たちは月に一度、雇ったメイドを悪魔のいけにえにささげる儀式を行っていた。ある夜、新たないけにえとして一人のメイド(ザジー・ビーツ)がバージルにやって来るが、追い詰められた彼女は想定外の反撃に出る。狩られる側だったはずの彼女は、死のマンションから脱出すべく悪魔崇拝者たちを血祭りに上げていく」となっています。
 
 悪魔崇拝者のカルトが登場する物語はわりと好きなので期待していたのですが、オカルト・ホラーというよりはアクション映画の要素が強い作品でした。ザジー・ビーツ演じる主人公が頭のイカれた連中を相手に大暴れするのですが、格闘技の心得でもあるのか無駄のない動きでバッタバッタとなぎ倒します。それがとても痛快で、ストレスも吹っ飛んでしまいそうです。敵のボスはもちろん悪魔ですが、その造形がグロテスクながらもどこか愛嬌があり、観客に強烈な印象を抱かせます。B級映画の匂いはプンプンしますが、極上のエンターテインメントに仕上がっていました。
 
 アクション映画の主人公としてのメイドの動きは。クエンティン・タランティーノ監督の「キル・ビル」(2003年)でユマ・サーマンが演じた女主人公のそれを連想させました。1人の女が長い昏睡状態から奇跡的に目覚めます。女の名は"ザ・ブライド"。かつて、世界中を震撼させた暗殺集団の中にあって最強と謳われたエージェント。5年前、彼女は自分の結婚式の真っ只中に、かつてのボス"ビル"の襲撃に遭い、愛する夫とお腹の子どもを殺された上、自らも撃たれて死の淵をさまよいました。いま、目覚めた彼女の頭の中はビルに対する激しい怒りに満たされています。復讐の鬼と化したザ・ブライドは、自分の幸せを奪った者すべてを血祭りに上げるため、たったひとりで闘いの旅へと向かうでした。
 
 また、アクションとホラーの融合という点では、ジャック・スターレット監督の「悪魔の追跡」(1975年)を連想しました。おぞましい悪魔の儀式が繰り広げられる物語です。カンス中に偶然、邪教集団の儀式を目撃してしまった2組の夫婦に、正体不明の襲撃が始まります。カー・チェイスを主軸にした、小品ながらなかなか楽します。この作品、史上最高の面白さを誇る<奇跡のB級映画>と呼ばれています。「ローズマリーの赤ちゃん」や「エクソシスト」に登場する悪魔の存在、「わらの犬」「悪魔のいけにえ」といった見知らぬ土地の恐怖、そして「ウィッカーマン」などで描かれたカルト集団の不気味さがすべて合体、さらにはカーアクションの要素までプラスされた衝撃作です。
 
 ニューヨークの悪魔崇拝者たちが住むマンションといえば、ホラー映画の金字塔であるロマン・ポランスキー監督の「ローズマリーの赤ちゃん」(1968年)の舞台でもあります。原作者は、アメリカの小説家アイラ・レヴィン。主人公はマンハッタンに住む若い新婚女性で、アパートの親切そうな隣人たちが、妊娠中の自分と赤ん坊に対し、邪悪な考えを持っているのではないかと疑い始めます。この映画はパラノイア、カトリック、女性解放、オカルティズムに関連したテーマを扱っています。パラマウント映画の配給で公開された本作は批評家たちに絶賛され興行的にも成功を収めました。ゴールデングローブ賞やアカデミー賞、ヒューゴー賞、全米監督協会賞など数多くの映画賞にノミネートされ、第41回アカデミー助演女優賞、第26回ゴールデングローブ 助演女優賞(いずれもルース・ゴードン)を受賞しています。
 
 現代のアメリカには、実際に「サタニスト(悪魔崇拝者)」を自称する団体が存在しますが、その多くは架空の悪魔を崇拝しているわけではなく、権威への反抗や政教分離の促進を目的とした無神論的な団体です。代表的な存在は、サタン教会 (Church of Satan)です。1966ネンニアントン・ラヴェイによって設立。超自然的な悪魔を信じるのではなく、自己中心主義や個人の自由を象徴する存在として「サタン」を掲げています。また、サタニック・テンプル (The Satanic Temple)も有名ですね。近年活発な団体で、信教の自由や政教分離を訴える社会・政治活動を主目的としています。公的な場に宗教的シンボルが置かれる際、「平等」を理由に悪魔像の設置を求めるなどの活動で知られます。悪魔を崇拝する宗教というわけです。
 
 また、社会的な恐怖や政治的な対立の中で、「悪魔崇拝」という概念が利用されるケースも目立ちます。1980年代から90年代にかけて、「悪魔崇拝者が組織的に子供を虐待している」という根拠のない噂が全米に広まり、集団ヒステリー(パニック)を引き起こしました。多くの無実の人々が訴えられましたが、後にそのほとんどが虚偽の記憶や誘導尋問によるものだったことが明らかになっています。Qアノン (QAnon) も有名です。現代では、「世界のエリート層(特に民主党関係者)は悪魔崇拝の小児性愛者集団である」という陰謀論が一部で信じられています。これは政治的な分断を深める要因の1つとなっています。2025年には、1980年代のサタニック・パニックの真相に迫るドキュメンタリー映画「サタンがおまえを待っている」が公開され、当時の混乱が再注目されました。今後もアメリカでは悪魔崇拝者が登場するホラー映画が作られそうですね。