No.1264
日本映画「廃用身」をTOHOシネマズ日比谷で観ました。一条真也の映画館「ゼイ・ウィル・キル・ユー」で紹介したアメリカのホラー映画の鑑賞後に観たのですが、同じ11番シアターの同じシートでした。「ゼイ・ウィル・キル・ユー」のようなホラーではありませんが、こちらの方がずっと恐ろしい内容でした。自分の未来についても想いを馳せました。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「老齢期医療をめぐる問題をテーマにした久坂部羊の小説デビュー作『廃用身』を実写化したドラマ。あるクリニックで行われている、画期的な治療が思いも寄らない事態を引き起こす。メガホンを取るのは『三つの光』などの吉田光希。『聖☆おにいさん』シリーズなどの染谷将太、『逆火』などの北村有起哉、『奇麗な、悪』などの瀧内公美のほか、吉岡睦雄、六平直政らが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「回復の見込みがない手足を指す『廃用身』に対する独自の治療を行っている、デイケア『異人坂クリニック』。治療を受けた患者の多くが、手足の状態に加えて精神状態も良くなったことを実感したという話を聞きつけた書籍編集者の矢倉(北村有起哉)は、老齢期医療の未来を変えると感じ、クリニックの院長・漆原院長(染谷将太)に本の出版を持ちかける。だが、クリニックで行っているデイケアに関する内部告発が週刊誌で報道される」
原作者の久坂部羊(くさかべよう)は、推理作家でありながら、現役の医師でもあります。1955年大阪府生まれ、大阪大学医学部卒業。2003年『廃用身』でデビュー。2014年、理想の医師像やがん治療の限界を問い直した『悪医』で第3回日本医療小説大賞を受賞。その他、2015年に『破裂』がNHKにて連続テレビドラマ化(椎名桔平主演)。同年、『無痛』がフジテレビ系にて「無痛〜診える眼〜」(西島秀俊主演)として連続ドラマ化されています。大阪大学医学部附属病院などでがん手術や麻酔科研修に従事。終末期医療の現実や末期がん患者と向き合ってきた経験が、作品の強いリアリティを生み出しています。
この映画について語ることは難しいです。本作に登場する「Aケア」は確かに恐ろしいですが、主人公の漆原医師は本当に「良かれ」と思って行っているわけです。それによって介護をする人々の負担が軽減されたり、本人の精神状態が一時的に改善されることもあるでしょう。でも、その先に待っていたのは残酷な現実でした。わたしにも足が悪くて車椅子でしか移動できない母がいますが、この映画を観て、自身の力で動くことができない方々の心中を想像すると、すごく辛くなってきました。医師も患者の生命を救うことは大切ですが、それ以外の「コスパ」とか「タイパ」といった合理的なパフォーマンスに走る危険性を思い知りました。
本作には四肢をすべて切断した患者が登場するのですが、わたしは1人の日本人女性のことを連想しました。中村久子という方です。明治30年に生まれですが、まだ3歳のときに難病にかかり両手両足を切断されるという経験をしながらも、72年の人生をたくましく生き抜いた人です。また、自分が果敢に生きただけでなく、晩年は全国を講演して回り、多くの障害者に勇気を与え続けた人です。両手両足を切断した後も、何度も手術は繰り返されました。生活苦から見世物小屋に自ら入り、「だるま娘」として23年間も好奇の眼にさらされました。それでも独学で読み書きを覚え、読書で教養と精神性を高めました。生きる希望を絶対に捨てず、家事はもちろん、結婚や出産、そして育児までをも立派にこなしました。「奇跡の人」ヘレン・ケラーが彼女に初めて面会したとき、「私より不幸な人、そして私より偉大な人」と言ったことは有名です。
映画「廃用身」で主人公の漆原医師を演じた染谷将太は素晴らしかったです。撮影に入る前に俳優陣が集まって、原作には書かれているが映画では描かれていない症例の1つをピックアップして、その患者さんに「Aケアをするべきか、しないべきか」をディスカッションするというエチュードを行ったそうです。「好書好日」のインタビューで、染谷は「実際に介護経験がある方や介護施設で働いていた方もいて、その場で皆さんが自分の意見を言葉にして、それを聞いてどう思うかということをしました。撮影が始まってからも、控室では『自分ならどうするか』『自分の家族だったらどうするか』『もしAケアが現実になったら』という議論が飛び交っていて、手足を切断される患者さん役を演じる方が自分事として真剣に考えていらした姿は印象に残っています」と語っています。鑑賞後の今、わたしも「自分ならどうするか」「自分の家族だったらどうするか」を考えています。


