No.0059


 いま話題の日本映画「エンディングノート」を観ました。
 場所は、東京の新宿ピカデリーでした。「出版寅さん」こと内海準二さんも一緒でしたが、超満員の観客に驚きました。高齢者の数も多く、時代の変化を痛感しました。

 1人のモーレツ・ビジネスマンが67歳で退職後、がんの宣告を受けます。
 毎年の健康診断は欠かさなかったのですが、がんはすでにステージ4でした。
 段取り人間として知られた主人公は、その集大成として、自身の葬儀までの段取りを記したエンディングノートを作成するという映画です。
 砂田麻美監督は主人公の三女ですが、最後の最後までカメラを回し続けていることに、わたしは軽い衝撃を覚えました。また、砂田監督はこの映画のナレーションも担当していますが、淡々とした語り口で、とても良かったです。
 子どもたちが「死」を学ぶ教育映画として、遺族の悲しみを癒すグリーフケア映画として、また余命宣告を受けた人が心安らかに「死」を迎える覚悟の映画として・・・・・あらゆる日本人に観てほしい名作でした。

 主人公は、東海地方の病院の跡取りとして生まれながら、医学部には進学せず経済学部に進み、東京の丸の内に本社のある化学メーカーに入社します。
 そこで役員まで出世しますが、定年退職した直後に不治の病にかかったわけです。
 最後までユーモアを絶やさず、家族に見守られながら、旅立って行った主人公の姿は静かな感動を呼びます。ビジネスマン時代から段取り上手だった主人公は、最後まで段取りをきちんと考えながら、有終の美を飾ったのでした。
 たった1つの心残りは、90歳を超えた実母を残して先に逝くことでしょうか。

 都心のマンションに住み、かのリリー・フランキーのオカンと同じ東京タワーの見える名門病院の個室に入院し、アメリカから3人の孫たちが最後の面会に駆けつけてくれ、亡くなった後は訃報が新聞に掲載される。
 そんな主人公のエンディングは、一般的に見ると非常に恵まれています。
 でも、主人公が裕福だから、素晴らしいエンディングが待っていたわけではありません。
 お金や生活レベルなどに関係なく、主人公が愛情あふれる家族に恵まれていたから、満足のゆくグランド・フィナーレを迎えることができたのだと思います。
 そして、それを可能にしたのはエンディングノートの存在でした。

 主人公のエンディングノートには、11の「するべきこと」が記されていました。
 「長男に引継ぎをする」とか「(葬儀の)式場を決めておく」とか「気合を入れて孫と遊ぶ」とか「妻に(初めて)愛していると言う」といった内容です。
 これは、明らかに「死ぬまでにしたい10のこと」の影響を感じました。
 「死ぬまでにしたい10のこと」(My Life Without Me)は、2003年のカナダ・スペイン合作映画です。2ヵ月の余命宣告を受けた主婦が、生きているうちにやるべき10のことをこなしていくというストーリーで、いわば「終活」映画というべき作品です。
 この映画のナレーション部分では、主人公を指す代名詞にyou(あなた)が使われていました。映画の観客が、あたかも「自分がこの映画の主人公であり、自分の余命が2ヵ月なのだ」と思えるようになっていたのが新鮮でした。
 しかし、「死ぬまでにしたい10のこと」はフィクションであり、当然ながら俳優が演技をしています。いっぽう、「エンディングノート」のほうはすべて実在の人物が登場するドキュメンタリーなわけですから、究極の「終活」映画と言えるでしょう。

 映画「エンディングノート」では、主人公はパソコンを使って自分でエンディングノートを作っていましたが、市販もされています。
 高齢化社会を迎えて、エンディングノートはますますその必要性を増しています。
 エンディングノートを遺言だと思っている方がいますが、まったく違います。
 遺言というのは、法的な拘束性がありますし、財産の分配などを記載します。
 自分がどのような最期を迎えたいか、そのような旅立ちをしたいか。
 そんな旅立つ当人の想いを綴るのが、エンディングノートです。
 そして、エンディングノートとは残された方への故人からの手紙でもあります。

 エンディングノートと遺言書の違いを整理しておきましょう。
【エンディングノート】
・法的拘束性はない
・財産の分配ではなく、財産の所在を明記する
・自分の生い立ちなどを記録する
・葬式の様式(どんな葬式をしてほしいか)を明記する
・友人・親族の連絡先を明記する
ということになります。続いて、遺言書は次のような内容です。
【遺言書】
・法的拘束性がある(公証役場作成のもの)
・財産の分配先を明記する ・子供認知などを明記する
・後見人を指定する
・相続人の排除
などが書かれているのが遺言書になります。
エンディングノートとは、ずいぶんと趣が違うことがわかります。
エンディングノートは自由なスタイルで書くことができますが、遺言書の場合は、ある程度、法的拘束性を求めると、それなりの書き方が必要です。

 エンディングノートについて、さらに具体的に紹介しましょう。
 エンディングノートの目的の1つは、「残された人たちが迷わないため」というものです。どんな葬儀にしてほしいかということはもちろん、病気の告知や延命治療といった問題も書き込むことができます。
 「お父さんはどうしてほしいのか」「お母さんの希望は何?」。
 たとえ子供であって、なかなか相手の意思というのはわかりません。
 本人も迷うでしょうが、そばにいる家族や知人はもっと迷い、悩んでいます。
 そんなときにエンディングノートに意志が書かれていれば、どれだけ救われるかわかりません。葬儀にしても「あの人らしい葬式をしてあげたい」と思う気持ちが、エンディングノートに希望を書いてもらえているだけで実現できます。

 たしかに自分の死について書くことは勇気のいることです。
 でも、自分の希望を書いているのですが、じつは残された人のためだと
思えば、勇気がわくのではないでしょうか。
 またエンディングノートには、もう1つ大きな役割があります。
 それは、自分が生きてきた道を振り返る作業でもあるのです。いま、自分史を残すことが流行のようですが、エンディングノートはその機能も果たしてくれます。
 気に入った写真を残す、楽しかった旅の思い出を書く、そんなことで十分です。
 そして最後に、愛する人へのメッセージを書き添える。
 残された人たちは、あなたのその言葉できっと救われ、あなたを失った悲しみにも耐えていけるのではないでしょうか。

【エンディングノートに書きたい内容】
1 病気や介護について
・病名・余命の告知について
・延命治療や尊厳死について
・臓器提供や献体について
・認知症などで、判断ができなくなった場合について
・だれに介護をしてほしいか
・最期を迎えたい場所について
2 どのような葬式をしたいか
・喪主(責任者)をだれにするか
・業者の希望はあるか
・葬式の規模やスタイルについて
・だれに見送られたいか
・遺影写真は
・葬式でしてほしいこと、してほしくないこと
・連絡をしてほしい人のリスト
3 財産などについて
・保険や預貯金について
・土地や家などについて
・形見などについて
4 自分史的な記述
・人生での思い出
・自分の履歴書
・お世話になった人へのメッセージ
・愛する人へのメッセージ

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究極のエンディングノート

 エンディングノートにはとくにスタイルはありません。
 書店や文具店に行けば、エンディングノートと呼ばれるものも市販されています。
 また遺言書は自筆ということが決められていますが、エンディングノートは別にパソコンで作成してかまいません。映画「エンディングノート」の主人公がとった方法ですね。 わたしは、現代人にとって最も使いやすく、死への恐怖さえ薄れてゆく究極のエンディングノートが作れないかと長年考えていました。
 ようやく2009年に『思い出ノート』(現代書林)が完成しました。
 おかげさまで非常に好評で、版を重ねています。
 アマゾンなどのネットでも購入できますので、よろしければお使い下さい。
 この映画は『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)で取り上げました。

  • 販売元:バンダイビジュアル
  • 発売日:2012/05/25
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