日本映画「ステキな金縛り」を観ました。"生誕50周年"を迎えた三谷幸喜監督が、「ザ・マジックアワー」で主演した深津絵里と再び手を組んだ作品です。

 三谷監督の映画はすべて観ていますが、わたしは「ラジオの時間」が一番好きです。
 今回の「ステキな金縛り」は、法廷ミステリーでありながら、痛快なドタバタ劇でした。
 物語は、ある殺人事件の弁護を依頼されたダメ弁護士のエミ(深津絵里)が、ある殺人事件を担当することになります。エミは、優秀な弁護士だった亡き父親とは大違いで失敗続き、もう後がないのでした。犯行が行われたとき、被告人は自分は金縛りにあっていたと主張します。そのために完璧なアリバイがあるというのですが、被告人の上に一晩中のしかかっていたのは落ち武者の幽霊なのです。エミは自ら、いわくつきの旅館の部屋に泊まって、落ち武者の幽霊である(西田敏行)と出会います。
 そして、エミはなんと、六兵衛を証人として法廷に召喚しようとするのでした。
 まあ、一言でいえば「荒唐無稽」です。"心霊ファンタジー"という、わたしの好きなジャンルとして見てもツッコミどころがたくさんあります。でも、三谷監督お得意のコメディーの要素が随所に散りばめられており、なかなか面白かったです。

 深津絵里と西田敏行の他にも、阿部寛、竹内結子、浅野忠信、草彅剛、中井貴一と超豪華な俳優陣です。脇を固める役者の顔ぶれも、市村正親、小日向文世、小林隆、山本亘、KAN、木下隆行(TKO)、山本耕史と、渋いです。
 また、ちょっとした役に佐藤浩市、唐沢寿明、生瀬勝久、梶原善、篠原涼子、深田恭子らが出ているという贅沢なキャストとなっています。
 個人的には、小日向文世演じる死神(霊界の公安委員長)が良かったですね。
 また、弁護士役の阿部寛のキャラは、彼が「トリック」で演じる物理学者とそっくりでした。そういえば、タクシー運転手を演じる生瀬勝久も、「トリック」の刑事役と同様に、頭髪ネタでいじられています。この「ステキな金縛り」の法廷シーンでは、中井貴一演じる理論派の検事が「こんなものは、すべてトリックだ!」と叫ぶ場面がありますが、三谷監督は「トリック」を意識したのかもしれませんね。
 ブログ「劇場版トリック3 霊能力者バトルロイヤル」も、ご参考までに。

 この「ステキな金縛り」は、もちろん基本的にはコメディです。
 しかしながら、泣かせる部分もかなり大きい作品です。
 それは、何よりも死者と生者との交流を描いていることに尽きるでしょう。
 わたしたちの周囲には、目には見えなくとも無数の死者がいます。
 「死者を忘れて、生者の幸福などありえない」というのが、わたしの口癖です。
 この映画では、そのことがユーモラスに描かれており、いかに生者が死者から支えられて生きているかを描いています。本当は霊を姿が見えるくせに、中井貴一扮する検事の小佐野は、霊の存在をどうしても認めようとしませんでした。一計を案じたエミと六兵衛は、交通事故で死んだ小佐野の愛犬を霊界から連れてきて、彼に会わせます。
 クールな小佐野は、愛犬の幽霊を見た瞬間、冷静さを失って泣き崩れます。
 わたしも、亡き愛犬ハリーを思い出して、しんみりとしました。

 この映画は、いわゆる「ジェントル・ゴースト・ストーリー」と言えるでしょう。
 ブログ『押入れのちよ』にも書きましたが、「ジェントル・ゴースト・ストーリー」とは日本語に直せば「優霊物語」とでも呼ぶべき怪談文芸のサブジャンルです。
 文芸評論家の東雅夫氏は、『押入れのちよ』荻原浩著(新潮文庫)の解説で、「ジェントル・ゴースト・ストーリー」について次のように説明します。

「gentle ghostとは、生者に祟ったり脅かしたりする怨霊悪霊の類とは異なり、残されたものへの愛着や未練、孤独や悲愁のあまり化けて出る心優しい幽霊といった意味合いの言葉で、由緒ある邸宅に幽霊がいるのは格式の内と考えるお国柄の英国などでは、古くから怪奇小説の一分野として親しまれてきた」
 西欧の幽霊小説の嚆矢とされるダニエル・デフォーの短篇「ヴィール夫人の幽霊」をはじめ、キップリングの「彼等」、キラ=クーチの「一対の手」、マージョリ・ボウエンの「色絵の皿」など、これまで多くのジェントル・ゴースト・ストーリーが書かれてきました。
 英国と並んで怪談文芸が盛んであった日本でも、上田秋成雨月物語』の「浅茅が宿」「菊花の契り」をはじめ、室生犀星「後の日の童子」、橘外男「逗子物語」、三島由紀夫「朝顔」などがこの系統に属する小説であると東氏は分析します。
 さらに、映画化もされた山田太一の「異人たちとの夏」、浅田次郎の「鉄道員(ぽっぽや)」などの名作も挙げられるでしょう。

 映画「ステキな金縛り」に話を戻しましょう。
 エミは、幽霊である六兵衛の存在を万人に示そうと、悪戦苦闘します。
 その場面を見て、1990年の名作「ゴースト/ニューヨークの幻」を思い出しました。
 死者は生者とコミュニケーションを取りたくて、自らの存在を示そうとしている。
しかし、すでに肉体が消滅しているわけですから、思うようにはいきません。
 天才奇術師ハリー・フーディーニをはじめ、自分は死んだら必ず霊界からサインを送ると言い残して死んでいった人々はたくさん存在します。
 また、イギリスを発信地として、交霊会なるものが世界的に流行しました。
 死者は生者と交信したがっているし、生者もそれを望んでいる。
 その意味で、「ゴースト/ニューヨークの幻」に出てくる、硬貨が宙に浮いて動くシーンは、多くの観客に感動を与えた名場面となりました。
 愛する人を亡くした多くの人々が、この映画のように死者の存在を目で確認したいと願っているのです。それもあってか、この映画は記録的な大ヒット作となりました。
 製作予算は2200万ドルで、なんと興行収入は世界で約5億ドルでした。
 この映画は現在でも、ロマンス・ファンタジー映画の興行収入で1位になっています。
 そういえば、いま、TVドラマ「家政婦のミタ」が大当たりしていますね。ミタ役の松嶋奈々子は、昨年秋に公開されたアジア版「ゴースト」で主演を務めています。

 最後に、この映画では冒頭から満月が登場します。
 明らかに、月が「霊界」のメタファーになっていましたね。
 『ロマンティック・デス~月を見よ、死を想え』(幻冬舎文庫)以来、ずっと「月を見よ、死を想え」と訴えてきたわたしは、満月が出てくるたびにニヤリとしました。
 映画の主題歌も、「Once In A Blue Moon」となっています。
 作詞は三谷幸喜、作曲が荻野清子で、歌は深津絵里と西田敏行、法廷ボーイズ(KAN、中井貴一、阿部寛 、小林隆)がコーラスを担当しています。
 メインボーカルの深津絵理は想像以上に歌がうまくて、声もキュートでした。
 この歌、ある意味では映画以上の傑作で、ステキな出来栄えになっています。

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Once In A Blue Moon~月を見上げて死者を思い出そう

  • 販売元:東宝
  • 発売日:2012/05/25
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