No.0071
遅ればせながら、話題の映画「アーティスト」を観ました。
第84回アカデミー賞では、作品賞をはじめ5部門を受賞した作品です。
ずいぶん以前より、多くの映画通たちから「名作なので、ぜひ観たほうがいい」と薦められていました。
やっと、ゴールデンウィークに入ってから観ることができました。
観終わって、じつに心が温かくなりました。
こういう映画こそ、まさに「ハートフル映画」と呼ぶべきでしょう。
この映画には基本的に悪人が1人も登場しません。
登場するのは善意の人々ばかりです。
ただ1人だけ主人公と離婚した妻が異色な存在ですが・・・・・。
この映画はフランス映画です。監督はミシェル・アザナヴィシウスで、ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョが主演しています。デュジャルダンは第84回アカデミー賞の主演男優賞と第64回カンヌ国際映画祭の男優賞を受賞しています。
体格が良くて、ダンスが上手な彼は、とても魅力的な男性です。
なぜ、フランス映画がアカデミー5冠に輝いたかといえば、それはこの映画の舞台がハリウッドであり、アメリカ映画そのものに対するオマージュとなっているからに他ならないでしょう。そう、「アーティスト」は1927年から1932年までのハリウッドを舞台としています。トーキーの登場でサイレント映画の時代が終わったことで落ちぶれた男優、トーキーによって躍進し時代の寵児となった女優、その2人の生きる姿を描く物語です。
最初はサイレント、カラー映画として作られましたが、後に白黒映画に変更されました。 わたしは、音楽だけで人間の声のない「アーティスト」を観ながら、「ああ、昔のサイレント映画も、こんな感じだったのだろうな」と思いました。
アーティスト、すなわち芸術家であることに誇りをもち、時代の変化の波に乗れずに没落するスターのジョージを見ていると、とても切なくなります。
そして、その彼に淡い恋心を抱いていた現代の花形女優ぺピーが彼の復活に救いの手を差し伸べるところも泣けます。彼女は、かつて人気スターだったジョージの何気ないアドバイスをきっかけにスターへの道を歩み始めました。そんなこともあって、ジョージはぺピーにとっての人生の恩人でもあり、彼女は深く感謝していたのです。
おそらく、男なら、そして今の仕事と生活に充実している男なら、誰でもセンチメンタルになってしまう映画ではないでしょうか。
また、主役の2人が初めて共演してダンスを踊るシーンは、この上なくロマンティック!
とにかくシンプルなラブストーリーという点も好感が持てます。
この映画は、サイレントの傑作の数々へのオマージュとなっていることでも知られます。
ペピーが男の上着の袖に腕を通して自分の身体を愛撫する場面は、フランク・ボーゼイジの「第七天国」からの引用です。他にも、F・W・ムルナウの「サンライズ」、キング・ビダーの「群衆」といった名高いサイレント映画、トーキーの古典である「市民ケーン」や「スタア誕生」などからも「多くの描写を借りています。その一方で、映画評論家の芝山幹郎氏によれば、「アーティスト」は単なる過去の映画の復刻ではなく、その技法は非常に大胆であるとして、「監督のアザナビシウスは多くの局面で、『定型を使って定型をうっちゃろう』としている。この試みが私には面白かった。『アーティスト』は、ハイブリッド・エンジンを積んだクラシックカーだと思う」と、「映画.com」で述べています。
「ハイブリッド・エンジンを積んだクラシックカー」とは言い得て妙です。
いやあ、それにしても、プロはうまいことを言いますねぇ!
最後に、わたしは犬好きなのですが、この映画での愛犬の存在は余計でした。