No.0083
日本映画「ヒミズ」をDVDで観ました。
ブログ「園子温の世界」で紹介した映画監督の最新作です。
また、ブログ『ヒミズ』で紹介したコミックの映画化でもあります。
この作品のストーリーについては、アマゾンに次のように紹介されています。
「住田祐一、茶沢景子、『ふつうの未来』を夢見る15歳。
だが、そんな2人の日常は、ある"事件"をきっかけに一変。
衝動的に父親を殺してしまった住田は、そこからの人生を『オマケ人生』と名付け、世間の害悪となる"悪党"を殺していこうと決めた。
自ら未来を捨てることを選んだ住田に、茶沢は再び光を見せられるのか ──」
非常に期待して観た作品ですが、正直な感想は「うーん、園子温に原作ものは合わないかも」です。もちろん、コミックをそのまま映像化しているわけではなく、いろいろと改変を加えています。その最たるものは、物語の舞台を被災地に変えていることです。
原作と無関係の東日本大震災を絡めるということに関しては賛否両論あったようですが、わたしは失敗だったと思います。何よりも安易なヒューマニズム映画という色を帯びてしまい、園監督が持つ「毒」を活かせなませんでした。
また、ラストも180度変わってしまい、まったく違う物語になってしまいました。
ラストの改変も東日本大震災をからめた結果ですが、これは個人的には良いのではないかと思いました。特に、最後に「頑張れ」という言葉が主役の2人から連発されます。これは、園監督らしい捻りの効いたメッセージではないかと思いました。
というのも、あの震災で最も悪く言われたのが「頑張れ」という言葉だったからです。
被災者に向かって「頑張れ」と声をかけることは上から目線の悪行のようにさんざん言われました。特にインテリ層にそのような人々が多かったですね。
しかし正直言って、わたしは違和感を抱いていました。「人を励ましたり、応援したりするのに、素直な心で『頑張れ』といって何が悪いの?」と思ったのです。
「頑張れ」という言葉をタブーにすることは、サザンオールスターズの「TSUNAMI」を封印歌にするような一種の言葉狩りの匂いを感じていたのです。そのわたしと同じ思いがあったのかどうかは知りませんが、ラストで震災の瓦礫のシーンを流しながら、これでもかとばかりに「頑張れ」という言葉を流した園監督には大いに共感しました。
それでも、園監督は実在の事件にインスパイアされるのはいいけれど、原作ものは似合わないと思います。原作を読んだ者にとって、大胆な改変が気になって、作品に集中できないのです。この映画に関しては、古谷実の漫画のほうが勝っていると思います。
主演の2人は、文句なしに素晴らしい演技でした。染谷将太と二階堂ふみは、第68回ヴェネチア国際映画祭で日本人初の快挙となる最優秀新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)をがダブル受賞しました。余談ですが、染谷将太は元・男闘呼組の高橋和也、二階堂ふみは宮崎あおいによく似ていますね。
中学生の役を演じた2人ともまだ若いので、今後の活躍が楽しみです。
「ヒミズ」のDVD
主演2人の周りは、渡辺哲、吹越満、神楽坂恵、光石研、渡辺真起子、黒沢あすか、でんでん、村上淳といった個性派俳優たちが固めていました。
さらに窪塚洋介、鈴木杏が初めて園作品に参加した他、過去の作品で高く評価された吉高由里子、AAAの西島隆弘が再び参加しています。
なかなかの豪華キャストですが、直前に観た「冷たい熱帯魚」に出演していた渡辺哲、でんでん、吹越満、神楽坂恵、黒沢あすからが軒並み勢揃いしていたので、ちょっと引いてしまいました。特に「冷たい熱帯魚」で夫婦役を演じた吹越満と神楽坂恵が再び夫婦役で登場というのは「いかがなもの」でしょうか。
どうしても前作の印象が強すぎて、新作を観るときの邪魔になってしまいます。
あと、この映画は130分の長さですが、特典ディスクにはまだまだ未公開シーンがたくさん収められていました。その中には、どうしてもカットしてはならないシーンもあるように感じました。東日本大震災がらみのヒューマン・ムーヴィーに仕上げるために泣く泣くカットしたのかもしれませんが、いくつかの未公開シーンが復活すれば、狂気をプンプン感じさせるいつもの園ワールドに近くなると思います。
ぜひ、園子温監督によるディレクターズ・カットの完成版を観てみたいです。