No.0082
ロンドン五輪も閉幕し、この盆休みはDVDばかり観ました。
これまで買い置きしていたDVDを固めて観ているのです。
園子温監督の映画を3本続けて鑑賞しましたが、完全に園子ワールドにハマりました。
「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」の3本ですが、いずれも大傑作でした。
DVD化された園子温監督の作品
園監督は1961年、愛知県豊川市生まれです。
映画監督の他にも、脚本家、詩人、パフォーマーなどの顔を持っています。
特に、詩人としての才能は高く評価されており、17歳で「現代詩手帖」や「ユリイカ」などに投稿し、「ジーパンを履いた朔太郎」と呼ばれたそうです。
もちろん映画監督としての才能も非凡で、1987年に「男の花道」で「ぴあフィルムフェスティバル」グランプリを受賞します。また、ベルリン国際映画祭の正式招待作品になった「自転車吐息」をはじめ、次々に問題作を発表して、90年代のインディーズ系映画界を席巻しました。それらの作品は、横尾忠則、荒木経惟、麿赤児、吉本ばなな、荒川眞一郎といった著名な文化人たちによって絶賛されました。
園監督は日本における「インディーズ映画」の代名詞的存在になりました。
しかし、2001年以降はメジャー映画会社とも手を結び、これまた問題作を連発して、国際的にも高い評価を得ます。2008年の「愛のむきだし」では、ベルリン国際映画祭の「国際批評家連盟賞」「カリガリ賞」を受賞しました。
「愛のむきだし」は、4時間近い大長編です。
なんと開始から1時間半ぐらいしてからタイトルバックが出てきます。
映画史上最長のイントロだと言えるでしょう。
しかし、この長い映画を、わたしはまったく飽きずに一気に観ました。
いやあ、こんなに感動した作品は久々です。荒唐無稽といえば荒唐無稽な話なのですが、「宗教」と「愛」の本質を見事に描いています。
主演は、AAA(トリプルエー)の西島隆弘と満島ひかりですが、どちらも素晴らしい演技力でした。特に、浜辺で満島ひかり扮するヨーコが西島隆弘扮するユウに向かって『新約聖書』の「コリントの信徒への手紙」第13章・愛の賛歌を絶叫するように暗唱するシーンが圧巻でした。満島ひかりの主演作では「カケラ」も最近観たのですが、本当に演技力が半端ではありませんね。日本映画では、大竹しのぶ、松たか子らに続く実力派女優だと思います。また、ミュージシャンの西島隆弘クンも俳優としての才能を惜しみなく発揮していました。この映画を観て、わたしは2人のファンになりましたね。
安藤サクラ、渡辺真起子、渡部篤郎といった助演陣も良かったです。
2011年の「冷たい熱帯魚」も凄い映画でした。第67回ヴェネチア国際映画祭、第35回トロント国際映画祭にも出品され、世界で絶賛されました。
一言でいうと、スプラッタームービーを超えた血みどろの犯罪映画です。
クエンティン・タランティーノや北野武の作品も連想させますが、彼らの世界をも突き抜けた、もう手加減なしの猛毒エンターテインメントと言えるでしょう。
殺した死体を切り刻むシーンなど、この作品が映画史上最もリアルではないでしょうか。
主演は吹越満で、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、渡辺哲らが出演しています。
そして、2011年には「恋の罪」も公開されています。
第64回カンヌ国際映画祭監督週間に正式出品されました。
これもまた、これまで見たこともないような凄い映画でした。
90年代の渋谷・円山町のラブホテル街を舞台に不思議で妖しい物語が展開されます。
水野美紀、冨樫真、神楽坂恵という3人の女優が身も心もむきだしの演技を見せてくれます。なお、前作「冷たい熱帯魚」に続いて体当たりの演技を見せてくれた神楽坂恵は、この作品の完成後に園監督と婚約したそうです。
園子温という映画監督は間違いなく天才であると思います。
わたしが続けて観た「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」は、いずれも実際に起きた事件からインスパイアされている点が興味深く感じました。
「愛のむきだし」は、「オウム真理教事件」。
「冷たい熱帯魚」は、「埼玉愛犬家連続殺人事件」。
「恋の罪」は、「東電OL殺人事件」。
以上のように、実在の事件をもとにして映画が作られています。
それも、事件をそのまま再現するのではなく、大きな改変が行われています。
オウム真理教は仏教系の新興宗教を名乗っていましたが、「愛のむきだし」に登場するゼロ教会はキリスト教系です。「冷たい熱帯魚」では、愛犬家ではなく熱帯魚の愛好家が殺されます。「恋の罪」に登場する女性エリートは東電OLではなく、東大と思しき超一流大学の日本文学の准教授でした。
このような改変を済ませた後は、もう遠慮なく異常な世界を描いています。
次に、鬼才・園子温がインスパイアされる実在の事件とは何か。
個人的には、「北九州監禁殺人事件」を取り上げてくれないかと思っています。
北九州市在住の作家である佐木隆三氏も自身のライフワークにしているという前代未聞の猟奇事件ですが、ぜひ園監督に映画化してほしいと思います。
もちろん、舞台は北九州市以外の都市に改変して・・・・・。