No.0099


 日本映画「図書館戦争」を観ました。有川浩氏の原作も大ベストセラーで、ネットの評判も高いです。観る前はけっこう楽しみにしていたのですが、正直言って、あまりピンときませんでした。

 本を読む自由を守る自衛組織「図書隊」の隊員に岡田准一と榮倉奈々が扮し、田中圭や栗山千明、石坂浩二など豪華キャストが共演しています。監督は、「GANTZ」シリーズの佐藤信介です。
 舞台は架空の日本で、30年前に「メディア良化法」が制定されます。これは、公序良俗を乱し人権を侵害する表現を規制する法律です。法の施行に伴いメディアへの監視権を持つ「メディア良化委員会」も発足します。その執行機関である「良化特務機関(メディア良化隊)」は、不適切とされたあらゆる創作物を取り締まり、執行が妨害される際には武力制圧も行います。情報が制限され、読む自由が奪われる世の流れの中で、「図書館」だけが弾圧に対抗するというのです。

 まず、「これは、あまりにもリアリティがないなあ」と思いました。
 いくら架空の物語でも、それなりのリアリティがフィクションに命を与えます。それが、この映画には感じられませんでした。西南戦争じゃあるまいし、日本人同士で戦い合って、殺し合うというのがどうにも違和感があります。第一、「メディア良化法」も「図書館法」もともに法務大臣が認めた法律なのに、それらに基づくメディア良化隊と図書隊が戦争をするということ自体が矛盾では? まあ、現実の世界でも「特商法」と「消費者契約法」などは対立しているわけですから、人間が作った法律というものは完成度が低いというか、"抜け"が多いですね。その事実に対する批判的設定というならば理解できますが・・・・・。それにしても、「メディア良化法」は明らかに例の「都条例問題」を意識していますね。あの条例に最も強く反対を表明した角川書店が『図書館戦争』シリーズを文庫化しているというのも考えさせられます。

 国家によって書物が検閲される架空の社会といえば、名作「華氏451度」を思い出します。レイ・ブラッドベリの原作SFをフランソワ・トリュフォーが映画化した作品で、わたしの大好きな映画です。「華氏451度」には、さまざまな本の内容を丸ごと暗記している「人間書物」が登場します。たとえば、プラトンの『国家』を暗記している人間は「『国家』さん」、バリーの『ピーター・パン』を暗記している人間は「『ピーター・パン』さん」と呼ばれます。たとえ世界中の本が焼かれてしまったとしても、彼らが生き延びれば「本の内容は残る」というわけです。わたしならば、「『論語』さん」か「『星の王子さま』さん」などと呼ばれたいですね。

 「華氏451度」に比べて「図書館戦争」の場合は、戦闘シーンにあまりにも重きを置きすぎているところが嫌でした。相手の攻撃を確認してから反撃に出る図書隊が自衛隊のメタファーであるのは明らかですが、この物語、見え透いたメタファーが多すぎて白けてしまうのです。また、第一次世界大戦みたいな塹壕で銃撃戦を繰り広げるというのも変ですし、あれだけ銃を撃ちまくっている割には建物がほとんど損傷しないのもおかしい・・・・・。

 建物が損傷しないのは、公共の施設をロケ地に使用しているからでしょう。そして、その施設とは「北九州市立中央図書館」と「北九州市立美術館」です。ともに建築家の磯崎新氏が設計した斬新なデザインの建物です。なんでも、主演の岡田准一ら俳優陣とスタッフの計約120人が北九州市に滞在し、約20日間にわたって撮影を行ったそうです。100人の市民エキストラも参加したとか。北九州フィルムコミッションの活躍もあって、全国でも1、2を争うほど北九州で映画の撮影が多いことは有名です。ブログ「旦過市場」でも映画「初恋」などのエピソードを紹介しました。そのこと自体は素晴らしいのですが、この戦闘シーンの舞台として政令指定都市の図書館と美術館を貸し出す必要があったのかどうか、わたしには疑問です。よく、地方の旅館などが喜んで殺人現場のロケ地提供などをすることがありますが、あれに通じる「映画やテレビに出ればいいってもんじゃないだろう・・・」という思いが湧いてきたのは事実です。

f:id:shins2m:20130507001619j:image
『図書館の主』の第4・5巻を読みました

 この映画、どうも戦闘シーンが売り物のようですね。でも、その割には迫力をあまり感じませんでした。それよりも、図書隊隊員とテロリストによる格闘シーンのほうが見応えがありました。何よりも柔道をベースとした格闘シーンだったので個人的に嬉しかったですね。こちらは迫力も満点でした。
 図書館の物語ならば、本当はブログ「図書館コミック」で紹介した作品のように本への愛情、読書の魅力を描いてほしかったです。最近、篠原ウミハルの『図書館の主』(芳文社)の第4・5巻を読みましたが、図書館という場所が心を豊かにしてくれることをじんわりと教えてくれる内容でした。どうしても図書館を舞台とした戦争を描くならば、バズーカ砲による攻撃などでなく、万巻の書を読み尽くした「博覧強記」同士の"知のバトル"のほうがふさわしいと思います。そんな新たな物語が書かれることを期待しています。

  • 販売元:角川書店
  • 発売日:2013/11/13
PREV
HOME
NEXT