No.0110


 ヒューマントラストシネマ有楽町で映画「コン・ティキ」を観ました。

 映画の公式HPには「イントロダクション」があり、「前人未到の大航海に世界中が驚いた! 感動に満ちた、無謀にして痛快な大冒険がついに映画化!」のタイトルに続いて、「1500年前と同じいかだで太平洋横断に挑戦したトール・ヘイエルダールと5人の男たち。自然とつながり、歴史とつながり、仲間とつながる、真実の冒険の軌跡。」として、次のように書かれています。


「1947年に歴史的大冒険としてその名を残し、のちに多くの冒険家や探検家に影響を与えた、いかだ"コン・ティキ"号の伝説的な航海。この航海は世界中で5000万部以上の大ベストセラーとなり、20世紀有数の名著として知られるトール・ヘイエルダールの著書『コン・ティキ号探検記』や、1951年にアカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門を受賞した記録映画『Kon-Tiki』を通じて世界中に伝えられている。が、101日におよぶ航海の間に、どれほど過酷で、どれほど感動的なサバイバルが繰り広げられていたかは、あまり知られていない。
 圧倒的な迫力の映像によりその真実の物語を再現。
 絶え間ないサメの襲撃、荒れ狂う嵐、命綱である無線機の故障など、想定を超えるトラブルが続発するなかで生き残りの戦いを強いられた男たちが、いかに人間として成長を遂げていったかをスケール豊かに描き出す。
 そこには、手に汗握るサスペンスがあり、興奮をかきたてるアクションがあり、雄大で神秘的な大自然の美があり、男同士の稀有な友情の物語がある。
 さらに、命がけで自説の正しさを証明しようとしたヘイエルダールの夢とロマンにも焦点を当てた本作は、自分を信じて挑戦することの素晴らしさをおおらかに物語り、観る人すべての胸をわくわくした思いで満たしてくれる」


 数々の傑作を世に送り続けてきたジェレミー・トーマス(『ラストエンペラー』『戦場のメリークリスマス』)が製作、約16年の構想と準備を経て映画化を実現。それはヘイエルダールと存命中に交わした男同士の約束の実現でもあった。そして、北欧の映画界を代表するスタッフが揃い、約2年の撮影期間をかけてノルウェー、ポリネシアなどで一大ロケーション撮影を敢行、本国では記録的大ヒットとなり、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞にノミネートされた」

 また、公式HPの「ストーリー」には、次のように書かれています。


「南太平洋のポリネシア諸島は、大陸から遠く位置するにもかかわらず、古くから住人がいる。彼らの起源について南米のインカ文明とポリネシア文明との相似点が多いことから、ポリネシア人の祖先は、南米から海を渡って渡来した古代南米人なのではないか―。1947年、ノルウェーの若き学者トール・ヘイエルダールは、この仮説を証明するため、ある無謀な挑戦を行う。それは古代でも入手が容易な材料のみでいかだを作り、現代的な装備は無線機のみで、ペルーからポリネシアへ向かう航海に挑戦すること。その距離は8000km。同じ志を持つ仲間が集まり、信念を貫く男たちの命がけの冒険が始まる―」

 子どもの頃、リンドバーグの大西洋横断とか、堀江謙一の太平洋単独横断とかの話題に今ひとつ興味が持てませんでした。すでに物心がついたとき、アポロが月に着陸していたので、その偉業に比べれば、「飛行機やヨットで海を横断したくらいがどうした!」という気持ちがあったように思います。
 しかし大人になってみると、太平洋や大西洋を横断することがいかに大変なことかが理解できるようになりました。ましてや、コン・ティキの場合は、古代のいかだで大海を渡るのですから、いかに偉大な冒険であるかがわかります。

 へイエルダールの他にも5人の男たちが乗り込んでいたわけですが、いかだの上でのへイエルダールのリーダーシップが興味深かったです。
 乗組員の1人が安全のために持ち込んだワイヤーを海に投げ捨てる場面があるのですが、アレクサンダーが兵士たちを鼓舞するために荷物に火をつけて燃やしたというエピソードを思い出しました。
 このエピソードは、「ハートフル・リーダーシップの研究」のサブタイトルを持つ『龍馬とカエサル』(三五館)に登場しますが、アレクサンダーと同じく、へイエルダールもハートフル・リーダーだったのでしょう。

 101日間の航海後、乗組員の1人が海上に鳥を発見し、陸地が近いことを悟って狂喜する場面があるのですが、まさにノアの方舟と同じだなと思いました。ノアの方舟にしろ、タイタニック号にしろ、コン・ティキ号にしろ、船というものは、そして航海というものはいつも神話を紡いでいくものです。その意味で、ハイテクに頼った末に海の藻屑となったタイタニック号の沈没事故(1912年)の35年後に、究極のローテクいかだで奇跡の航海を成功させたコン・ティキ号は20世紀の新しい神話を創生したのでしょう。

 それにしても、ポリネシアの島に漂着したコン・ティキ号一行の歓喜の姿が印象的でした。砂浜に手を置いて高笑いをするへイエルダールの姿はまさに至高体験といった感じで、観ているわたしも「いつか、自分もこのような体験ができるのだろうか・・・」としみじみと思いました。途方もない冒険に挑んで、それを成功させた男ほど、幸福な存在はいないでしょう。本当に、同じ男として、心から羨ましく思いました。しかし、「勝者には何もやるな」という言葉がありますが、人生の大一番に勝利を収めたへイエルダールに思いもかけない運命が待っていました。

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映画館で購入した『コン・ティキ号探検記』の文庫本


 冒険が成功したら開封するように言われて渡された妻の手紙に「成功、おめでとう」という言葉の後に、「でも、わたしたち家族はあなたを待つことはできません。さようなら」と離婚の宣告が書かれていたのです。
 たしかに冒険家の妻は大変でしょう。子どもたちも可哀想でしょう。
 しかし、わたしはへイエルダールの妻は偉いと思いました。
 なぜなら、コン・ティキ号の冒険が成功したということは、その後のへイエルダールの人生には名誉と冨がついてまわることは明らかだったからです。

 実際、へイエルダールは『コン・ティキ号探検記』を書いて、世界で5000万部の超ベストセラーになり、膨大な印税が入ってきました。また、彼らの冒険を記録した映画はアカデミー賞ドキュメンタリー賞を受賞しています。それにもかかわらず、人生観の違いを悟って毅然と離婚を決意した妻は凄い女性だと思うのです。その意味で、家庭人としてもいろいろと考えさせられた映画でした。

 最後に、太平洋横断航海ということで、先月、ニュースキャスター辛坊治郎氏がヨット遭難事故を起こしたことを思い出しました。
 あらゆる意味で計画性のない行動であり、某TV局のチャリテイー特番のための企画ではないかなどと言われていました。ある意味、コン・ティキ号よりも無謀な挑戦だったかもしれませんが、現在の最新のヨットでさえ困難な太平洋横断を66年も前も、しかも古代のいかだを使って成功させた男たちがいたという事実に、わたしは「やっぱり、すげえなあ・・・」とつぶやいてしまいました。

  • 販売元:松竹
  • 発売日:2014/04/09
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