No.0127
映画「グランド・イリュージョン」を観ました。マジックを駆使して大金を強奪する4人のマジシャンの物語で、非常にスリリングで面白かったです。わたしは「マジック」をテーマにした映画が大好きなので、この「グランド・イリュージョン」の公開を随分前から楽しみにしていました。
一流マジシャンとして知られるアトラスは、「フォー・ホースメン」というスーパーイリュージョニストグループを結成し、そのリーダーを務めていました。彼らはラスベガスでのマジックショーにおいて、パリの銀行から大金を奪うという離れ業を見せ、世間の注目を一身に浴びます。次の大金強奪計画の実行をめざす彼らの前には、ニューヨーク市警、FBI、さらにはインターポールまでが立ちはだかります。捜査陣の中心人物であるFBI特別捜査官のディランはフォー・ホースメンを追い詰めようとするのですが、逆に何度も失態を晒してしまうのでした。監督は、「トランスポーター」シリーズを手掛けたフランスの鬼才ルイ・ルテリエ。アトラスを「ソーシャル・ネットワーク」のジェシー・アイゼンバーグが、FBI捜査官ディランを「キッズ・オールライト」のマーク・ラファロが演じています。
この映画のストーリーは、意外性に満ちた予測不能の物語です。
また、古代エジプトの「ホルスの目」を信仰し、魔術の復活を企む"アイ"という秘密結社の存在も見え隠れして、オカルトの香りもします。
ただ、ちょっと欲張り過ぎというか、ネタを入れ込み過ぎて、観ている方が混乱してしまう部分がありました。それと、ネタバレにならないようにしますが、正直言ってオチが「ちょっと・・・」と、わたしは思いました。
ストーリーよりも、この映画の魅力は、華麗なイリュージョンのシーンに尽きると思います。映画の冒頭から、美女の水中脱出のマジックが登場しますが、いきなりハラハラドキドキさせられました。ラスベガスにいた人物が瞬間移動でパリの銀行で大金を強奪するというマジックも刺激的で、とても惹きつけられました。
この映画には数々のマジックが登場しますが、希代のイリュージョニストとして知られるデヴィッド・カッパーフィールドが協力して製作されたそうです。
カッパーフィールドは、近代魔術の祖とされるハリー・フーディーニ以来の「消失魔術の天才」とされた人で、「空港中央におけるジェット機消失」や「ニューヨークの自由の女神消失」などのスケールの大きなイリュージョンで有名になりました。日本のテレビでも、よく彼の特番が放映されたものです。
わたしは、かつて『遊びの神話』(PHP文庫)で「マジック」という一章を設け、そこでデヴィッド・カッパーフィールドに触れました。「マジック」の章の冒頭には、個人的なマジックとの出合いが次のように書かれています。
「ぼくが子供の頃、インド大魔術団の一行が小倉に来て、実家のホテルに泊まったことがあった。ぼくは彼らがつくったカレーを一緒に手づかみで食べるくらいに親しくなり、団長をはじめみんなから結構可愛がられた。ある日、小倉市民会館で行なわれた彼らのショーに招待され、そこで生れて初めてマジックというものを観た。ショックだった。美女が箱に入れられて電動ノコギリで切断されるところなんか、本当にはらわたが飛び出てくると思ってイスの下に隠れたおぼえがある。ラストでぼくと仲良しの団長は手錠をかけられたまま水槽の中に閉じ込められ、さらにその上からカギをかけられて、鉄の鎖をグルグルとまかれた。その直後に客席の後ろの方で歓声がするのでふり向くと、水槽の中にいるはずの団長がニコニコして立っているではないか。ぼくはすっかりシビレてしまい、それ以来マジックのファンとなった」
マジシャンを描いた映画では、名作「プレステージ」が思い浮かびます。
2006年に公開されたクリストファー・ノーラン監督の作品です。
わたしは、原作であるクリストファー・プリーストの『奇術師』(創元推理文庫)をもともと読んでいました。非常に面白い小説で、お気に入りでした。
19世紀のロンドンを舞台に、過去の因縁によって互いに競い合う2人のマジシャンの物語です。瞬間移動マジックと水中脱出マジックが物語の重要なカギとなり、映画化作品もなかなか良く出来ていました。
第79回アカデミー賞では撮影賞と美術賞にノミネートされました。
しかし、マジシャンを描いた映画の最高傑作は「幻影師アイゼンハイム」でしょう。原題は、「The Illusionist」といいます。
19世紀末のウィーンの妖しいムードが良く描けていました。
なんといっても、心霊ショーの描写が素晴らしかったです。マジックの魅力は、最初からトリックとして楽しむことではありません。やはり、「もしかして本物の魔術?」「これは正真正銘の超能力では?」「いや、霊の仕業かも?」などと、あくまでも超常現象としてのイメージを観客に与えるところに醍醐味があります。霊感商法や詐欺にもつながりかねないマジックの危うい部分を「幻影師アイゼンハイム」はじつに見事に描いていました。
その意味で、「グランド・イリュージョン」が古代エジプトの魔術を持ち出したことは間違っていなかったと思いますが、とにかく描き方が中途半端で、わたしのようなオカルトにうるさい輩には完全に消化不良でした。
でも、あまりにも物足りない終り方からすると、この「グランド・イリュージョン」は続編が作られるかもしれませんね。わたしには、そんな予感がします。