No.0128


 東京に来ています。わたしのブログ記事「『慈経』を訳す」に書いたように、わたしは今、上座部仏教の根本経典である「慈経」の自由訳に取り組んでいます。その件で三五館を訪れ、『自由訳 慈経』の出版について、「出版界の丹下段平」こと星山佳須也社長、「出版界の青年将校」こと中野長武さんと綿密な打ち合わせをしました。自分で言うのも何ですが、非常にユニークな本ができると思います。

 ブッダの「慈」の心は、人間だけでなく、あらゆる生きとし生けるものへの思いやりを秘めていますが、それにふさわしい映画を観ました。話題のインド映画「マッキー」です。ハエに生まれ変わった男が、愛する彼女を守るため、自分を殺したマフィアに立ち向かうという奇想天外な作品です。
 「マッキー」とは、インド語でそのまま「ハエ」という意味ですね。

 映画の公式サイトの「Introduction」には、次のように書かれています。


「あの『ロボット』以上に奇想天外な映画がついに日本上陸!
 ハエがヒーローという誰も考えつかなかった設定のコミカルかつダイナミック、そして爆笑&号泣のアクションコメディがこの映画『マッキー』だ。映画『ロボット』をしのぐ2243カットものVFXでCGのハエと生身の人間との戦いが見事に実現」

 どうやら「マッキー」は、「ロボット」という映画を意識して作られたようです。
 わたしは「ロボット」を観ていませんが、なかなか面白そうですね。
 それにしても、最近のインド映画ブームには凄まじいものがあります。

 「Introduction」は、さらに次のように続きます。


「スーパースター、ラジ二カーントは『今まで悪役といえば私だと思っていたけど、今回は負けたね。面白い』。また、キング・オブ・ボリウッドことシャー・ルク・カーンは映画を観た後すぐに『素晴らしい。独創的なアイデアが面白いから、絶対子供と見るべき』と、ツイート。『きっと、うまくいく』のラジクマール・ヒラニ監督は『映画の最初から最後までずっと楽しかった』など各方面で高く評価されている。
 ピクサーのアニメーションを彷彿とさせる明るくてお調子者のハエが、愛する彼女を守るため、そして自分を殺したマフィアまがいの悪徳実業家と必死で戦う様子には、誰もが拍手を送りたくなる! そしてきっとマッキーを好きになる!」

 また、公式サイトの「Story」には、次のように書かれています。


「建設会社の社長スディープ(スディープ)は、気に入らない奴は殺すという手口で大金を荒稼ぎする強欲な野心家。しかもセクシーなチョイ悪オーラで女性を次々とモノにする無類の女好き。
一方、お調子者の貧乏青年ジャニ(ナーニ)は、向かいの家に住んでいる美人のビンドゥ(サマンサ・ルス・ブラブ)に2年前から片想い中。ジャニはあの手この手でアピールを続けているが、会話すらろくにしてもらえない。しかし、ビンドゥも内心ではジャニのことを想っていた。
 ある日、ビンドゥは建設会社の社長スディーブと出会う。
 ひと目でビンドゥの美しさに魅了されたスディープだったが、ビンドゥがジャニに惹かれていて自分のことなどまるで目に入っていないことに気づく。
 逆恨みを買ってしまったジャニはスディーブに誘拐され、殺されてしまう・・・。
 ところが、不思議な力によって死んだはずのジャニの魂はなんと一匹のハエに生まれ変わった! ハエになったジャニは愛するビンドゥを守るため、憎きスディーブに復讐するため、小さな体で人間との戦いに挑む!
 果たしてちっぽけなハエの愛は極悪人に打ち勝つことができるのか?」

 正直言って、わたしは初め、「ハエが人間に復讐する話かよ・・・」と馬鹿にするというか、この映画を甘く考えていました。しかし、観終って、自分の不見識をいたく反省。人間以外の生物への転生という発想そのものが仏教あるいはヒンドゥー教の世界観にのっとったものでありインド的であるといえますが、この奇想天外な映画は「人間とは何か」「生命とは何か」「因果応報とは」といった問題について考えさせる優れた宗教映画となっています。

 ハエに転生したジャニが、自らの正体を愛するビンドゥにどう伝えるのか。
 映画が開始されてしばらくの間、わたしはそのことが非常に気になっていましたが、ジャニはある思わぬ方法でビンドゥに意思を伝えることに成功します。
 ビンドゥがハエの前世がジャニだと気づいた瞬間は感動ものでした。
 それは、「ゴースト/ニューヨークの幻」で幽霊になった青年が恋人に自分の存在を知らせた感動のシーンを連想させる名場面でした。

 また、ビンドゥを演じたインド人女優サマンサ・ルス・ブラブが本当に美しくて、見とれてしまいました。現在のハリウッド女優の誰よりも整った顔立ちで、これはもう世界一の美女ではないでしょうか。それくらい、スクリーンでの彼女は言葉にできないほどの魅力を放っていました。

 5日には火星探査船の打ち上げにも成功しましたが、インドはなかなか勢いづいています。ここのところインド映画がブームで、わたしも何本か観てきましたが、この「マッキー」は最高傑作の1つではないかと思います。ハエに転生するというアイデアも盲点ですが、よく考えてみれば、犬や猫が人間に復讐するよりもハエの復讐のほうがずっと成功率が高いでしょう。小さいものは無力だと思われがちですが、じつは小さいものほど厄介なものはありません。

 ハエになったジャニは、さまざまなアイデアでトレーニングし、知恵を巡らせて憎き敵と戦います。そのさまが笑いと感動を誘うわけですが、わたしは企業間の戦いにおいても通用するテーマだなと思いました。
 「山椒は小粒でもピリリと辛い」。くれぐれも、小さなものを侮ってはなりません。

  • 販売元:KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日:2014/03/28
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