No.0126


 映画「トランス」を観ました。「スラムドッグ$ミリオネア」でアカデミー賞監督賞を受賞したダニー・ボイル監督が、「トレインスポッティング」の脚本家ジョン・ホッジとタッグを組んだサスペンスです。ボイルは、ロンドン・オリンピック開会式の総監督を務めたことでよく知られていますが、「ザ・ビーチ」「28日後・・・」「サンシャイン2057」「127時間」などの問題作もあります。

 ゴヤの名画「魔女たちの飛翔」をめぐる奇妙な物語です。
 アート競売人のサイモンはギャング一味と協力し、ロンドンのオークション会場から40億円の値がついたゴヤの「魔女の飛翔」を盗み出すことに成功します。しかし、当初の計画にはなかった動きを見せたため、サイモンはギャングのリーダーに暴行され、頭を打って気を失ってしまいます。
 それが原因でサイモンは絵画の隠し場所の記憶をなくしてしまうのですが、ギャングたちは許しません。リーダーはサイモンから絵画のありかを聞き出すため、美しい女性催眠療法士エリザベス・ラムを雇います。
 ここから先は思いもよらない展開が待っているのですが、ネタバレになるため書けません。本当に、この映画に関しては「なんも書けない」といった感じです。

 これまでのボイルの映画は、魔術的ともいえる独特の手法で、映像と音楽を融合してきました。その結果、観客は陶酔状態に導かれましたが、その傾向は「トランス」においてさらに進んだ気がします。特に今回は絵画的な印象でした。
 映画評論家の牛津厚信氏も、「映画com.」で次のように述べています。


「これまでのボイル作品と同様、陶酔感溢れる演出で紡がれる本作は、ボイルが『127時間』で挑んだ内面世界への冒険を推し進め、人間の深層心理をまた別の角度から炙り出す。その手腕の鮮やかさ。作中にはゴヤやベーコンを彷彿させる凶暴性や裸婦像を思わせるエロティシズムさえ立ちこめ、さらには鮮烈な色彩のタッチが観客の脳裏に本能的な警戒心を発動させてやまない」 

 主演のサイモンを「つぐない」などのジェームズ・マカヴォイ、ギャングのリーダーを「ブラック・スワン」などのヴァンサン・カッセル、エリザベスを「アンストッパブル」などのロザリオ・ドーソンが演じています。いずれもなかなかの名演技でしたが、特にヴァンサン・カッセルの演技がわたしの印象に残りました。
 わたしのブログ記事「危険なメソッド」で紹介した映画を最近観ましたが、その作品にもカッセルが出演していたのです。「危険なメソッド」では、フロイト、ユングに次ぐ第三の精神分析医であるオットー・グロスの役でした。この「トランス」も催眠療法をテーマにしているわけですから、「危険なメソッド」的な内容であると言えます。
カッセルの代表作ともなった「ブラック・スワン」も精神分析的なテーマの作品でしたね。どうやら、彼は潜在意識をテーマにした映画がお似合いのようです。

 さらに、ヴァンサン・カッセルは「マンク~破戒僧~」という問題作にも主演。
 この作品は、マシュー・グレゴリー・ルイスのゴシック小説の古典『マンク』を映画化したものです。『マンク』には、禁欲生活から情欲の世界へと身を落とし悪魔に魂を差し出した破戒僧の姿を描かれており、160年もの長きにわたって禁書となっていました。その禁断の小説を映画化した「マンク~破戒僧~」で、カッセルは残虐で背徳的な僧を見事に演じていました。
 けっしてハンサムではないが、クセのある役をやらせたらピカイチ。
 日本でいえば、國村隼や大杉蓮のような存在でしょうか。
 いや、香川照之をイメージしたほうがふさわしいかもしれません。
 とにかく、ヴァンサン・カッセルの存在感がわたしの脳裏に焼きつきました。
 いま、一番気になる俳優の1人だと言えるかもしれません。

  • 販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日:2014/02/05
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