No.0135


 映画「キャプテン・フィリップス」を観ました。2009年のソマリア海域人質事件をテーマにした緊迫感あふれるドラマです。「出版寅さん」こと内海準二さんと打ち合わせをした夜、一緒に有楽町マリオンの「丸の内ピカデリー1」で観賞したのです。なぜか劇場は高齢者のお客さんでいっぱいでした。

 この映画、早くもアカデミー賞最有力候補作品とされています。
 またハリウッド映画には珍しく、ネットでの評価も非常に高いです。
 映画公式HPの「作品情報」には、以下のように書かれています。


「この船長の『勇気』を--あなたは知っていますか?
 乗組員を救った感動実話が完全映画化
 2009年4月。アメリカのコンテナ船マースク・アラバマ号は、援助物資5000トン以上の食糧を積んでケニアに向かうべくインド洋を航行していた。リチャード・フィリップス船長と20人の乗組員にとっていつもと変わらない旅だった。だが、ソマリア沖に入った時、事態は思わぬ方向へ暗転する。アラバマ号が海賊に襲われ、占拠されてしまったのだ。
 フィリップス船長は乗組員を救う為、身代わりとなり、海賊の人質になるという勇気ある決断をする。ソマリア海賊たちとの命がけの息詰まる駆け引きが続く中、アメリカも国家の威信を賭けた闘いに直面する。海軍特殊部隊ネイビー・シールズを出動させた作戦は、人質救出か? それとも海賊共々殲滅か? 生死を懸けた緊迫の4日間、彼を支えるものは「生きて、愛する家族のもとへ還る-」という願いだけだった―。主演のフィリップス船長を演じるのは、『フォレスト・ガンプ 一期一会』『アポロ13』『プライベート・ライアン』と常に観る者に大きな感動を与えてくれるトム・ハンクス。監禁される人質の恐怖と、それでもなお船長としての誇りを失わない男の威厳の間で揺れる心情をリアルに演じ、早くもアカデミー賞候補と思わせる新境地を見せている」

 原作は、実際の船長リチャード・フィリップスとステファン・タルティによるノンフィクション『キャプテンの責務(英語版)』です。この本を「ボーン」シリーズや「ユナイテッド93」などのポール・グリーングラス監督が映画化しました。
 たしかに、緊張感に満ちた実録ドラマではありました。ハリウッドのファンタジー的な海賊でない「本物の海賊」の描写、死を覚悟した船長の悲壮感を見事に表現したトム・ハンクスの熱演、リアルで迫力ある救出劇も見ごたえ満点でした。

 ただ、観終わって、心に残るものは正直あまりありませんでした。
 アメリカのコンテナ船がシージャックされて船長が人質にとられ、それをアメリカ海軍が救出に行った。すでに結末を観客が知っている事件をそのまま映画化しただけのような気がしました。要するに、人間ドラマに欠けているのです。
 原作では、フィリップスと妻のやり取りがたくさん出てきたそうです。
 しかし、ポール・グリーングラス監督は、それらの夫婦間のエピソードをカットし、ひたすら「海上で何が起きたか」に焦点を当てた脚本を仕上げたのです。
 しかし、「海上で何が起きたか」では、ウィークエンダー(なつかしい!)の再現フィルムと変わりがありません。やはり、ここはフィリップス夫妻のヒューマン・ドラマに光を当てるべきだったのでは?

 また、この映画、つまるところ「アメリカ万歳!」「アメリカに逆らう奴は生かしちゃおかねえ」「やっぱり、アメリカこそ世界最強」といったメッセージが強く感じられ、アメリカ人の愛国心がプンプン匂ってきます。そのへんが「早くもアカデミー賞候補」の最大の理由である気がします。おそらく、アメリカ国内の劇場では船長救出にネイビー・シールズが到着した場面などで歓声が湧き起こったのでは? 
 そのへんが、日本人のわたしとしては正直言って違和感があります。
その意味で、この映画はトム・ハンクス主演の「プライベート・ライアン」の系譜に連なる作品であると思います。あの作品もアメリカの愛国映画でしたから。

 本当は、この「キャプテン・フィリップス」を観る前は、「アポロ13」や「キャスト・アウェイ」といったトム・ハンクスが出演した名作と似た内容をイメージしていました。つまり、極限状態に置かれた人間の知恵を描いた感動の物語です。でも、「キャプテン・フィリップス」は「プライベート・ライアン」によく似ていました。
 わたしは、この映画を観て、それほど感動はできませんでした。
 また、実際のフィリップス船長が英雄だとも思いません。
 真の海の英雄とは、大日本帝国軍人で、最後は海軍大尉であった第六潜水艇の佐久間勉艇長のような人物ではないでしょうか。

 ただし、フィリップス船長は英雄でないとしても、映画に登場するネイビー・シールズはある意味で魅力的でした。アクション映画として観るなら、最高にカッコいい連中でした。グリーングラス監督は、「海上での射撃は、本物に勝るものはない」として、元シールズ隊員を10人もスナイパー役として確保したそうです。本物のトレーニングを経ている彼らの演技はリアリティに満ちていました。
 また、ラストシーンで、フィリップス船長を手当てする看護師長も実際の海軍衛生兵だそうですが、彼女の演技もリアリティ満点でしたね。

 もちろん、主演のトム・ハンクスの演技も素晴らしいものでした。
 看護を受けながら号泣するラストシーンなど、鬼気迫るものがありました。
 彼は、リチャード・フィリップス船長を演じるに当たって、実際に3回もフィリップス船長本人に会ったそうです。そして、海上勤務の様子はもちろん、それ以外の日常についても細かく質問をして役作りを行ったといいます。

 トム・ハンクスはソマリア人海賊について、「彼らの背景には腐敗した貧しい国があり絶望的で希望がない状況で、非常に複雑な背景をもっている」と話したそうです。そして、「彼らの悪事を許すわけでないが、複雑な背景を描くことに意義がある」と語ったとか。グリーングラス監督も「最も危険なことは、生きる目的のない若者に銃を与えることだ」とコメントしていますが、このへんをもっと深く掘り下げれば、日本人をはじめとしたアメリカ人以外の国民の共感も広く得られる作品となったのではないでしょうか。わたしには、そんな気がします。

 この映画の次にトム・ハンクスが主演した作品は「ウォルト・ディズニーの約束」で、彼はなんとウォルト・ディズニーを演じました。名作映画「メアリー・ポピンズ」の誕生秘話を映画化したそうですが、それにしてもディズニーを演じるとは! 
 映画の予告編などを見る限り、トム・ハンクスのチョビ髭をたくわえた顔はディズニーというよりもヒトラーに似ている気もしますが(苦笑)、アメリカ合衆国の国民的俳優ここにきわまれり、といった感じですね。

 最後に、日本人のわたしが今観たい映画は「利休にたずねよ」と「武士の献立」です。もちろん、大ベストセラーを映画化した「永遠の0」も観なければ!
 松たか子主演で山田洋二監督作品の「小さいおうち」も面白そう!
 日本映画ではありませんが、宇宙空間の孤独を描いた「ゼロ・グラビティ」も気になる! この年末・年始は観たい映画が多くて悩ましいですね。

  • 販売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • 発売日:2014/03/21
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