No.0146


 映画「LIFE!」を観ました。
 アメリカでは、昨年の12月25日に公開されています。
 今年の3月19日に公開された日本は全世界で最も遅い公開となりました。

 原題は「The Secret Life of Walter Mitty」で、いわゆるヒューマン・ドラマですが、「叙事詩的コメディドラマファンタジー映画」などとも評されています。「メリーに首ったけ」や「ナイト・ミュージアム」のベン・スティラーが主演し、自ら監督も務めています。1947年に公開されたダニー・ケイ主演の「虹を掴む男」のリメイク作品ですが、もともとは1939年に発表されたジェームズ・サーバーの短編小説「虹をつかむ男」が原作です。

 雑誌「LIFE」の写真管理部で働く中年男性ウォルター・ミティ(ベン・スティラー)は、同僚のバツイチ女性シェリル・メルホフ(クリステン・ウィグ)にほのかな恋心を抱いています。でも、内気なウォルターはシェリルと満足に会話もできません。凡庸そのものである彼の唯一の特技は妄想することでした。世のデジタル化の波に流された「LIFE」は廃刊が決定します。その最終号の表紙に使用する写真のネガが見当たらないことに気づいたウォルターはカメラマンのショーン・オコンネル(ショーン・ペン)を捜す旅へ出ます。ウォルターは、ニューヨークからグリーンランド、アイスランド、ヒマラヤへと奇想天外な旅を続けます。いつしか彼自身の人生は大きな転機を迎えるのでした。

 この映画、けっこう楽しみにしていたのですが、正直言って、想像していたほどは面白いと感じませんでした。「壮大なビジュアル」とか「主人公のたどる奇跡のような旅と人生」に感動する人も多いようですが、わたしにはピンとこないというか、ストーリーが御都合主義的に感じてしまいました。「LIFE」最終号が発売され、幻のフィルムの全貌が明らかになるラストシーンも、まったく感動しませんでした。予告編を観たときはトム・ハンクスの「フォレスト・ガンプ」のような映画をイメージしていたのですが、実際は違いましたね。

 日本が全世界で最も遅い公開国となったことに象徴されるように、この映画はあまり日本人向けではないのかもしれません。というのも、この映画の本当の主人公は「LIFE」という雑誌だからです。「世界を見よう、危険でも立ち向かおう。それが人生の目的だから」というスローガンを掲げる伝説のフォトグラフ雑誌「LIFE」は、ある意味で、良き時代のアメリカそのもののシンボルでした。

 「LIFE」誌は1936年11月23日に週刊誌として創刊されました。創刊号は32ページで9000部が発行されたそうです。創立者はヘンリー・ルースで、編集長はクルト・コルフでした。創刊号の表紙は、写真家マーガレット・バーク=ホワイトの撮影したミズーリ川流域の「フォートペックダム」の写真でした。最盛期は1967年から70年にかけてで、850万部を発行しました。しかし、すでにその頃はテレビが普及し始め、経営は悪化していました。結果、1972年12月29日に通産1862号で休刊します。その後も、年2回刊行誌、月刊誌、無料週刊誌と、さまざまに形を変えていきましたが、最終的に2007年に休刊されました。そのとき、以後はWEB上で同誌の保有する写真約1000万点を閲覧できるようにするサービスなどが同時に発表されました。2008年11月18日、Googleのイメージ検索で同誌の写真アーカイブの検索が可能になっています。

 雑誌「LIFE」は、いわゆる「フォトジャーナリズム」を確立しました。これは文章記事よりも写真を中心に報道・言論を構成するジャーナリズムですが、この考え方そのものは「LIFE」以前にすでにドイツで試みられていました。「LIFEは、ルースではなくヒトラーが作った」と言われることがあるそうです。それは、ドイツで週刊画報を作っていたユダヤ人編集者たちがナチスの弾圧から逃れてアメリカに亡命したからです。彼らが「LIFE」誌の原案を手掛けたのです。「LIFE」誌のやり方は非常に斬新でユニークなものでした。すなわち、カメラマンをスタッフという専属的な所属としたばかりか、撮影から記事・レイアウト等の編集のスタイルを一貫させたのでした。こうして、画期的な「フォト・エッセイ」と称するジャンルが誕生したのです。「LIFE」誌の黄金期は第二次世界大戦前から戦後復興期、テレビの本格普及前まででした。「LIFE」誌はまさに、アメリカの思想・政治・外交を世界に魅力的に伝える媒体だったのです。

 さて「LIFE」誌といえば、「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」という特集記事が有名です。1000年間の重要人物ランキングともいうべき内容で、1位のトーマス・エジソン(アメリカ)以下、クリストファー・コロンブス(イタリア)、マルティン・ルター(ドイツ)、ガリレオ・ガリレイ(イタリア)、レオナルド・ダ・ヴィンチ(イタリア)、アイザック・ニュートン(イギリス)、フェルディナンド・マゼラン(ポルトガル)、ルイ・パスツール(フランス)、チャールズ・ダーウィン(イギリス)、トーマス・ジェファーソン(アメリカ)、ウィリアム・シェイクスピア(イギリス)、ナポレオン・ボナパルト(フランス)、アドルフ・ヒットラー(ドイツ)(オーストリア)といった具合に、世界史の有名人たちがズラリと名前を並べています。

 78位にはパブロ・ピカソ(スペイン)、85位にはヘレン・ケラー(アメリカ)、90位にはウォルト・ディズニーがランクインしており興味深いことこの上ないですが、わたしは日本人が86位の北斎ただ1人であると知って複雑な思いになったことを記憶しています。ちなみに100人の中でアメリカ人は22人。アメリカの歴史の浅さを考えると、いかにこのランキングがアメリカ的であるかがよく理解できます。やはり、「LIFE」誌はアメリカ人のための雑誌だったのです。

 あまりピンとこない映画ではありましたが、わたしが感銘を受けた場面が1つだけありました。ついにはヒマラヤの雪山で写真家ショーンと出会うのですが、ショーンはユキヒョウを撮影に来ていました。ところが実際にユキヒョウが現れたとき、ショーンはただ豹を見つめるだけでカメラのシャッターを切りません。
 「どうして写さないの?」と訊ねるウォルターに対して、ショーンは「本当に大切な光景はカメラに邪魔されたくない。この目で見ていたいんだ」と答えるのです。この言葉にはジーンときましたね。

 じつは、このショーンの言葉はわたしの従来の考えとも一致します。
 ブログを書いていることもあり、わたしは常にデジカメを携帯しています。でも、本当に大切な場面は撮影しないことがほとんどです。
 子どもの運動会のときなど、親たちがカメラのファインダー越しにしかわが子の活躍を見ていない現実に違和感をおぼえることが多々あります。
 本当に大切なものはカメラで撮影しない。そして、本当に大切なことはブログには書かない。これは、わたしの信条なのです。

  • 販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日:2015/07/03
PREV
HOME
NEXT