シネプレックス小倉で公開されたばかりの新作映画を観ました。「オール・ユー・ニード・イズ・キル」です。

 「一条真也の読書館」で紹介した『トム・クルーズ』で書いたように、わたしは1歳年長のトム・クルーズのファンなのですが、そのルックスや卓越した演技力だけでなく、彼の「学び」を大切にした人生観を深くリスペクトしています。

 「オール・ユー・ニード・イズ・キル」は、そのトム・クルーズの待望の最新主演作で、原作は桜坂洋氏のライトノベルです。日本人作家の作品をトムが映画化する時代になったのですね。なんともいえない感慨があります。

 6月26日、トム・クルーズは「オール・ユー・ニード・イズ・キル」の日本公開を前に来日しました。20回目の来日ですが、今回はなんと大阪、福岡、東京の3都市を1日で回るという弾丸ツアーでした。これは、彼が超多忙な人気スターということもありますが、この映画のテーマでもある同じ日に同じ体験が繰り返される「タイムループ」にちなんだものだそうです。トム・クルーズ自身が発案者で、すでに5月28日にはロンドン、パリ、ニューヨークを24時間で移動する3都市ループのワールドプレミアを実施しています。日本のみで1日で3都市ループツアーが実現するわけですが、これは映画の原作者が日本人であることも含めたリスペクトからだとか。

 ジャパンプレミアの先陣をきった大阪では、トム・クル-ズは船に乗って道頓堀とんぼりリバーウォークを"クルーズ"しました。大阪ならではのダジャレを込めて登場したわけですが、日本語で「マイドオオキニ!」と叫ぶなど、サービス精神満点です。次にトムが初めて訪れる福岡にチャーター便で移動し、JR博多シティ駅前広場でファンミーティングを行いました。その後、福岡ではT・ジョイ博多での舞台挨拶も行っています。最後は東京でのプレミアイベントです。六本木ヒルズ・アリーナで、ファンとの交流を盛大に行いました。総距離1368キロを移動したトムは疲れを見せず「アイ・ラブ・トーキョー」と笑顔で語り、「アリガトウ」と日本語で挨拶しました。

 大阪→福岡→東京を1日でめぐる超ハード・スケジュールのため、移動中はさぞグロッキー気味なのではと思いますが、とんでもない! なんと、トムは日本のマスコミ取材陣をチャーター便に同乗させて、1人づつ挨拶するばかりか、一緒に記念撮影(しかも、トム専属のカメラマンの撮影で)したというから驚きです。ファンに対しても、マスコミに対しても、ここまで気を遣う人は他にいないでしょう。この事実を知って、ますます彼へのリスペクトが強まったことは言うまでもありません。まさに、トム・クルーズという世界一の人気俳優は世界一のホスピタリティ・マインドの持ち主でもあります。

 さて、肝心の映画についてです。
 映画公式サイトの「ABOUT THE FILM」には、「日本原作、トム・クルーズ主演!」「最強の敵から世界を救うのは―死んだ数だけ、強くなる男」として、以下のように書かれています。


「遂に日本の小説が!
 世界レベルで映画公開!
 日本のカルチャーに多大な影響を受けた海外作品が続出、
 今や全世界のフィルムメイカーが日本に注目する中、
 遂に日本の小説が、超大作として映画化、世界公開される!
 原作は、桜坂洋の傑作SF小説。主演はトム・クルーズ、監督は『ボーン・アイデンティティー』のダグ・ライマン。
 この夏必見のアクション・エンターテイメント超大作
 『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が新時代を築く!
 謎の侵略者からの攻撃で滅亡寸前の世界。
 同じ日を無限に繰り返す"時のループ"に巻き込まれた
 戦闘スキルゼロの兵士ケイジ。
 彼をトレーニングする、最強の女性兵士リタ。
 世界の運命は、この二人にかかっている―!」

 日本公開を前にして、すでに全世界興行収入が2億4000万ドルを突破しているSF超大作だけあって、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」は非常に面白かったです。わたしは3D版を観たのですが、観始めたと思ったら、もう終わっていたという感じでした。まさに「タイムループ」したような感覚にとらわれました。この「タイムループ」というテーマ、SF小説やSF映画、さらにはSFマンガなどで数え切れないほど描かれていますが、じつは矛盾なく描くのは至難の業です。日本が誇るSFマンガ「ドラえもん」をはじめ、多くの作品に"つじつまの合わない"タイムループが散見されます。
 「オール・ユー・ニード・イズ・キル」を観て、「?」と思った突っ込み所は正直ありますが、そんな無粋なことを書く気は毛頭ありません。些末な点など無視していいくらい、この映画はエンターテインメントとして優れています。

 この映画を観て、わたしが最初に思ったのは、「宇宙戦争」の現代版だということです。トム・クルーズはスティーヴン・スピルバーグが監督した「宇宙戦争」(2005年)に主演していますが、あの作品の原作はH・G・ウェルズの古典SF小説でした。「宇宙戦争」と同じく、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」も地球を侵略しようと企むエイリアンと人類との戦いを描いています。しかも、エイリアンの造形まで似ています。これは、まるで「宇宙戦争」へのオマージュではないかとさえ思えます。

 この作品では、戦闘シーンが延々と登場します。
 わたしは基本的に戦闘シーンというものはあまり好きではないのですが、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」だけは例外でした。なんというか、ほとんどロボットのような恰好でエイリアンと戦うという近未来の設定であるにもかかわらず、まるで太平洋戦争の映画を観ているようなリアル感があるのです。それはおそらく、この映画の目玉の1つになっている機動スーツのデザインにも起因しているのでしょう。この起動スーツを観て、わたしは「起動戦士ガンダム」を連想しました。また迫力ある戦闘シーンからは、「AKIRA」を連想しました。この映画にはクール・ジャパンが満ちているのです。そして、兵士たちの戦い方がどことなく日本兵っぽいのです。

 「オール・ユー・ニード・イズ・キル」の戦闘シーンは、過去のSF映画の戦闘シーンと比較してもトップレベルであると思います。しかし、このような激しい戦闘を繰り返して何度も死に、何度も目覚め、また死ぬというのは、ある意味で最大級の「地獄」です。仏教で最悪の地獄は「無間地獄」ですが、この映画にはそれ以上の地獄が登場するのです。
 それにしても、トム・クルーズ扮する主人公ケイジが戦争の素人だったとはいえ、戦地に立つたびにすぐ死ぬのを観て、わたしは「これが戦争の現実かもしれない」と思いました。実際の激しい戦闘では、何十分も何時間も戦闘を繰り返すということはなく、つねに秒殺の連続なのでしょう。

 何度もゲームオーヴァーになり、何度も死んで、何度も目覚める。そして、何度も初めからやり直す・・・・・・この気の遠くなるような営みは一見、「輪廻」のメタファーのように思えます。数え切れないほどの膨大な時間(実際はタイムループするので、時間は経過していない)を費やす場面からは仏教の世界観さえ感じます。しかしながら、主人公の意識や記憶はそのままで他の存在に生まれ変わるわけではないわけですから「輪廻」とは違うでしょう。それよりも、わたしは「学習」のメタファーであると思いました。

 何度も間違えて、何度も学習して、少しづつ技術を身につけ、少しづつ失敗しなくなる・・・・・・この映画の主人公も目覚めるたびに強い戦士へと成長しています。その姿は難読症という学習障害を抱えながらも、周囲の人間の話を何度もよく聴くことでそれを乗り越えてきた「学びの達人」であるトム・クルーズ自身の人生を彷彿とさせます。そして、「次がある」「失敗しても最初からやり直せる」と思ってるうちは、やはり失敗してしまうもの。「もう後がない」「絶対に失敗できない」という背水の陣に立ってこそ、人は志を果たすことができる。この映画から、そういったメッセージも感じました。
 それにしても、この映画でトム・クルーズは史上最大の「ミッション・イン・ポッシブル」に挑む男を演じましたね。

 最後に、この映画でヒロインを演じたエミリー・ブラントが魅力的でした。
 トム・クルーズ演じる臆病者のケイジと共闘する特殊部隊の女兵士リタを演じていましたが、トムに負けない存在感を放っていました。

 エミリー・ブラントは「プラダを着た悪魔」が出世作ですが、主演のメリル・ストリープ、アン・ハサウェイに次ぐ3番目の役どころでしたね。また2013年1月に日本公開された「LOOPER/ルーパー」にも出演しています。この作品は、ブルース・ウィルス主演のSFアクションで、なんと「タイムループ」の物語です。エミリー・ブラントという女優は、「タイム・ループ」と縁があるようですね。ということで、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」は期待にたがわぬ面白い映画でした。みなさんも、ぜひ御覧下さい!
 この映画は『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)で取り上げました。

  • 販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日:2015/06/03
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