レイトショーで映画「博士と彼女のセオリー」を観ました。
 「博士と彼女のセオリー」は、"車椅子の物理学者"スティーヴン・ホーキング博士の半生を描いた作品です。ブログ「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」で紹介した映画と同じく、ケンブリッジ大学の天才学者の実話に基づく物語です。しかし、「人工知能の父」と呼ばれたアラン・チューリングは42歳で自らの命を絶ちましたが、理論物理学者の立場から宇宙の起源の解明に挑み「宇宙論のスーパースター」と呼ばれたホーキングは、想像を絶するハンディを負いながらも、72歳となる現在も健在です。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

「車椅子の物理学者スティーヴン・ホーキング博士の半生を描いた人間ドラマ。将来を嘱望されながらも若くして難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した彼が、妻ジェーンの献身的な支えを得て、一緒に数々の困難に立ち向かっていくさまをつづる。監督は、第81回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作『マン・オン・ワイヤー』などのジェームズ・マーシュ。ホーキング役に『レ・ミゼラブル』などのエディ・レッドメイン、妻ジェーンを『あなたとのキスまでの距離』などのフェリシティ・ジョーンズが演じる」

 ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

「天才物理学者として将来を期待されるスティーヴン・ホーキング(エディ・レッドメイン)はケンブリッジ大学大学院に在籍中、詩について勉強していたジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)と出会い恋に落ちる。その直後、彼はALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し余命は2年だと言われてしまう。それでもスティーヴンと共に困難を乗り越え、彼を支えることを選んだジェーンは、二人で力を合わせて難病に立ち向かっていく」

 ところで、わたしは以前、『ホーキング、宇宙を語る』(早川書房)をはじめとするホーキングの著書を愛読していました。もちろん、そのすべての内容を理解することはできませんでしたが、非常にわかりやすく宇宙の秘密を解き明かしてくれる彼の説明に宇宙好きのわたしはワクワクしたものです。
 最近の宇宙学のめざましい進歩は、物理学、特に素粒子物理学の研究に必要な現象として宇宙に焦点が当てられたからです。宇宙の成立という現象が、新しい物理法則を見つけ出していく上で必要とされたのです。

 拙著『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「神化するサイエンス」の冒頭にも書きましたが、2003年、ついに宇宙の年齢がわかってしまいました。2003年2月、米国NASAの打ち上げた人工衛星WMAPは、生まれてまだ38万年しか経っていない頃の宇宙の地図を描き出しました。
 人類がいま、描くことのできる最も昔の姿であり、それを解析することによって、宇宙論研究の究極の課題だった宇宙の年齢が137億年(誤差2億年)と求められたのです。わたしが大学生の頃に「宇宙の年齢は何歳ですか?」と専門家にたずねても、「まあ、100億年か200億年ですかね」という答しか返ってきませんでした。じつに、有効数字が一桁もないような状況だったのです。それが、いまや「137億年です」という三桁の数字で答えられるようになったわけですから、本当にすごいことです。

 宇宙を一冊の古文書として見るならば、その解読作業は劇的に進行しています。それというのも、20世紀初頭に生まれた量子論と相対論という、現代物理学を支えている2本の柱が作られたからです。
 さらに、この2つの物理学の根幹をなす法則を駆使することによって、ビッグバンモデルと呼ばれる、宇宙の始まりの瞬間から現在にいたる宇宙進化の物語が読み取られてきました。

 そして、古文書としての宇宙を解読する「知のスーパースター」として登場した人物こそ、スティーヴン・ホーキングでした。彼は、一般相対性理論と関わる分野で理論的研究を前進させ、1963年(わたしが生まれた年です)にブラックホールの特異点定理を発表し世界的に名を知られました。71年には「宇宙創成直後に小さなブラックホールが多数発生する」とする理論を提唱し、74年には「ブラックホールは素粒子を放出することによってその勢力を弱め、やがて爆発により消滅する」とする理論(ホーキング放射)を発表、量子宇宙論という分野を形作ることになりました。

 彼は、現代宇宙論に多大な影響を与えてきたのです。
 ホーキングはまた、「今日の宇宙はマクロ的等方性とミクロ的異方性の絶妙のバランスの上に成り立っている」と述べました。わたしは、「神を信じない」という彼の研究がいつの日かハートピア・ゼア(霊界)の存在をも解き明かしてくれるような気がしてなりませんでした。「博士と彼女のセオリー」を観ながら、そんなことも思い出しました。

 この映画では、病魔と闘い続けるホーキングの壮絶な姿がリアルに描かれています。病気が発症する以前の元気なホーキングの姿は新鮮でしたが、病気が判明した直後に絶望する彼の姿にも胸を打たれました。ALSが進行してどんどん身体が不自由になっていくホーキングになり切ったエディ・レッドメインの役者魂には感動しました。さすがは、アカデミー主演男優賞を受賞しただけのことはあります。「家族」や「介護」の問題も考えさせられる映画でした。難病に苦しむホーキングは、人類普遍のテーマである「宇宙の始原」の謎に挑戦し、「時間」の本質を解き明かそうとします。

 それにしても、人類史上、ホーキングほど過酷なハンディと重要なミッションを同時に与えられた者もいないでしょう。映画にはアメリカでの講演のシーンが登場しますが、講演後に観客から発せられた「神を信じないそうですが、あなたの人生哲学は?」という質問に対して、ホーキングは「どんな不運に見舞われようとも、人間の可能性は無限です」と答えます。それを聴いたとき、わたしは隣に娘が座っているというのに、不覚にも落涙しました。

 世の中には、さまざま病気に苦しんでいる人がいます。
 もしかすると、心の病に悩んでいる人もいるかもしれません。
 でも、決して絶望しないで生きていれば、必ず光明は見えてきます。
 ホーキング自身、ALSを発症したときは「余命2年」と宣告されましたが、結果は何十年と生き続け、宇宙の謎を解明し続けてきました。彼は間違いなく、ニュートンやアインシュタインと並ぶ人類史上最高の科学者ですが、つねに「絶望」を拒絶し、「希望」を信じて生きてきたのです。

 最後に、彼の代表作『ホーキング、宇宙を語る』は原題を"A brief History of Time"といいました。日本語にすれば『時間小史』となります。
 そう、彼は「宇宙論」の前にまず「時間論」の研究者だったのです。 時間といえば、この映画の最後では、まるで時間が逆行していくように、ホーキングの半生が巻き戻されます。それを観て、わたしはブログ「6才のボクが、大人になるまで。」にも書いたように、映画とは時間を超越するメディア、不死のメディアなのだなと改めて思いました。この映画の中でも、ホーキングの時間に関する発言が多々紹介され、その中には「永遠」についてのものもありました。それを聴いて、わたしは現在執筆中の『永遠葬』の内容における大きなインスピレーションを与えられました。

 最近は、どんな本を読んでも、どんな映画を観ても、必ずといっていいほど執筆のヒントとなります。すべては、何か大いなるものの「はからい」のようにも思えます。もっとも、ホーキングには「その考えは物理学的ではないね」と言われそうですが・・・・・・。わたしは小倉にある自宅の書斎に戻ったら、すぐに『ホーキング、宇宙を語る』を読み返してみようと思いました。

  • 販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
  • 発売日:2016/02/03
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