有楽町マリオンで映画のレイトショーを観ました。ウディ・アレンの新作ロマンティック・コメディ「マジック・イン・ムーンライト」です。「マジック」も、「ムーンライト」も、ともにわたしの大好物ですので、これはもう観るしかありません!

 公式HPの「Introduction&Story」には、「世界中を『ブルージャスミン』で驚嘆させ、『ミッドナイト・イン・パリ』で陶酔させた、ウディ・アレン監督最新作がいよいよ登場!」「柔らかな陽射しとひとすじの月光が降り注ぐコート・ダジュールにプロヴァンス・・・コリン・ファースとエマ・ストーンを主演に贈る、とびきりのロマンティック・コメディ」として、こう書かれています。

「『ブルージャスミン』で世界的な絶賛を博し、ケイト・ブランシェットにアカデミー主演女優賞をもたらしたウディ・アレン監督の最新作は、紺碧の海と美しい庭園が広がる1920年代の南フランスを舞台にしたロマンティック・コメディ。『英国王のスピーチ』でオスカーを獲得したコリン・ファースと『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で本年度の賞レースを賑わせているエマ・ストーンを主演に迎え、他人を騙し、騙されまいとするマジシャンと、他人の心を見透かし、見透かされまいとする占い師の駆け引きがどんどんと加速していく。そんな不器用な2人に、南仏の柔らかな陽射しとひとすじの月光を降らせ、とびきり小粋なハッピー・エンディングへと誘うアレン・マジック! あらゆる観客の胸をはずませ、幸福感で満たしてくれる、まさに"魔法のような"珠玉作が誕生した」

 また「Introduction&Story」には、「マジシャンと占い師がもつれて、こじれて、瞬間移動! 2人の恋を解きほぐす"魔法とトリック"は存在するのだろうか・・・・・・!?」として、映画の「あらすじ」が書かれています。

「頭が固くて皮肉屋のイギリス人男性スタンリー(コリン・ファース)は、中国人に扮装し、華麗なイリュージョンで喝采を浴びる天才マジシャン。そんなスタンリーが友人の依頼を受け、ある大富豪が入れあげているアメリカ人占い師ソフィ(エマ・ストーン)の真偽のほどを見抜くために、コート・ダジュールの豪邸へ乗り込んでいく。 ところが実際に対面したソフィは若く美しい女性で、スタンリーに"東洋のイメージが浮かぶ"などとあっと驚く透視能力を発揮。この世に魔法や超能力なんか実在しないという人生観を根底からひっくり返されたスタンリーは、笑顔も抜群にチャーミングなソフィに魅了されてしまう。しかし素直に想いを打ち明けられない2人の行く手には、大波乱が待っていた。はたして悲観主義者のマジシャンと楽天主義者の占い師のもつれにもつれた恋を解きほぐす"魔法とトリック"は存在するのだろうか・・・・・・!?」

 さて、この映画、いきなりオープニングからマジック・ショーの場面がスクリーンいっぱいに展開されます。それも、生きたゾウを消失させるという大がかりなもので、マジック大好きなわたしを狂喜させました。
 映画パンフレットの「Productin Note」には、ウディ・アレンは初めて手品をしたティーンエイジャーの頃から、マジックに大いなる魅力を感じてきたそうです。そのためか、彼の作品の中にはマジックやマジシャンがよく登場します。「タロットカード殺人事件」では、アレン自身がマジシャンのスプレンディーニを好演しています。

 また、アレンの映画には霊能者や占い師の類もよく登場します。
 「ブロードウェイのダニー・ローズ」、「スコルピオンの恋まじない」では催眠術師、「アリス」では霊媒治療師、「恋のロンドン狂騒曲」では占い師が重要な役割を果たしています。アレンの作品には不思議なムードの人々が欠かせないようです。そして、「マジック・イン・ムーンライト」の舞台に選んだ1920年代には心霊術が大流行していました。映画パンフレットには、アレンがその時代背景について語った言葉が次のように紹介されています。

「当時はいろいろ言われていたんだ。アーサー・コナン・ドイル(シャーロック・ホームズの生みの親)のような著名人が、この問題をひどく真面目に取り扱った。心霊写真のようなあらゆる案件に人々は興味津々で、降霊術はとても一般的だったんだ」

 実際、当時の有名なマジシャンであったハリー・フーディーニは多くの降霊会に参加し、霊能者たちのイカサマを片っ端から暴いていました。「サイキック・ハンター」の異名を欲しいままにしたフーディーニは明らかに「マジック・イン・ムーンライト」の主人公スタンリーのモデルです。フーディーニと女霊媒師の物語は映画「奇術師フーディーニ~妖しき幻想~」で描かれました。
 わたしは、執筆中の『唯葬論』に「交霊論」という一章を設けています。
 本当は執筆の息抜きとして「マジック・イン・ムーンライト」を観たのですが、降霊会のシーンが非常にリアルに描かれており、『唯葬論』への大きなヒントを得ました。最近は、何を観ても、何を聴いても、シンクロニシティのように執筆中の原稿の参考になることが多いです。

 わたしは、ウディ・アレンの映画が好きで、ほとんどの作品を観ていますが、これまで観た中で一番好きなのが「ミッドナイト・イン・パリ」でした。この映画も1920年代の物語で、「ベル・エポック」と呼ぶにふさわしい新しい芸術が幕を開けた時代をファンティックに描いていました。オーウェン・ウィルソン演じるハリウッドの脚本家がタイムトリップする幻想的な映画です。スコット&ゼルダ・フィッツジェラルド夫妻やコール・ポーター、ヘミングウェイといった〝パリのアメリカ人"がアレンの理想だったのかもしれません。

 映画パンフレットでは、映画ジャーナリストの立田敦子氏が「軽やかに見えて、200%ウディ・アレン。」のタイトルで次のように書いています。

「同じく1920年代の南仏を舞台とした『マジック・イン・ムーンライト』は、『ミッドナイト・イン・パリ』の流れを継ぐ作品だ。目に見えない不可思議な出来事を人が信じ、芸術を愛していた、古き良き時代。ちなみに、舞台となっている太陽がまばゆい南仏は、フィッツジェラルドが別荘に長期滞在し『華麗なるギャツビー』を書いた場所でもある。『マジック・イン・ムーンライト』は、そんなレジェンダリーな土地を舞台にした軽やかなロマンチック・コメディだ。軽やかといっても、中身は〝虚構を巡る冒険"という200%ウディ・アレンの深淵に迫り、真実の探求の無意味さをあっけらかんと告白してしまっている辺りは、ベルイマンの影さえ感じさせるのだ」

 さて、マジックに降霊術といった、わたし好みのシーンが満載のこの「マジック・イン・ムーンライト」の中で最も好きな場面を挙げるならば、やはりスタンリーとソフィが月の魔力にかかってしまうシーンです。月が登場する前、2人は天文台の中で会話をしていました。その話題というのが「霊界」と「宇宙」についてなのです。『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「共感から心の共同体へ」にも書きましたが、人類の平和と幸福のためには、何よりも会話が必要です。そして会話には共通の話題が必要です。世界中の人々に共通する話題など存在するのでしょうか?

 哲学者の梅原猛氏は、それは「あの世」だといいます。あの世に関心のない民族はなく、仏教でどうなっているか、キリスト教でどうなっているか、イスラム教やヒンドゥー教ではどうかというのは、まさに大問題です。神について議論していたら、いろいろ信仰が対立するかもしれませんが、あの世について共通なものと、その違いを探っていくということは、おそらくあらゆる宗教の人々が対立なしに解明できることかもしれないというのです。

 理論物理学者の佐治晴夫氏は、人類共通の話題は「宇宙」であるといいます。佐治氏は「人はなぜ戦うのか」というテーマで、『利己的な遺伝子』の著者として有名なイギリスの生物学者リチャード・ドーキンスと対話しました。そのとき、争う集団と集団がなくなれば、当然、戦争は起こらず、そのためには集団間で風通しよく話し合えるための共通の価値観が必要になることに気づいたといいます。そして、佐治氏はドーキンスに対して、「そうした共通の価値観といえば、それはやはり、宇宙に対する認識だと私は思います」と言ったのです。宇宙のカラクリがはっきりわかれば、宇宙の歴史のなかで、人類がなぜ存在したのか、自分という人間がなぜ生まれてきたのかといったことに思い至ったりするわけです。そのような、いわば宇宙的な意識こそが共通認識、共通の価値観になる。単に宗教だけではだめだし、経済問題だけでもだめだし、もっと根本的なパラダイムに気づいていかなければならないと佐治氏は述べています。

 その意味で、「マジック・イン・ムーンライト」で、スタンリーとソフィが天文台の中で「霊界」と「宇宙」について語り合ったことは、まさに最も平和なテーマだったことがわかります。ここから「結婚は最高の平和」であるというわたしの信条まではあと一歩です。これ以上はネタバレになる!(苦笑)
 ところで、宇宙を最も具体的にイメージさせる対象といえば、何といっても地球から一番近い天体である月です。わたしは宇宙時代の葬送文化として「月面聖塔」や「月への送魂」を提唱し続けています。詳しくは、拙著『ロマンティック・デス~月を見よ、死を想え』(幻冬舎文庫)をお読みいただきたいと思いますが、これらは結局、月をあの世に見立てていることになります。あの世、そして宇宙が人類共通の話題になりうるなら、月をあの世に見立て、世界中の人々が月見をして会話すれば、それは世界平和を実現するための最良の方法の1つではないかと思います。
 その意味で、「マジック・イン・ムーンライト」はこの上なく平和でロマンティックな映画でした。それにしても、こんなにわたし好みの映画は久しぶりです。素敵な夢を見せてくれたウディ・アレンに感謝!

  • 販売元:KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日:2016/11/25
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