No.0188
「小倉昭和館」で日本映画「さよなら歌舞伎町」を観ました。
映画公式HPの「イントロダクション」には、「新宿 歌舞伎町のラブホテル。愛がみつからない大人たち、男と女が交錯するかけがえのない一日」「染谷将太×前田敦子×実力派俳優陣×監督:廣木隆一×脚本:荒井晴彦 旬なキャスト、一流のスタッフが紡ぐ、笑って泣ける、大人の恋愛群像ドラマ」として、以下のように書かれています。
「一流ホテルマンと周囲に偽る歌舞伎町のラブホテルの店長・徹。彼は有名ミュージシャンを目指す沙耶と同棲しているがちょっぴり倦怠期。勤め先のラブホテルでいつもの苛立つ1日を過ごすはずだった。 そこに集まる年齢も職業も違う訳アリな男と女たち。彼らの人生が鮮やかに激しく交錯した時にあらわれる欲望や寂しさ、そして秘密。徹の人生もまた予期せぬ方へ変わっていく・・・・・・。 主演、ラブホテルの店長として、さまざまな人間模様に翻弄されながらも成長していく青年・徹役には、『ヒミズ』(11)で日本人初の第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞し、若手俳優きっての実力派として『寄生獣』(14)など話題作に次々と出演する染谷将太。彼自身でしか演じきれない表情を自然体のまま好演」
また、公式HPの「イントロダクション」には次のようにも書かれています。
「ヒロイン、徹の恋人で、有名ミュージシャンを目指す沙耶を演じるのは前田敦子。『苦役列車』(12)、『もらとりあむタマ子』(13)をはじめ、日本映画有数の監督たちがこぞって起用し、トップアイドルから本格派女優としての道を歩む。本作では、ギターの弾き語りを披露し、恋に揺れる大人の表情はかつてなく美しい表情である。そして、染谷、前田に加え、時効が明日に迫った逃亡犯の二人を南果歩と松重豊。風俗スカウトマンと家出少女に忍成修吾と我妻三輪子。逢瀬を重ねる不倫刑事カップルに河井青葉と宮崎吐夢。そして、日本で暮らす韓国人の恋人同士を、キム・ギドク監督衝撃作『メビウス』(13)に出演するイ・ウンウと、人気アイドルグループ「5tion」のロイが演じている。また、大森南朋、村上淳、田口トモロヲが、彼らの人生とすれ違う男たちに扮して印象深い」
さらに、公式HPの「イントロダクション」には次のように書かれています。
「監督はメジャーからインディペンデントまで多彩な作品を手掛け、官能的な映像で男女の心の機微をすくい取ってきた廣木隆一。本作では、人生にもがく人々の姿、その希望と再生をユーモアを交え、リアルで温かく描く。脚本は日本映画を挑発する数々の名作・衝撃作を生み出し、2013年『共喰い』が話題を呼び、2014年9月に公開した『海を感じる時』(14)がヒットした荒井晴彦。日本の映画史に名を残す二人の名匠が、『ヴァイブレータ』(03)、『やわらかい生活』(05)に続き、3度目のコラボレーションを果たした。そして、音楽は映画音楽を初めて手掛けるつじあやの。
さらにmeg with SWEEPの主題歌がエンディングを彩る。
ここに登場するのは、愛を求める者、愛に裏切られた者、そして、夢を追う者、夢に破れた者たち。みんなこの街にやってきて、誰かと触れ合い、別れを経験して、新しい世界へ旅立っていく。人生うまくいかない、つまづいている、不器用で愛おしい大人たちへ捧ぐ、笑って泣ける、大人の恋愛群像劇がここに誕生した」
この映画の物語ですが、公式HPの「ストーリー」には、「朝」「昼」「夕方」「夜」に分けて、以下のように書かれています。
朝
「徹(染谷将太)と沙耶(前田敦子)は同棲中だがちょっぴり倦怠期。ミュージシャンを目指す沙耶が窓辺で弾き語りをしている。何気ない会話、じゃれ合い、それは、いつも通りの朝だった。
韓国食材店にて、ブティックの開店資金ができたので彼氏に一緒に母国に帰ろうと誘う韓国人のイ・ヘナ(イ・ウンウ)。彼氏のアン・チョンス(ロイ[5tion])は、自分はまだ開店資金が足りないから帰れないと話す。「ホステスってそんなに金もらえるのか」「まあね...」
彼女がなぜそんなに早くお金が貯められたのか疑うアン・チョンス。
ふたりの間に気まずい雰囲気が流れる。
あるアパートの一部屋。一匹の魚を分け合い、身を潜める二人。
チャイムが鳴る、男・康夫(松重豊)は押し入れに隠れ、女・里美(南果歩)はメガネをかけ変装する。ふたりは時効寸前のカップルだった・・・「あと38時間、辛抱して」
徹と沙耶は二人乗りして仕事場へ向かう。たわいないもない将来の話をする二人。「徹のホテルでブライダルすると、安くなるんでしょ。」一流ホテルに勤めている徹に楽しげに話しかける沙耶。その時、沙耶の携帯が鳴る。自転車から降りて、電話出ると、それはある人からの誘いだった――。
沙耶を残して、仕事先へ向かう徹。その先は、一流ホテルではなく、新宿歌舞伎町のラブホテルだった―――」
昼
「イ・ヘナは夢をかなえるため、彼氏には内緒でデリヘル嬢をしていた。
『イリヤ(イ・ヘナの源氏名)ちゃん、お願いします』と店長の久保田(田口トモロヲ)に声をかけられ、準備をして客の待つラブホテルへ向かう。
ラブホテル店長・徹は、ある部屋にピザを届ける。 そこではアダルトビデオの撮影準備が行われていた。鏡台の前でヘアメイクをしている女性。徹は鏡越しに気付く。『美優?』鏡の前に座っていたのは、徹の妹(樋井明日香)だった。
別の一室では、イリヤがデリヘル常連客の雨宮(村上淳)の相手をしている。『イリヤちゃん、気持ちいいよ・・・・・・』」
夕方
「キャリーケースを引きづる家出少女・雛子(我妻三輪子)と若い男・正也(忍成修吾)が来店する。久しぶりのお風呂にはしゃぐ少女。男の携帯がしつこく鳴る。出ると、怪しい声。『今、JK、引っ掛けて、ラブホです』。男は風俗に少女を売り飛ばす、スカウトマンだった・・・。雛子は優しい正也に心をひらき始めるが、目覚めると正也の姿はそこには無かった。
チョンスは、彼女のヘナが寝ている間に彼女のバッグを探る。
そして、『イリヤ』と書かれた名刺を見つける。『・・・・・・?』」
夜
「謎の男性(大森南朋)とギターケースを持った女性が来店。徹が受付する。女性はギターケースを持って、どこかで見た服装――。
エレベーター前で顔を確認する。その女性は、彼女の沙耶だった・・・。
空室を待つ不倫の刑事カップル、新城(宮崎吐夢)と理香子(河井青葉)。
待合室からやっと部屋へ案内されるが、そこでホテルの清掃人、里美に声をかけられる。『さっきのおばさん、どこかで見たことある・・・』理香子は気になりながらも、新城と激しく交わる・・・」
そして夜は深くなり、彼らの人生が交錯する。
狂騒劇を経て朝を迎えた時、何を想い、どこへ向かうのか――」
この映画は名画座である小倉昭和館でなければ、絶対に観ることはなかったと思います。わたしは、いつもゴールデンウィークの時期に2本で1100円のこの昭和の香りがする映画館を訪れます。スクリーンが2つあって、それぞれ洋画と邦画が上映されています。今回は洋画ではなく邦画を選びました。「ジャージー・ボーイズ」は未見でしたが、併映のブログ「アバウト・タイム」で紹介した映画をすでに鑑賞していたからです。邦画は「さよなら歌舞伎町」と「百円の恋」の併映でした。
旦過市場での食事が長引いて(というか、注文した焼きうどんが遅かったのでキャンセルして店を出た)、映画館には上映後10分ほどしてから入りました。上映後に入館するなんて、わたしにはあまりないことですが、正直それほど「さよなら歌舞伎町」という作品に期待していませんでした。「元AKBの前田敦子が出る映画」ぐらいにしか思わなかったのですが、いやはやどうして、大変面白い映画でした。前田敦子の出演作はブログ「クロユリ団地」で紹介したホラー映画以来ですが、なかなか良い女優に育っていました。
主演の染谷将太は、あいかわらず演技力がありますね。
彼の演技を初めて観たのはブログ「ヒミズ」が初めてですが、確実に将来の日本映画を背負う存在になると思います。まあ、「ヒミズ」と同じく園子温監督の作品「TOKYO TRIBE」で披露したラップはお世辞にも上手とは言えませんでしたけれど。(苦笑)
この映画は新宿・歌舞伎町のラブホテルを舞台にしたある一日の群像劇ですが、染谷将太が演じる店長の徹をはじめ、そこで働く人々がみんな仕事に「プライド」も「やりがい」も感じていないのが気になりました。反社会的な仕事でない限りは、どんな仕事にだって意味や価値があります。それを見つけてやるのが経営者であり、店長のようなマネージャーではないでしょうか。その徹は一流ホテルのフロントマンに憧れているのですが、彼はシティホテルで働くことには価値を見出しているわけです。まあホテルマンに憧れるキャラクターというのも映画では珍しいですが、わたしは「俺はこんな場所で働くような人間じゃないんだ」とつぶやく徹の姿を見ながら、「自分がラブホの社長だったら、どのようにスタッフに仕事の価値を説くか?」といったことを考えてしまいました。
徹は自分が働くラブホで実の妹や彼女と鉢合わせするという、ちょっと考えられないぐらいの悲惨な目に逢います。その他のエピソードも過剰なリアリズムというか、「現実は甘くない」「生きるとは苦しみである」といった悲惨なものが多いのですが、観客をとことんブルーにさせておいて、最後はちょっとだけハッピーエンド(の予感)を味わわせてくれる映画でした。
最後に、わたしは以前は東京で暮らしていましたし、今でも頻繁に東京に行きますが、歌舞伎町というのは2・3回しか足を踏み入れたことがありません。なんというか、性に合わないのです。もっとはっきり言うと、嫌いなのです。この映画を観て、「やっぱり、歌舞伎町にはあまり行きたくないな」と思ったのでありました。はい。