No.0227
ジブリアニメの「思い出のマーニー」をDVDで観ました。第88回アカデミー賞の授賞式が28日(日本時間29日)に開催されますが、「思い出のマーニー」は長編アニメーション賞にノミネートされています。さて、強敵であるウォルト・ディズニー・スタジオの「インサイド・ヘッド」に勝てるでしょうか? (結局、大方の予想通りに「インサイド・ヘッド」が受賞しました)
ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。
「『借りぐらしのアリエッティ』などの米林宏昌が監督を務め、ジョーン・G・ロビンソンの児童文学を映画化したファンタジーアニメ。北海道を舞台に、苦悩を抱えて生きる12歳の少女杏奈と彼女同様深い悲しみを心に宿すミステリアスな少女マーニーとの出会いを描写する。『ジョーカーゲーム』などの高月彩良と『リトル・マエストラ』などの有村架純が声優を担当。主人公たちの目線で捉えた物語に心打たれる」
また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。
「心を閉ざした少女杏奈は、ぜんそくの療養を目的に親戚が生活している海沿いの村にやって来た。そんなある日、彼女の前に誰もいない屋敷の青い窓に閉じ込められた、きれいなブロンドの少女マーニーが姿を見せる。その出会い以来、杏奈の身の回りでは立て続けに奇妙な出来事が起きるようになるが、それは二人だけの秘密だった」
映画公式HPの「企画意図」には、米林宏昌が以下のように述べています。
「今から2年前、鈴木さんから一冊の本を手渡されました。
『思い出のマーニー』
宮崎さんも推薦しているイギリス児童文学の古典的名作です。
鈴木さんはこれを映画にしてみないかと言いました。
読んでみて思ったのは"映画にするのは難しそうだな"ということでした。 文学作品としてはとても面白く読んだし、感動しました。
ただ、アニメーションとして描くのは難しい内容でした。
物語の醍醐味はアンナとマーニーの会話です。 その会話によって、ふたりの心に微妙な変化が生じていきます。
そこが何より面白いのですが、どうやってアニメーションとして描けばいいのか。少なくとも僕には面白く描ける自信がありませんでした」
また、米林監督は以下のようにも述べています。
「でも、原作を読んでからずっと頭に残るイメージがありました。
美しい湿地に面した石造りの屋敷の裏庭で、
手を取りあって寄りそっているアンナとマーニー。
月光に照らされながらワルツを踊ってもいいかもしれない。
ふたりの気持ちが繋がるその傍らにはいつも、
美しい自然と、心地良い風と、昔馴染みの音楽があります。
僕はイメージ画を何枚か描いているうちに、
この映画に挑戦してみたいと思うようになりました」
さらに、米林監督は以下のように述べます。
「物語の舞台は北海道です。
12才の小さな身体に大きな苦しみを抱えて生きる杏奈。
その杏奈の前に現れる、悲しみを抱えた謎の少女マーニー。
大人の社会のことばかりが取り沙汰される現代で、置き去りにされた少女たちの魂を救える映画を作れるか。僕は宮崎さんのように、この映画一本で世界を変えようなんて思ってはいません。ただ、『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』の両巨匠の後に、もう一度、子どものためのスタジオジブリ作品を作りたい。この映画を観に来てくれる『杏奈』や『マーニー』の横に座り、そっと寄りそうような映画を、僕は作りたいと思っています。
脚本・監督 米林宏昌」
この「思い出のマーニー」は非常にミステリー仕立ての作品です。ラストに驚くべき結末が控えており、それを話すことは絶対に許されません。ストーリーに言及するとネタバレになってしまいますが、非常に幻想的でわたし好みの作品でした。最初は「オカルト」や「スピリチュアル」系の作品かとも思いました。ずばり、ジェントル・ゴースト・ストーリーかと思ったのですが、そうではありませんでした。結論からいうと「記憶」と「血縁」の不思議さを描いた傑作でした。舞台をイギリスから北海道に変えたのも成功しています。イギリスと北海道は緯度が同じですからね。
それから、岩波少年文庫に収められている名作からこの映画が生れたことが感慨深いですね。ブログ『本へのとびら』で紹介した宮崎駿氏の本にも書かれているように、スタジオ・ジブリは岩波少年文庫の影響を強く受けています。たとえば、ブログ「借りぐらしのアリエッティ」の原作は、『床下の小人たち』という岩波少年文庫の一冊です。児童文学をこよなく愛する宮崎氏は「現代の日本は非常に先の見えない状況です。でも、こんな時だからこそ児童文学が重要だ」と述べています。児童文学とは「やり直しがきく話」であり、「人生は再生が可能だ」ということを教えてくれるというのです。
よく言われることですが、「思い出のマーニー」の主人公である杏奈はこれまでのジブリのヒロインとはまったく違うタイプです。深い悩みを抱えていて、他人に対して素直に接することのできない内向的な少女です。わたしにも2人の娘がいるので、いつしか杏奈の父親のような心境になり、心が辛くなりました。杏奈とマーニーがお互いの辛い秘密を打ち明ける場面では泣けて泣けて仕方がありませんでした。そして、最後に杏奈が明るい少女に生まれ変わったときも泣けました。わたし自身の心も洗われた気がします。
わたしはジブリの全作品の中で「となりのトトロ」と「魔女の宅急便」が好きなのですが、この「思い出のマーニー」も新しいジブリの代表作であると思います。それはそうと、東京から引っ越してきた赤い眼鏡の彩香(さやか)は「トトロ」のメイちゃんが成長した姿にしか見えませんでしたね。
アカデミー賞の長編アニメーション賞を逃したのは非常に残念でしたが、すべての少女、そして娘を持つすべての親に観てほしい名作です。